【24-45】日本に好印象持つ中国人12.3% 急激な悪化示す日中共同世論調査
小岩井忠道(科学記者) 2024年12月13日
中国国民の対日意識がこの1年で大きく悪化し、日中協力への意欲が大きく後退している現状が、日本の特定非営利活動法人「言論NPO」と中国の海外向け出版発行機関である中国国際伝播集団の日中共同世論調査で明らかになった。日本に対して「良い印象を持っている」あるいは「どちらかといえばよい印象を持っている」中国国民は昨年の調査で37.0%だったのが12.3%に大幅に減り、「良くない印象を持っている」あるいは「どちらかといえばよい印象を持っている」が昨年の62.9%から87.7%に増えた。「現在の日中関係」「今後の日中関係」を聞いた調査項目に対する答えも同様の変化が見られ、「ここまで中国の対日意識が全面的に悪化したのは過去20年間の調査で初めて」と「言論NPO」は深刻視している。
(言論NPO「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基盤を失い始めている~第20回日中共同世論調査分析~」から)
日中関係悪くなるも75.0%
言論NPOが12月2日に結果を公表した日中共同世論調査は2005年以降、毎年実施されており、20回目に当たる今回は10月中旬から11月中旬にかけて日本国民1000人、中国国民1500人を対象に行われた。「現在の日中関係」を「良い」あるいは「どちらかといえば良い」と見る中国国民も昨年の17.5%から8.6%に減り、「悪い」あるいは「どちらかといえば悪い」が昨年の41.2%から76.0%と大幅に増えている。「今後の日中関係」についても「良くなっていく」あるいは「どちらかといえば良くなっていく」が、昨年の31.6%から9.6%、「悪くなっていく」あるいは「どちらかといえば悪くなっていく」が、昨年の40.1%から75.0%と同様に大きく変化した。
日本国民に対する同じ設問の調査結果では「現在の日中関係」「今後の日中関係」が悪いあるいは悪くなるとみる人は昨年より減っており、良いあるいは良くなるとみる人が増えている実態との違いも目を引く。
(言論NPO「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基盤を失い始めている~第20回日中共同世論調査分析~」から)
日中関係重要でない59.6%に
さらに言論NPOが注目しているのが、「日中関係の重要性」に対する中国国民の意識が大きく後退したことを示す調査結果だ。「重要である」あるいは「どちらかといえば重要である」と見る日本国民は、昨年の65.1%から67.1%にわずかとはいえ増え、「重要ではない」あるいは「どちらかといえば重要ではない」も7.5%から5.0%に減っている。ところが中国国民は「重要である」あるいは「どちらかといえば重要である」が60.1%から26.3%と大幅に減り、「重要ではない」あるいは「どちらかといえば重要ではない」が19.1%から59.6%と増え方がさらに激しい。
政府間対立がどんなに先鋭化しても「日中関係は重要」との回答は両国で6割を下回ったことがない。尖閣諸島をめぐる対立が激化した2013年の調査でも中国国民の72.3%、日本国民の74.1%が、「日中関係は重要だ」と回答している。調査を始めて以来20年間のこうした調査結果を紹介したで言論NPOは、今回の結果を「20年間の調査で初めてのこと」と注視している。
(言論NPO「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基盤を失い始めている~第20回日中共同世論調査分析~」から)
日中協力重視も半減
このほかにも日中両国民の意識の違いを示す調査結果が、これまで中国国民からも高い支持が得られていた日中協力に関しても示されている。「世界の平和や協力が困難に直面する中で、日中両国は新たな協力をすべきか」との設問に対し、日本国民は44.7%が「そう思う」、7.5%が「そう思わない」と答え、昨年から大きな変化はない。しかし中国国民は「そう思う」が、昨年の49.2%から26.9%に半減し、逆に「そう思わない」が、43.2%と昨年の20.1%から倍増している。「日中の経済協力が自国の将来にとって大切か」という設問では日本国民の65.3%は「大切」だと答え、日本国民の意識は変わっていないのに対し、「大切だ」と思う中国国民は、30.9%と昨年の60.1%から半減した。
これまで日中両国民の半数以上が重要と見ていた民間交流についても中国国民の意識変化がみられる。「日中間で民間レベルの交流(留学、学術交流、芸術・文化交流など)は、両国関係の改善や発展にとって重要だと思うか」との設問に対し、日本国民の53.4%が「重要」だとみている。これは昨年とほぼ同じだ。しかし、「重要」と答えた中国国民は昨年の61.5%から今年は25.4%と半分以下に落ち込んだ。「機会があれば相手国に行きたいか」を聞いた設問に対しても「日本に行きたくない」と答えた中国国民は57.8%から84.5%と過去20年間の調査で最も多い比率に急増している。
対ロシアでは大差ない意識
