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【12-002】中国刑事法の概要(Ⅰ)刑法

屠 錦寧(中国律師(弁護士))  2012年 5月 11日

 中国の刑事法は、刑法、刑事訴訟法、監獄法等の分野を含んでいる。犯罪と刑罰を定める刑法、犯罪に対する捜査、裁判、刑罰の執行を定める刑事訴訟法について、紹介していきたい。初回は刑法を取り上げる。

1.刑法体系

 中国の刑法体系は、刑法典、単行刑法、立法解釈、司法解釈等によって構成されている[i]。現行刑法典(以下「現行刑法」という。)は1997年10月1日に施行され、その後、社会情勢の変化や新たな社会問題に対応すべく、主に改正法の形で修正が行われてきた。改正の内容は、総論の修正、犯罪種類の新設、罪の構成要件または法定刑の調整等を含め、多岐にわたる。

 現行刑法は、全10章、452条からなり、総則編と各則編に大きく分かれている。総則は、各犯罪に共通する性質に焦点をあてているのに対して、各則は、個々の犯罪の内容(構成要件)と刑罰の種類・範囲を定めている。

2.刑法の基本原則

 現行刑法は、「罪刑法定主義」、「平等の原則」、「罪刑均衡の原則」を基本原則として定めている。「罪刑法定主義」とは、法律が明文で犯罪行為と規定するときは、法律により罪を認定し、処罰するが、法律が明文で犯罪行為と規定していないときは、罪を認定し、処罰してはならない、ということである(3条)。「平等の原則」とは、何人による犯罪に対しても、法律の適用は一律平等でなければならないということである(4条)。「罪刑均衡の原則」とは、刑罰の軽重は、犯罪者の罪およびその負うべき刑事責任と相応しなければならないということである(5条)。

3.刑法の適用範囲

 現行刑法は、適用範囲に関して、①自国の領土内においては自国の刑法を適用するという「属地主義」(6条)の考え方を中心に、②自国民が外国で自国の刑法を犯した場合に、自国の刑法を適用するという「属人主義」(7条)、③外国で行われた自国・自国民の利益を侵害する行為に対して自国の刑法を適用するという「保護主義」(8条)、そして④行為地、行為者、被害者を問わず、広く自国の刑法を適用しようとする「普遍主義」(9条)を補充的に取り入れている。

 また、現行刑法10条によれば、外国において裁判を受けたとしても、同一の行為について中国の刑法に基づいて刑事責任を追及することができるとされている。外国で言い渡された刑の執行を受けた者は、刑の執行が免除または減軽される。

 現行刑法は、罪を犯したすべての者に適用されるが、国際法上の例外として、外交特権および免責権を有する外国人の刑事責任については外交ルートを通じて解決すると規定している(11条)。

4.犯罪の一般原理

 現行刑法上の犯罪は、社会に大きな危害を及ぼし、法に基づいて刑を受けなければならないすべての行為であると定義されている(13条)。行為により客観的に損害が生じていても、行為者の主観的違法要素(故意または過失)が欠如していれば、犯罪ではない(16条)。また、刑事責任能力について、行為者は、行為時に16歳(一部の罪について14歳)未満の少年であれば、刑事責任を負わない(17条)。また、行為者は精神の障害により自身の行為について弁識能力または制御能力が欠如していれば、責任無能力と判断されることになる(18条)。行為者は、現に発生している不法な侵害または危険から自己または他人の権利を守るために損害を生じたさせた場合、その行為が正当防衛・緊急避難と認められ、刑事責任を負わないとされている(20条、21条)。なお、現行刑法は、18歳以下の未成年者、75歳以上の高齢者、視覚・言語聴覚障害者等について軽罰・減刑等の規定を設けている。

 現行刑法は、主に犯罪が既遂の段階に達している場合を処罰の対象とするが、一定の犯罪について、未遂の段階または予備の段階まで処罰するとしている(22条~23条)。中止犯については損害が生じた場合刑罰を減軽し、損害が生じなかった場合処罰を免除しなければならないとされている(24条)。

 現行刑法は2人以上の者が共同して故意により行った共同犯罪の場合について、関与の仕方(役割)に応じて処罰に軽重を設けている(25条~29条)。刑法でいう行為主体は、明文で法人その他の組織体を処罰するものもある。その場合には、組織体に対して罰金を科すほか、その直接責任を負う主管者またはその他の直接責任者を処罰する両罰規定を設けている(31条)。

