【25-04】中国の高評価さらに顕著に　英教育誌アジア大学ランキング

小岩井忠道（科学記者）　2025年05月01日

　英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション（THE）」は4月23日、中東を含むアジア地区の大学ランキングを発表した。清華大学が7年連続で1位、北京大学が6年連続で2位を維持したのをはじめ、中国の大学の高評価がさらに目立つ結果となっている。過去30年間にわたり、成長を続ける一流大学に多額の資金を継続的に提供してきた中国政府の一連の取り組みが大きな成果を挙げている、とTHEは評価している。

上位10位に中国本土大学5校

　清華大学、北京大学に続く3位と4位にはシンガポール国立大学、南洋理工大学のシンガポールの大学が前年と同じく入った。5位東京大学、6位香港大学も前年と同じ順位。以下7位（前年8位）復旦大学、8位（同9位）浙江大学、9位（同10位）香港中文大学、10位（同7位）上海交通大学と、上位10位は順位にわずかの変化があったものの顔触れは変わらない。半数を中国本土の大学が占めているのも前回同様だ。

　上位100位内の数を見ると、中国が32校、韓国16校、日本10校、香港6校、台湾6校、サウジアラビア5校、アラブ首長国連邦4校、イラン4校、トルコ4校、イスラエル3校、マレーシア3校、シンガポール2校、マカオ2校、インド1校、カタール1校、レバノン1校となっている。中国の多さが目立つが、THEはこれら上位大学に限らず全体として中国の大学が評価を上げている結果に注意を促している。今回のランキングには35カ国・地域の853の大学が順位付けされているが、中国は順位付けされた94校中25校がこれまでで最高の順位を得ていることも注視している。

