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【15-005】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(22)

2015年 2月25日

金 振

金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー

1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職

 中国の石炭火力発電小売価格は、規制強化や環境・健康被害などに起因する外部コストを十分反映していないため、実際より低く見積もられている。環境規制の強化に伴う電力価格の上昇がささやかれる中、如 何に成長につながるような対中国戦略を練るか、は日本企業が直面する共通課題である。

(7)石炭消費総量削減対策

 中国における石炭消費量削減対策は、大気汚染対策の根幹政策であると同時に、省エネ政策や気候変動政策、産業振興政策の中心でもある。中央政府は規制と補助金、いわば「飴と鞭」を両手に、積 極的に石炭消費量削減政策を推進している。その波及効果として、中国では低公害、省エネに軸を置いた産業イノベーションが急速に進んでおり、関連マーケットの成長も著しい。本シリーズ22号以降は、石 炭消費量削減対策について体系的に解析することによって、変わりつつある「等身大」の中国を日本に伝えたい。

中国の石炭依存度

1978年から2013年まで、中国のエネルギー需要はおよそ7倍に拡大した(図1)。中国のエネルギー構成を見た場合、全体エネルギー消費量の6割~7割は石炭が占めており、その依存度は35年間の間、ほ とんど変わっていない(図1)。

図1 中国石炭消費量および石炭依存度の暦年変化

典拠:中華人民共和国国家統計局編『中国統計年鑑2014年』9-2「能源消費総量及構成」をもとに金が作成。
http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/2014/indexch.htm
 

「石炭は安い」という神話の崩壊

 中国経済は石炭に大きく依存している。石炭は最も安価なエネルギー源であることがその理由としてよく挙げられる。2012年における中国全体石炭消費量は35.3億トンであり、そのうち、発 電部門の消費量だけで全体の50.7%を占める(典拠:図1同様)。

 石炭価格を570元/トンと仮定し、火力発電省エネ基準400g/Wに基づいて計算した場合、火力発電の燃料コストは0.22元/kWhである。燃 料タイプ別の平均発電卸値価格についてまとめた表1に照らした場合、火力発電の燃料コストは、平均卸値0.45元/kWhの半分を占める計算になる。

表1

表1 燃料タイプ別電力卸値

出典:Dunnan Liu, et al. (2014) Research Electricity Production Costs and External Compensation Mechanism, Journal of Power and Energy Engineering, 2, 94-102
file:///Users/jinz/Downloads/JPEE_2014041611251043.pdf

 しかし、最近の研究では、燃料コストに加え、汚染物質削減対策費用など規制コストを計算にいれた場合、1kWあたりの石炭火力発電コストは、卸値の倍以上に膨れ上がると指摘する。例えば、2014年、D unnan Liu氏らの研究は、1000MW級、600MW級、300MW級火力発電設備の規制コストを、それぞれ、0.29元/kWh、0.38/kWh、0.58/kWhと試算した。こ こに燃料コストを上乗せた場合、発電コストはそれぞれ0.51/kWh、0.60/kWh、0.80/kWhとなり(表2)、いずれも卸値を超える。

 同じく2014年、清華大学のTeng Fei氏は、石炭が自然環境および市民の健康に与える悪影響(以下、環境・健康被害コスト)について経済分析を行い、石炭の生産、輸送、消費プロセスにおける環境・7 7 B B 7 7 健康被害コストを260.2元/トンと見積もった。この結果を踏まえた場合、1kW当たりの環境・健康被害コストは0.9元/kWになる。

 このような試算結果を踏まえ、燃料コスト、規制コスト、環境・健康被害コストを考慮した場合、石炭火力発電の全体コストは、最大で卸値の2.2倍に相当するという結論に至る(表2)。中 国の石炭火力発電小売価格は、規制コストや環境・健康被害コストなどの外部コストが十分反映されていないため、実際より低く見積もられていることが分かる。

企業への影響

 中国にすでに進出している、あるいはこれからの進出を考えている日本企業にとって、様々な経営リスクについて中長期の評価、予測を行う必要がある。種々のリスク評価指標のうち、電 力価格の中長期予測はとりわけ重要である。中国の電気料金の小売価格は、地方政府の政策意向に大きく依存しており、また、地域ごとの電源構成や産業構造が異なるため、中長期予測のハードルは高い。既 存の電気料金には、すでに環境規制負担金(SO2やNOxの除去費用を電気料金に反映させる制度)やFIT上乗せ金(太陽光発電等固定価格買取制度)、ピーク時電気加算料金などの外部コストが反映されている。中 国政府による環境規制が強化されつつある現状に鑑みた場合、環境コスト増による電力価格の上昇は避けられないかもしれない。

 電力価格における環境コストの増加は、様々な環境技術のニーズを呼び起こすだけでなく、関連投資やマーケットの活性化を促す波及効果もある。事実、中国政府は、莫大な補助金のもと、環 境規制と産業振興政策を両立させる国づくりを進めている。日本企業は、中国の環境規制の流れを読みつつ、時代にあった対中ビジネス戦略にシフトする必要がある。

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