中国の法律事情
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【13-004】外国企業による中国企業の買収(その4)

2013年 4月23日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

(四)上場会社の買収規制

 中国の上場企業の数は、企業全体の数に比べて非常に少ないといえます。こうした状況の中でも、外国企業による中国上場企業への資本参加又は買収取引は、中国の資本市場が発足した1990年代前半からも実例が出ていました。但し、従来の事例は、中国の資本市場における各種規制がまだ整備されていない段階で行われたこともあり、現時点ではあまり参考にならないものが大半です。中国資本市場における買収取引に関する各種規制が整備されたのは、2006年に公布された「上場会社買収管理規則」(中国証券監督管理委員会、2006年5月17日制定、同年7月31日公布、同年9月1日施行、2008年と2012年に二度にわたり改正)がその象徴的な規定であると言われています。

 外国企業が中国の上場会社を買収しようとする際には、資本市場に関する規制と、上場会社に投資する場合の特殊な外資規制を遵守する必要があります。資本市場に関する規制の中で最も重要なのは、「上場会社買収管理規則」等で定められている上場会社の公開買付規制です。他にも、大量保有開示規制、関連取引規制、インサイダー取引規制等もチェックする必要があります。上場会社関連の特殊外資規制には、「外国投資家の上場会社に対する戦略投資管理規則」(商務部、中国証券監督管理委員会、国家税務総局、国家工商行政管理総局、国家外貨管理局制定、2005年12月31日公布、2006年1月31日施行)で定める規制があります。

一、公開買付規制

①強制的公開買付及び任意公開買付

 中国法上、取引方法の如何に関わらず(すなわち、証券取引市場における取引(一般市場取引と時間外の大量売買取引等)、市場外での相対取引、第三者割当増資、又は間接買収(上場会社の株式を直接取得するのではなく、上場会社の株主の持分を取得することにより、間接的に上場会社に投資する方法)のいずれかを問わず)、上場会社の30%以上の株式を取得する場合は、公開買付けを行わなければなりません(「上場会社買収管理規則」第24条、第47条、第56条等)。これを一般的に強制的公開買付けと言います。強制的公開買付けの場合は、一般的に、全ての株式に対して買付けを行わなければなりませんが、例外的に、一部の株式に対して公開買付けを行う場合もあります(「上場会社買収管理規則」第23条)。強制的公開買付け以外にも、中国法上は、任意公開買付けという概念もあり、強制的に買付けを行う義務がない当事者が、任意により公開買付けを行うことを指します。また、任意公開買付けの場合は、上場会社の全ての株式に対して買付けを行うこともできれば、一部のみに対して買付けを行うことができます。

 中国の上場会社の中には、人民元で表示されるA株のみではなく、中国国内で上場されているが外貨が表示されているB株、香港の株式市場で上場されているH株を発行している会社もあります。公開買付け制度における各基準値(30%、5%など)を計算する際には、A株のみを見るのではなく、A株、B株とH株を合わせて全体の発行株式をベースにするため、香港においてH株を買収する場合でも、中国法上の強制的公開買付けの規則に基づいて、当該会社のA株に対しても公開買付けを行わなければならない可能性があります。

②最低買付価格

 強制的公開買付けか任意公開買付かを問わず、公開買付けを行う以上は、公開買付けの開始公表日前6ヶ月以内に買付者が公開買付けの対象となる株式を取得するために支払った最高価格を下回ってはならないとの最低買付価格規制に適合しなければなりません(「上場会社買収管理規則」第35条)。従って、主要株主との相対取引で高い値段で一定比率の株式を取得してから6ヶ月以内に、当該価格より低い価格で公開買付けを行うことはできません。但し、一定程度市場価格を参考にしながらも、当事者間の約束に基づいて買収価格を決める自由を与えるべきとの主張が多いことから、上記のような公開買付け価格の決め方から、ある程度当事者の意思自治を高め、評価会社等の資産評価価格及び株価を参考にしながら、当事者間で買収価格を決めることを認める方向に法改正がなされる予定であるとの情報もあります。

③買付の上限(買付予定数)と下限(最低応募条件)

 一部の株式に対して公開買付けを行う場合でも、買付予定数を少なくても5%以上に設定することが要求されます(「上場会社買収管理規則」第25条)。一方で、任意的公開買付けの場合、最低応募数条件を設定することが可能で、例えば、75%又は90%以上が応募することを条件とすることができます。

④公開買付スケジュール

 公開買付けには、50日~80日程度の期間が必要になります。これは、公表の15日以上前に中国証券監督管理委員会に対して、公開買付報告書等の関連資料を提供することが要求されていること、公表後、上場会社の董事会報告書と独立財務顧問の専門的意見を開示する必要があること、買付期間は30日から60日以内でなければならないこと等により、一定の期間を必要とするためです。

二、上場会社に対する戦略投資規制

 外国企業が直接中国上場会社の株式を取得する場合、例えば、市場においてA株を徐々に買い集める方法は認められていません。これは単にA株は人民元で標記され、人民元で取引されていることから、外国企業が中国証券市場において人民元口座を開設できないとの外貨管理規制に基づくものだけではありません(なお、外国の適格機関投資家(QFII)については、例外的に中国国内の証券市場に投資することを認めていることから、QFIIを通じて間接的に中国の上場会社に投資するスキームも理論上可能です)。「外国投資家の上場会社に対する戦略投資管理規則」により、外国企業は、相対取引、公開買付け又は第三者割当増資の方法により、少なくとも10%以上の株式を取得しなければならず、また、取得した株式を最低3年間保有しなければなりません(同規則第5条)。他にも如何なる外国企業も中国の上場企業に投資することが認められるわけではなく、正味資産総額が1億米ドルを下回らないこと(又は管理する正味資産総額が5億米ドルを下回らない)等、投資家の条件についても、規制がある点に留意が必要です。