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【23-04】中国、韓国に後れ取る心配増加 人的国際交流調査で判明

小岩井忠道(科学記者) 2023年01月20日

 重要な論文数などから指摘される日本の科学技術力の低下を懸念する日本人ほど、中国や韓国が一部の製品開発で日本を凌駕している現状を心配している。こうした実態が、文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査で明らかになった。7割を超す日本人が科学技術での日本の地位低下を心配しており、このうちの7割以上が、IT(情報技術)など製品開発で日本が中国や韓国に後れを取っていることを心配している。一方、どの地域と科学技術分野での人的交流を重点的に進めるべきかについては、北アメリカ(米国、カナダ)を挙げる人が33%と最も多く、中国4%、韓国2%とだいぶ差がある実情も示されている。

科学技術力懸念者の心配増す

 12日公表された報告書「科学技術に関する国民意識調査」は、科学技術・学術政策研究所が科学技術に関する国民意識データの収集を目的に2009年から毎年実施している。毎回、繰り返し調査する基本的な項目のほかに、特定のテーマも付加した調査となっており、今回は人的国際交流をテーマに国民の見方を調べた。対象は、インターネット調査会社にモニター回答者として登録されている15~69歳、計6,600人。5歳刻みの11の年齢層、各男女同数600人から成る。インターネット調査という手法で2022年10月に実施された。

 重要論文数などの比較から日本の科学技術における地位が国際的に低下していると報道されていることについて聞いた質問に対しては、「心配している」「どちらかというと心配している」を合わせた答えが男性75%、女性72%といずれも7割を超えた。中国や韓国が製品開発において日本を凌駕している分野(ITなど)がある現状についての質問に対する答えもまた、「心配している」あるいは「どちらかというと心配している」とする男性が74%、女性73%と同様の結果となっている。

 さらにこれら二つの結果の関連度合いを調べるクロス調査では、論文数などで示されている日本の地位低下を心配している人の72%が、中国や韓国に製品でも負けている分野があることを「心配している」と答え、11%が「どちらかというと心配している」と答えていることが分かった。

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(科学技術・学術政策研究所「「科学技術に関する国民意識調査―人的国際交流について」から」

重要論文数で続く日本の低迷

 研究力比較の主要な指標になっている重要論文の数については、近年、多くの報告がある。昨年8月に科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2022」では、他の研究者から論文が引用された回数が該当する専門分野で上位10%に入るTop10%論文数(2018-~2020 年の平均)で、日本は世界12位。引用された回数が上位1%に入るTop1%論文数(同)では、10位となっている(いずれも分数カウント法による)。前年に比べると、Top10%論文数で二つ、Top1%論文数でも一つ順位を下げた。

 すでに前年にTop10%論文数で米国を追い抜き1位となっていた中国は、Top1%論文数でも米国を抜き1位。韓国はTop10%論文数で日本を追い抜き11位、Top10%論文数でも12位に浮上し、10位の日本に迫っている。今回の調査結果は、こうした現状と、製品開発の分野でも中国、韓国に追い抜かれつつある現状を重ね合わせて心配する日本人が増えていることを示す結果となっている。

経済安全保障の捉え方不明確

 今回の調査では、日本政府の主要政策になっている経済安全保障に対する考え方も聞いている。対照的な二つの捉え方を示して、考えを問うという手法だ。「日本の技術が海外で軍事技術に活用される懸念がある以上、経済安全保障の考えは理解できる」との見方に同意したのは33%(男性39%、女性27%)。「科学技術交流は研究者同士が自由に実施すべきものであり、経済安全保障の考えにより特定の国との科学技術交流に制約がかかることについては懸念がある」との見方には25%(男性27%、女性24%)が同意している。

「その他」と答えたのは男女とも2%しかいないから、経済安全保障に対する見方は大きく二分されているようにみえる。しかし、「分からない」が40%(男性32%、女性48%)もいる。さらに別の質問項目である「経済安全保障についての日本の取り組みについてあなたは御存知でしょうか」に対して、「知らない」「どちらかというと知らない」という人を合わせると75%(男性68%、女性84%)に上る。経済安全保障に対する多くの日本国民の考え方はまだ確たるものにはなっていないようにみえる。

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(科学技術・学術政策研究所「科学技術に関する国民意識調査―人的国際交流について」から)

 中国との人的交流の今後は?

 経済安全保障が政府の重要政策になった理由が、中国に対する警戒感の高まりにあるのは明らかだが、中国との人的交流についてはどのような結果が見て取れるか。まず、目を引くのは「人的国際交流を進める上で、どの地域の国々との交流に、最も重点を置くべきか」を聞いた調査結果。北アメリカ(米国、カナダ)が最も多く33%(男性40%、女性27%)だったのに対し、中国は4%(男性5%、女性4%)にとどまる。韓国の2%よりは多いものの、西ヨーロッパの8%、中国・韓国以外のアジア(中近東も含む)の6%より下だ。

 人的国際交流は重点的に実施すべきかどうかを聞いた別の問いに対する答えは、「重点を置くべきだ」と「どちらかといえば重点を置くべきだ」を合わせると63%(男性66%、女性60%)。人的国際交流を重視する人々にとってはまずまずの結果に見えるだけに、重点を置くべき交流の相手国として中国が4%と低位にとどまるのが目を引く。

 一方、人的国際交流を進めることについて重点を置くべきだと答えた人たちが、どの地域の国々との交流に、最も重点を置くべきかを調べた結果からはまた別の姿が見える。中国を「重点を置くべきだ」「どちらかといえば重点を置くべきだ」とする人は75%に上る。この結果は、西ヨーロッパ78%、韓国77%、中国・韓国以外のアジア77%、北アメリカ(米国、カナダ)75%とほとんど変わらない。

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(科学技術・学術政策研究所「科学技術に関する国民意識調査―人的国際交流について」から)

 日本の中国への対応は、中国と米国の関係が政治、経済両面で厳しさを増し、その他の国々にみられる中国に対する警戒心の高まりにも大きな影響を受けている。昨年5月には、中国との科学技術協力にも大きな影響を及ぼす経済安全保障推進法が成立、交付された。同法には国民の生存や経済活動に大きな影響があり安定供給を確保する必要があるとする特定重要物質の指定や、安全保障上機微な発明の特許の公開や流出を防止する規制などが盛り込まれている。昨年12月20日には、同法に基づき安定供給を図る特定重要物質として半導体、重要鉱物、工作機械・産業用ロボット、航空機部品、抗菌性物質製剤など11品目の指定が閣議決定されている。

 こうした厳しい状況においても、日中間の連携を進めるべきだとする声が民間機関や研究者から聞かれる。日本の株式会社野村総合研究所は中国のシンクタンク中国信息通信研究院産業規画研究所と昨年11月、日中両国のデジタル産業が異なる領域でそれぞれ持つ優位性を補完し合い、それぞれの強みを活かした協力が可能とする共同研究結果を公表した。高齢化や気候変動など協力が可能な国内・国際的課題を挙げ、今後、民間の友好団体を中心に対話と交流のメカニズムを構築することや、そのために必要な政府の対応として、企業認証の仕組みづくりなどを提言している。

関連サイト

科学技術・学術政策研究所「科学技術に関する国民意識調査 -人的国際交流について-[DISCUSSION PAPER No.218]の公表について

科学技術・学術政策研究所 科学技術・学術政策研究所 ライブラリ「科学技術指標2022

野村総合研究所 お知らせ「野村総合研究所、中国信息通信研究院と行った共同研究の成果を公表

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