【22-13】トップ10にアジア初の2大学 英教育誌世界評判ランキング
小岩井忠道(科学記者) 2022年11月18日
英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が11月15日、「世界大学評判ランキング2022」を発表した。清華大学が昨年の10位から9位に、東京大学が昨年の13位からから10位へとそれぞれ順位を上げ、2011年に始まったこのランキングで10位以内にアジアから初めて2大学が入った。中国と日本がリードし、アジアの世界的な学術的評価を高め続けている、とTHEは評価している。
「世界大学ランキング2023順位」は、2022年10月公表の「Times Higher Education World University Rankings 2023」、「QS大学ランキング2023順位」は、2022年6月公表の高等教育評価機関Quacquarelli Symondsの「QS World University Rankings 2023: Top global universities」の順位。数字の前の=は同順位(タイ)を示す (Times Higher Education World Reputation Rankings 2022、同2021、Times Higher Education World University Rankings 2023、QS World University Rankings 2023: Top global universitiesから作成) |
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世界順位 | 前年順位 | 世界大学 ランキング 2023順位 |
QS大学 ランキング 2023順位 |
大学名 | 国・地域 |
1 | 1 | 2 | 5 | ハーバード大学 | 米国 |
2 | 2 | 5 | 1 | マサチューセッツ工科大学 | 米国 |
3 | 4 | =3 | 3 | スタンフォード大学 | 米国 |
4 | 3 | 1 | 4 | オクスフォード大学 | 英国 |
5 | 5 | =3 | 2 | ケンブリッジ大学 | 英国 |
6 | 6 | 8 | 27 | カリフォルニア大学バークレー校 | 米国 |
7 | 7 | 7 | =16 | プリンストン大学 | 米国 |
8 | 8 | 9 | 18 | イエール大学 | 米国 |
9 | 10 | 16 | 14 | 清華大学 | 中国 |
10 | 13 | 39 | 23 | 東京大学 | 日本 |
中国上昇続き日本は回復
2011年から始まったTHEの「世界大学評判ランキング」は、上位10大学を米国と英国がほぼ独占し、これまで両国以外で10位内に入ったのは東京大学が4度(2011、2012、2013、2020年)、清華大学が1度(2021年)あるだけ。今年の「世界大学評判ランキング2022」もこうした状況は基本的に変わらない。上位10位内に12年連続で1位を維持したハーバード大学をはじめとする6校が米国から、英国からは4位のオクスフォード大学など2校が入った。一方、中国の大学の評価がさらに高まり、日本の大学の評価も回復していることをTHEは今回の特徴としている。
(Times Higher Education World Reputation Rankings 2022、同2021から作成) | |||
国・地域 | 大学数(前年) | 最上位大学名 | 最上位大学の 世界ランキング順位 |
米国 | 56(57) | ハーバード大学 | 1 |
英国 | 24(25) | オクスフォード大学 | 4 |
中国 | 17(17) | 清華大学 | 9 |
ドイツ | 16(14) | ミュンヘン工科大学 | 33 |
オランダ | 10(9) | デルフト工科大学 | 43 |
日本 | 9(11) | 東京大学 | 10 |
オーストラリア | 7(6) | メルボルン大学 | =45 |
カナダ | 7(6) | トロント大学 | 21 |
フランス | 7(6) | ソルボンヌ大学 | =50 |
ロシア | 6(5) | モスクワ大学 | =35 |
香港 | 5(4) | 香港大学 | 51-60 |
韓国 | 5(5) | ソウル大学 | 44 |
スウェーデン | 5(5) | カロリンスカ研究所 | 81-90 |
中国からは上位200位以内に17校が入り、米国56校、英国24校に次いで多い。このうち9校が順位を上げ、4校が順位を維持し、順位を下げたのは4校だけ。清華大学が一つ順位を上げて9位になったほか、北京大学は2位上げて13位、上海交通大学も50位から28位へと大幅に上昇した。復旦大学(39位)、四川大学(61-70位)、中国科学院大学(71-80位)、ハルビン工業大学(126-150)、中山大学(151-175)、東南大学(176-200)も前年より順位を上げた。
同じTHEが毎年公表している「世界大学ランキング」では、アジア・太平洋地域の他国・地域に比べても日本の低迷が続く。しかし今回の「世界大学評判ランキング2022」では、だいぶ様相は異なる。200位内に入った数は前年より二つ減って9校となったが、7校が前年より順位を上げ、残る2校も順位を維持した。2014年に10位以下に順位を下げて以降、なかなか10位内に復帰できなかった東京大学が2020年に続き2年ぶりに10位に返り咲いたほか、京都大学が26位(前年27位)、大阪大学61-70位(同71-80位)、東北大学61-70位(同91-100位)、東京工業大学91-100位(同101-125位)へと100位内の5校が軒並み前年より順位を上げた。100位内に入った大学数も4校から5校に増えた。