「アジア大学ランキング2025」上位100大学

（Times Higher Education Asia University Rankings 2025, Times Higher Education Asia University Rankings 2024, Times Higher Education Asia University Rankings 2023, Times Higher Education World University Rankings 2025から作成：＝は同順位の存在、―は順位外を示す） 編集者注：東京工業大学と東京医科歯科大学は2024年10月1日に統合し、東京科学大学と名称変更
アジア 順位	前年 順位	前々年 順位	THE世界大学 ランキング2025順位	大学名	国・地域
1	1	1	12	清華大学	中国
2	2	2	13	北京大学	中国
3	3	3	17	シンガポール国立大学	シンガポール
4	4	5	30	南洋理工大学	シンガポール
5	5	8	28	東京大学	日本
6	6	4	35	香港大学	香港
7	8	＝9	＝36	復旦大学	中国
8	9	12	＝47	浙江大学	中国
9	10	6	44	香港中文大学	香港
10	7	＝9	52	上海交通大学	中国
11	11	15	＝53	中国科学技術大学	中国
12	12	7	66	香港科技大学	香港
13	13	18	55	京都大学	日本
14	16	19	65	南京大学	中国
15	14	11	＝62	ソウル大学	韓国
16	15	16	78	香港城市大学	香港
17	18	17	82	ＫＡＩＳＴ（韓国科学技術院）	韓国
18	19	14	＝84	香港理工大学	香港
＝19	22	24	＝102	成均館大学	韓国
＝19	17	13	＝102	延世大学ソウルキャンパス	韓国
21	20	34	120	東北大学	日本
22	27	41	＝154	同済大学	中国
23	24	55	＝152	ハルビン工業大学	中国
24	21	22	151	浦項工科大学	韓国
25	＝30	26	＝134	武漢大学	中国
26	＝34	42	＝146	北京師範大学	中国
＝27	＝30	27	＝189	高麗大学	韓国
＝27	28	47	162	大阪大学	日本
29	25	25	＝166	華中科技大学	中国
30	26	＝29	＝172	国立台湾大学	台湾
31	37	＝29	＝176	キング・ファハド石油鉱物資源大学	サウジアラビア
＝32	＝34	＝61	201－250	天津大学	中国
＝32	29	56	195	東京工業大学	日本
34	36	37	＝180	マカオ大学	マカオ
＝35	23	＝29	201－250	四川大学	中国
＝35	46	23	251－300	南方科技大学	中国
37	40	＝45	251－300	カリファ大学	アラブ首長国連邦
＝38	32	48	201－250	インド理科大学院	インド
＝38	33	21	201－250	蔚山科学技術大学	韓国
40	47	＝92	201－250	北京理工大学	中国
41	39	＝95	201－250	西安交通大学	中国
42	38	32	201－250	テルアビブ大学	イスラエル
＝43	43	＝57	251－300	漢陽大学	韓国
＝43	＝52	63	201－250	ペトロナス工科大学	マレーシア
＝45	49	91	251－300	北京航空航天大学	中国
＝45	42	＝35	251－300	慶熙大学	韓国
47	44	44	201－250	中山大学	中国
＝48	41	＝49	201－250	名古屋大学	日本
＝48	45	＝57	251－300	華南理工大学	中国
50	63	105	251－300	香港浸会大学	香港
＝51	51	90	251－300	西北工業大学	中国
＝51	50	39	201－250	世宗大学	韓国
＝51	48	＝78	301－350	東南大学	中国
54	＝52	28	201－250	カタール大学	カタール
55	＝58	40	251－300	アラブ首長国連邦大学	アラブ首長国連邦
56	＝58	＝69	251－300	華東師範大学	中国
57	＝58	＝35	251－300	マカオ科技大学	マカオ
58	55	＝61	201－250	南開大学	中国
59	73	＝78	251－300	南方医科大学	中国
＝60	81	67	301－350	湖南大学	中国
＝60	97	38	251－300	キング・サウード大学	サウジアラビア
62	＝52	108	301－350	九州大学	日本
63	66	＝86	301－350	電子科技大学	中国
64	65	66	251－300	マラヤ大学	マレーシア
65	＝58	―	351－400	大邱慶北科学技術院	韓国
66	＝56	33	301－350	中国医薬大学	台湾
67	77	81	301－350	アモイ大学	中国
68	62	94	401－500	光州科学技術院	韓国
69	＝56	64	301－350	シャリーフ工科大学	イラン
＝70	89	59	＝191	アブダビ大学	アラブ首長国連邦
＝70	68	＝119	351－400	アミール・キャビール工科大学	イラン
＝72	＝69	89	351－400	中東工科大学	トルコ
＝72	64	85	401－500	国立陽明交通大学	台湾
＝74	＝71	＝137	401－500	国立台湾科技大学	台湾
＝74	＝75	76	351－400	サバンジュ大学	トルコ
76	86	＝124	301－350	イスラエル工科大学	イスラエル
77	＝79	74	351－400	イラン科学技術大学	イラン
78	78	＝166	401－500	大連理工大学	中国
79	＝69	52	351－400	コチ大学	トルコ
80	67	＝119	401－500	重慶大学	中国
81	74	123	401－500	中央大学	韓国
＝82	＝75	＝49	301－350	エルサレム・ヘブライ大学	イスラエル
＝82	＝79	＝134	351－400	北海道大学	日本
＝82	＝71	＝95	401－500	国立清華大学	台湾
85	88	＝71	351－400	深圳大学	中国
86	85	＝161	401－500	マレーシア工科大学	マレーシア
87	82	＝131	351－400	筑波大学	日本
88	96	＝45	301－350	シャルジャ大学	アラブ首長国連邦
89	―	―	251－300	プリンス・モハメド・ビン・ファハド大学	サウジアラビア
90	95	＝183	401－500	上海大学	中国
91	87	＝177	501－600	慶北大学	韓国
92	＝176	＝126	251－300	レバノン・アメリカン大学	レバノン
93	107	191	501－600	建国大学	韓国
＝94	83	43	401－500	台北医科大学	台湾
＝94	90	112	401－500	東京医科歯科大学	日本
96	127	251-300	301－350	キング・ハリド大学	サウジアラビア
＝97	92	＝149	501－600	イスタンブール工科大学	トルコ
＝97	100	＝157	401－500	テヘラン大学	イラン
＝99	84	20	351－400	キング・アブドゥルアズィーズ大学	サウジアラビア
＝99	93	251-300	501－600	釜山大学	韓国