共同世論調査は日中両国民の相手国に対する見方に関する以外でも多くの設問がある。その一つ「ロシアのウクライナ侵攻は、他国の領土、主権の侵略行為であり、国連憲章や国際法に反する行為だという見方がある。これに関して、あなたの考えと最も近いものは次の中のどれか」を聞いた設問に対し、中国国民の最も多かった答えは「どんな理由であれ、他国の領土主権の侵略は国連憲章や国際法に反する行動であり、反対すべきである」の41.3%で、昨年の16.3%から大幅に増えている。同じ設問に対する日本国民の答え72.9%と比べるとまだ差は大きいが、言論NPOがもう一つ注視しているのは「国連憲章や国際法には反するが、ロシアの事情も配慮すべきだ」が28.3%と2番目に多かった結果だ。「7割近くの中国国民がロシアの行動を国際法違反とみなしていることになる」と評価している。
さらに「これからの国際社会の中で、各国が一貫して追求すべきもので、最も重要なものは何だと思うか」という設問に対し、最も多かった答えは「他国の領土主権を守り、侵略や現状変更を許さない」の33.6%(日本国民は25.5%)。こうした結果も併せて言論NPOは「日中両国民の意識に大差が見られなくなっている」との見方を示している。
(言論NPO「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基盤を失い始めている~第20回日中共同世論調査分析~」から)
対海外諸国評価軒並み低下
調査は、米大統領選でトランプ氏の勝利が確定した時期と重なっている。言論NPOはこの影響も加味して調査結果を分析している。「米中対立の原因が米中両国のどちらにあるか」を聞いた設問に対し、最も多くの中国国民が選んだ答えは「米国」で83.9%と昨年の43.8%から大幅に増えた。これはトランプ政権第1期の最終年、2020年調査の86.2%に次ぐ数値で、「中国国民の意識は米中の首脳対話が始まった22年以降、沈静化に向かったが、今回元に戻る形になった」と言論NPOは見ている。
「世界の平和や経済秩序が不安定化する中で、秩序の安定のために、誰がリーダーシップをより発揮すべきか」を聞いた設問に対する中国国民の答えは、「中国」が最も多く昨年の30.6%から52.4%と大幅に増加した。他方、「米国」は12.8%から6.0%、「米国と中国」が11.3%から7.9%、「日本」が11.1%から1.9%、「ロシア」が9.0%から3.0%と軒並み数値を下げた。ここでも日本に対する評価の低下が目立つ。
渡航経験の有無、SNSの影響大
トランプ次期米大統領は、早くも中国に対する関税強化の考えを示すなど厳しい対中国姿勢を鮮明にしている。これに伴って習近平中国政権の日本に対する姿勢も変化するのではとの見方も日本国内ではみられる。中国国民の対日意識がこの1年で大きく、しかも全面的に悪化したことを示す今回の共同調査結果がこうした見方と真逆に見えるのはなぜか。言論NPOが挙げる要因の一つは、日本への渡航経験のない中国人は世代を問わず日本に対する認識が全面的に悪化していることを示す調査結果。日本への渡航経験者で、日本に良い印象を持つ人は昨年の69.2%からだいぶ減ったものの55.6%と半数を超えている。ところが、渡航経験のない人で日本に良い印象を持つ人は、わずか2.8%(昨年は32.8%)に激減している。
(言論NPO「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基盤を失い始めている~第20回日中共同世論調査分析~」から)
こうした大きな差をもたらしている背景として言論NPOが指摘しているのが、中国で加熱するSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などのインターネット環境の変化。中国のネットユーザー人口はすでに11億人を突破しており、日本とは異なり政府系も含めた従来型のメディアもSNSに強い影響力を持っている。こうして現状を紹介した上で、「渡航経験のない人は、自国のメディアの報道に依存するしかなく、こうした中国の自国メディアを情報源とする圧倒的多くの中国人は、いずれも9割近くが日本に対して良くない印象を持ち、その他多くの項目でも対日認識が大きく後退している」との見方を示している。
これに加え言論NPOが重視しているのが「米中対立の原因は『米国』にあるとし、その米国と日本が連携し、日本が進める経済安全保障の展開を日中関係の障害と考える中国人、さらに日本の軍事力の強化や日米連携を意識して、日本に軍事的な脅威を感じる中国人が、昨年よりもそれぞれ増えている」現状を示す調査結果だ。「日中関係は重要」だと考える中国人が、昨年の77.9%から今年は23.7%まで減ったのは、日本は中国との協力を目指す重要な国というよりも、米国と連携し、また独自に中国との関係を管理し、対立する国とみなされていることを示す。SNS上でもこうしたニュースが毎日全面的に繰り返し報じられ、それが世論に決定的な影響を与えた可能性がある、との見方を示している。
関連サイト
言論NPO「日中両国は戦略的互恵関係の信頼基盤を失い始めている~第20回日中共同世論調査分析~」
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