THEは、過去10年間、中国と日本が高等教育を重視する政策をとり続けてきたことを注視している。日本が2014年に始めた「スーパーグローバル大学創成支援事業」や、直後に中国が始めた「『双一流』―世界一流大学・一流学科構築」政策を、世界トップレベルの大学を目指すプロジェクトとして評価している。
このほか、前年24位だったシンガポール国立大学が19位と初めて20位内に入ったことも挙げ、世界の大学の勢力図が東アジアにシフトしている、との見方も示した。
(Times Higher Education World Reputation Rankings 2022、同2021、Times Higher Education World University Rankings 2023、QS World University Rankings 2023: Top global universitiesから作成) | |||||
世界順位 | 前年順位 | 世界大学 ランキング 2023順位 |
QS大学 ランキング 2023順位 |
大学名 | 国・地域 |
9 | 10 | 16 | 14 | 清華大学 | 中国 |
10 | 13 | 39 | 23 | 東京大学 | 日本 |
13 | 15 | 17 | 12 | 北京大学 | 中国 |
19 | 24 | 19 | 11 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
26 | 27 | 68 | 36 | 京都大学 | 日本 |
28 | =50 | 52 | 46 | 上海交通大学 | 中国 |
39 | 51-60 | 51 | =34 | 復旦大学 | 中国 |
=40 | 61-70 | 36 | 19 | 南洋理工大学 | シンガポール |
44 | =41 | 56 | 29 | ソウル大学 | 韓国 |
=45 | 46 | 34 | 33 | メルボルン大学 | オーストラリア |
51-60 | =48 | 31 | 21 | 香港大学 | 香港 |
51-60 | 61-70 | =54 | 41 | シドニー大学 | オーストラリア |
51-60 | 81-90 | 78 | 73 | 延世大学(ソウルキャンパス) | 韓国 |
51-60 | =50 | 67 | =42 | 浙江大学 | 中国 |
61-70 | 61-70 | 62 | 30 | オーストラリア国立大学 | オーストラリア |
61-70 | 81-90 | =91 | =42 | KAIST | 韓国 |
61-70 | 91-100 | 44 | 57 | モナシュ大学 | オーストラリア |
61-70 | 71-80 | 251-300 | 68 | 大阪大学 | 日本 |
61-70 | 51-60 | 74 | 94 | 中国科学技術大学 | 中国 |
61-70 | 151-175 | =196 | =406 | 四川大学 | 中国 |
61-70 | 91-100 | 201-250 | 79 | 東北大学 | 日本 |
71-80 | 101-125 | ― | ― | 中国科学院大学 | 中国 |
71-80 | 81-90 | 53 | =50 | クイーンズランド大学 | オーストラリア |
91-100 | 101-125 | 45 | 38 | 香港中文大学 | 香港 |
91-100 | 91-100 | 58 | 40 | 香港科技大学 | 香港 |
91-100 | 91-100 | =95 | 133 | 南京大学 | 中国 |
91-100 | 61-70 | =187 | 77 | 国立台湾大学 | 台湾 |
91-100 | 101-125 | 301-350 | 55 | 東京工業大学 | 日本 |
101-125 | 91-100 | 251-300 | =155 | インド理科大学院 | インド |
101-125 | 126-150 | 301-350 | =112 | 名古屋大学 | 日本 |
126-150 | 151-175 | 351-400 | =217 | ハルビン工業大学 | 中国 |
126-150 | 126-150 | 501-600 | =141 | 北海道大学 | 日本 |
126-150 | 126-150 | 79 | =65 | 香港理工大学 | 香港 |
126-150 | 176-200 | 501-600 | 135 | 九州大学 | 日本 |
126-150 | 101-125 | =71 | 45 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
151-175 | ― | 88 | 109 | アデレード大学 | オーストラリア |
151-175 | ― | =99 | 54 | 香港城市大学 | 香港 |
151-175 | 126-150 | ― | =172 | インド工科大学ボンべイ校 | インド |
151-175 | ― | =163 | 71 | 浦項工科大学 | 韓国 |
151-175 | ― | 251-300 | =267 | 中山大学 | 中国 |
151-175 | 81-90 | =170 | 99 | 成均館大学 | 韓国 |