過去30年の高等教育政策成果

　中国の大学が評価を高めている理由としてTHEが指摘するのは、「211工程」「985工程」から現在の「双一流」に至る一連の高等教育政策の成果だ。1995年に始まった「211工程」は21世紀に向け100程度の重点大学と重点学科をつくるプロジェクトで、112の大学が「211工程大学」に指定された。1998年から始まった「985工程」は、特に選び抜いた大学を世界一流大学として成長させることを目的としたプロジェクト。「211工程大学」のうち39の大学が「985工程大学」に指定された。

　これら二つのプロジェクトを引き継いだ形で2017年に始まったのが「双一流」プロジェクト。世界一流大学と世界一流学科をつくる政策をさらに強化し、現在、147の大学が指定されている。成長を続ける一流大学群に明確な目標を示し、多額の資金を継続的に提供してきたこうした過去30年間にわたる一連の取り組みによる成果が、大学ランキングでの急激な躍進ももたらした、とTHEは見ている。

　前回同様、シンガポール国立大学と南洋理工大学が3、4位を維持したシンガポールについても、手厚い資金や質の高い教授陣など中国と同様の政策が高い評価につながった、と評価している。一方、2017年に意欲的な大学強化政策を始めたものの成果が見られないインドの例を詳しく紹介するなど、アジア地域の他の国・地域が中国やシンガポールほどの成果を挙げていない現状も明らかにしている。

研究の質、産業界への貢献重視の評価法

　THEは、毎年さまざまな大学ランキングを公表している。毎年この時期に公表されるアジア大学ランキングは、前年の秋に公表される世界大学ランキングと評価手法はほぼ変わらない。教育（学習環境）、研究環境、研究の質、国際性、産業界からの収入（知識の移転）の五つの指標をさらに細分化した18項目で評価しているのは両ランキングとも同じ。ただ、世界大学ランキングの評価手法が一昨年、一部変わったのに伴い、アジア大学ランキングの評価法も前年から変わった。研究の質に関する評価法で、大学が生み出した論文が他の研究者にどれだけ引用されているかを単に数えるだけでなく、被引用数が上位10％に入る論文数を比較するなど研究の卓越性、重要度などを重視している。

　さらに、イノベーション、発明、コンサルティングで産業界を支援するという大学の使命を特に重視しているのもアジア大学ランキングの特徴。大学の研究が引用された特許の数が評価に初めて取り入れられるなど、大学が産業界から得ている研究収入に加え、大学が技術移転を通じてどの程度、国の経済を支えているかについてより重視する評価法となった。世界大学ランキングと比べると教育（学習環境）に対する配点比率がやや低く、産業界からの収入（知識の移転）に対する比率が高い。5つの評価指標の配点比率は、教育（学習環境）24.5％（世界大学ランキングは29.5％）、研究環境28.0％（同29.0％）、研究の質30.0％（同30.0％）、産業界からの収入（知識の移転）10.0％（同4.0％）、国際性7.5％（同7.5％）、となっている。

順位向上少ない日本の大学

　アジア大学ランキングの評価法の変更は、日本の大学の評価にも有利に働き、前回は上位100位内に前々回より4校多い10校が入るという結果となった。今回も同じ顔触れの10校が100位内に入ったが、前回より順位を上げたのは大阪大学27位（前回28位）のみ。東京大学5位と京都大学13位は前回と同じ順位を維持したものの、東北大学21位（同20位）、東京工業大学32位（同29位）、名古屋大学48位（同41位）、九州大学62位（同52位）、北海道大学82位（同79位）、筑波大学87位（同82位）、東京医科歯科大学94位（同90位）は軒並み順位を下げている。

関連サイト

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Asia University Rankings 2025」

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Asia University Rankings 2024」

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Asia University Rankings 2023」

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2025」

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