5.刑罰の種類

現行刑法に定められている刑罰の種類は、全部で8種類ある。

主刑 付加刑
1. 管制(3カ月以上2年以下、言論、出版、集会等の権利行使が制限される。)
2. 拘役(1カ月以上6カ月以下の自由刑)
3. 有期懲役(6カ月以上15年以下)
4. 無期懲役
5. 死刑(犯行が極めて重い犯罪者を除き、原則死刑判決と同時に2年の死刑執行猶予判決を受ける。)
6. 罰金
7. 政治的権利の剥奪
8. 財産の没収
※付加刑は、主刑に付加して言い渡されるが、単独で言い渡すこともできる(34条)。

 なお、罪を犯した外国人に対して、上記刑罰に加えて国外追放を適用することもある(35条)。

6.刑罰の適用

 犯罪者への刑罰の決定(量刑)は、犯罪の事実、性質、情状および社会に対する危害の程度に基づいて、各則が定める刑の種類および範囲により行う必要がある。法に定める情状があれば、法により法定刑の限度内で重くあるいは軽く刑を科し、または法定刑より一級重いあるいは低い法定刑で刑を科すことになる(62条、63条)。累犯の場合は刑を重くしなければならない。これに対して、自首の場合や功績を上げた場合は法定刑の限度内で軽く刑を科し、法定刑より減軽しまたは刑を免除することができる。

 一人で複数の罪を犯した場合の刑罰は、死刑または無期懲役があれば、他の刑を吸収して執行されるが、それ以外の場合、それぞれの罪に対する刑罰のうち最も重い刑期以上で合計刑期以下の範囲において、情状を酌量し刑期を決定する(69条)。当該刑期は、刑罰種類によって管制3年、拘役1年、有期懲役25年(合計刑期が35年未満の場合は20年)という上限が設けられている。付加刑は同種の場合併合して執行し、種類が違う場合、別々に執行する。

 犯罪者に対して、一定の要件を満たしたと認められた場合、刑罰(付加刑を含まない。)の執行を猶予することもある。執行猶予には、死刑執行猶予(48条)と軽罪(拘役・3年以下の有期懲役)の執行猶予(72条)がある。両者の適用要件、猶予期間および期間満了の効果等は異なる(50条、51条、73条~77条)。

 刑罰の執行期間中に、犯罪者が確実に改悛しまたは功績を上げたときは所定の要件と手続を満たしたうえ減刑(78条)・仮釈放(81条)を受ける可能性もある。

7.訴追時効

 犯罪は、一定の期間を過ぎると追訴できなくなる(87条)。

法定刑 時効
最高刑が5年未満の有期懲役 5年
最高刑が5年以上10年未満の有期懲役 10年
最高刑が10年以上の有期懲役 15年
最高刑が無期懲役または死刑 20年

 訴追時効の起算点について、通常は犯罪日、連続犯・継続犯の場合は犯罪行為の終了日から起算する。また、捜査または裁判から逃亡した場合や被害者が告訴したが捜査機関が立件すべきであるにもかかわらず立件しなかった場合は、上記時効の制限を受けない(88条)。

8.各則における犯罪の種類

 各則における個別の犯罪は、①国家の安全に危害を及ぼす罪、②公共の安全に危害を及ぼす罪、③社会主義市場経済の秩序を破壊する罪、④国民の身体の権利および民主的権利を侵害する罪、⑤財産を侵害する罪、⑥社会管理の秩序を乱す罪、⑦国防利益に危害を及ぼす罪、⑧横領賄賂の罪、⑨汚職の罪、⑩軍人の職責違反の罪に分類されている。


[i]法律条文の日本語訳は、甲斐克則・劉建利訳『中華人民共和国刑法』(成文堂、2011年)を主に参照した。

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屠 錦寧(Tu Jinning)

1978年生まれ。中国律師(中国弁護士)。アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。京都大学大学院法学研究科法政理論専攻博士課程修了(法学博士)。一般企業法務のほか、外国企業の対中直接投資、M&A(企業の合併・買収)、知的財産、中国国内企業の海外での株式上場など中国業務全般を扱う。中国ビジネスに関する著述・講演も。
 


【付記】

 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。