151-175 | 151-175 | 251-300 | =212 | 同済大学 | 中国 |
151-175 | 151-175 | 173 | 194 | 武漢大学 | 中国 |
176-200 | ― | =139 | 87 | オークランド大学 | ニュージーランド |
176-200 | 126-150 | 251-300 | =262 | 北京師範大学 | 中国 |
176-200 | 151-175 | =176 | 306 | 華中科技大学 | 中国 |
176-200 | 176-200 | ― | =174 | インド工科大学デリー校 | インド |
176-200 | ― | 401-500 | =461 | 東南大学 | 中国 |
176-200 | 176-200 | 501-600 | =312 | 筑波大学 | 日本 |
176-200 | 176-200 | 501-600 | 302 | 西安交通大学 | 中国 |
大学運営に影響大きい評判
THEの大学ランキングでは、より総合的な評価手法による「世界大学ランキング」が歴史も古く、知名度も高い。主観的な評価という手法を重視する「世界大学評判ランキング」を公表している理由は何か。THEはチーフ・ナレッジ・オフィサー、フィル・ベイテイ氏に次のように説明させている。「高等教育において評判(Reputation)は重要。投資と戦略的発展に向けた質の高いパートナーを呼び込む際の推進力となるからだ。著名な学者、進学希望者の中から、才能ある人材を引き付けるための鍵となる。評判は主観的なもので、常に公平であるとは限らないが、誰もが分かる共通言語として具体的な効果をもたらす」
「世界大学ランキング」との評価法はどう違うか。「世界大学ランキング」では、教育(指導・学習環境、評判)、研究(質・量、収入、評判)、論文被引用数(研究成果の影響度)、国際性(外国人職員・学生比率など)、産業界からの研究収入(知識移転活動)という多くの評価指標から、大学の力量を総合的に評価している。一方「世界大学評判ランキング」の評価法は、「世界大学ランキング」の教育と研究の評価指標に含まれる世界の有力研究者に尋ねた「評判」だけを評価指標としている。
「評判」が「世界大学ランキング」の評価に占める割合は、教育面で15%、研究面で18%と合わせて33%。この部分だけで世界の大学を評価しているのが「世界大学評判ランキング」だ。ただし、研究面をより重視し、教育面の評価点数に対して研究面の評価点数を倍重く見る処理をしている。具体的には、過去5年間に論文を発表し、それが他の研究者に引用された研究者の中からTHEが選び出した世界的に著名な研究者に、自身の専門分野で教育と研究面に関し最も優れていると評価する大学をそれぞれ最大15挙げてもらった調査結果を基にしている。
今回の調査は、2021年10月から2022年2月の間に実施され、59カ国の回答者から2万9,606の回答を得た。この調査結果は、10月に公表された「世界大学ランキング2023」にも活用されている。
世界大学ランキングとの違い
「世界大学ランキング2023」では、中国、香港、韓国といった他の東アジア諸国・地域に比べ日本の大学の順位が見劣りするのが目立った。上位200位内で比べると、今回公表された「世界大学評判ランキング」では9校が入っているのに対し、わずか2校に留まった。その2校も東京大学は39位、京都大学は68位と順位は「世界大学評判ランキング」よりもだいぶ低い。
この理由は、「世界大学評判ランキング」の評価対象となっていない論文引用数評価と国際性評価、特に論文引用数評価が見劣るためだ。中国、シンガポール、香港、オーストラリアの上位大学の論文引用数評価が80点台、90点台であるのに対し、東京大学は前年の58.2から55.5、京都大学も58.3から52.3と点数を落としたのを初め、上位200位内に入れなかった東北大学、大阪大学、名古屋大学、東京工業大学も軒並み前年より点数を落とし30点台という低い評価点しか得られていない。
一方、6月に公表された「QS世界大学ランキング」の結果と、「世界大学評判ランキング」の結果はそれほど大きな違いがない。上位100位内に同じ顔触れの5大学(東京大学、京都大学、東京工業大学、大阪大学、東北大学)が入っている。この理由も評価法の違いから理解が可能。13万人を超す高等教育に関わる世界の学術関係者に教育と研究の質を評価してもらうというTHEと同様な調査結果が総合評価に占める配点比率が40%と最も高い。また、7万5,000人以上の雇用主にその大学が有能な卒業生をどれだけ送り出しているかを尋ねた調査結果を基にした「雇用者評価」も10%の配点比率となっている。このほか「教員一人当たりの論文被引用数」、「学生一人当たりの教員比率」、「外国人教員比率」、「留学生比率」も評価指標に含まれているが、THEの「世界大学ランキング」に比べると日本の大学には有利な評価手法となっている。
関連サイト
Times Higher Education 「World Reputation Rankings 2022 」
Times Higher Education 「World University Rankings 2023 」
QS World University Rankings 2023: Top global universities
文部科学省「スーパーグローバル大学創生支援事業 」
サイエンスポータルチャイナ「『双一流』―世界一流大学・一流学科構築 」
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