【11-001】日本留学の感想
朱 新林(浙江大学哲学学科 副研究員) 2011年6月24日
周知の通り、中国と日本の留学生交流の歴史は長い。古代における両国間の留学生交流は、今から約1300年余り前、つまり中国の隋唐時代・日本の天平時代から始まりました。隋唐時代の中国は、世界においても、アジアにおいても国力の強い国で、政治、経済、軍事、科学技術、文化、教育、宗教などの面において発達している国でした。唐の時代において、中国の教育はすでにかなり発達しており、教育システムは完備されており、相当の経験を蓄積していました。当時の日中両国の間の留学は、主に日本人の中国留学で、阿倍仲麻呂、空海和尚、吉備真備、並真成などの日本人留学生や留学僧は、唐で経文、建築技術、絵画、書道、彫刻、医薬などを学び、中国と日本の文化交流に大きく貢献しました。これらの日本人留学生や留学僧は帰国後、 日本の文化発展と繁栄に深い影響を与え、日中友好交流史、異民族・異文化交流の研究、中国のこれからの国際協力と文化交流にとって重要な意義を持ち、日中両国の友好往来史の文化的基礎となりました。こういう意味で、これらの日本人留学生や留学僧は、日中文化交流の先駆者といえるでしょう。
古代の日本人の中国留学と違い、近代において、日中の間の留学生交流は主に中国人の日本留学との形になりました。例えば、李大釗、周恩来、魯迅、郭沫若などはこの時期に渡日して留学し、近代日中友好関係の開拓者となりました。1972年の日中国交正常化以後、特に1978年中国の「改革開放」政策の実行に伴い、日中間の留学生交流はかつてない発展を遂げ、それまでの「一方的派遣」から、「相互派遣」、「双方向交流」となりました。留学生交流の分野は、多元化と多重学問分野の特色を見せ、これはまさにグローバル化の産物であると考えられます。
20世紀前半の50年間において、中国は飢え、寒さ、列強の挑発に悩まされ、苦難な経験をしました。その局面を変えるため、鄧小平さんは1978年に国外に大量の留学生を派遣すると提唱し、中国は中央政府レベルから留学生派遣を進める方針を打ち出しました。当時の日本はすでに重要な先進国であり、地理的に近いこともあり、中国人留学生の重要な留学目的国であり、多くの中国人留学生を受け入れました。「改革開放」後、初代の23名の渡日中国人留学生のほとんどは、日本の大学で日本語を勉強していました。それは、改革開放を進め、中国の現代化建設を実現するために、外国語の人材は国に重視されていたからです。1978 年、日中両国政府は、留学生交流事業の展開について共通の認識に達しました。共通認識に基づき、日本政府の協力のもとで、1979 年3 月に長春にある東北師範大学で「中国赴日留学生予備学校」が設立されました。この予備学校は、日本の大学に多くの中国人を留学させることを目的としていました。その時から、日中留学生交流と教育提携は新しい段階に入りました。
それ以後の30年間、日中留学生交流の規模は大きくなり、留学生の構造は多様化してきました。筆者は、2009年9月~2010年9月に中国国家留学基金委員会の「国家建設高水平研究大学公派留学生」プロジェクトの出資援助を受け、早稲田大学に1年間留学しました。この1年間の日本留学を通じて、個人の学術視野を広げ、個人の研究水準を高めただけではなく、日本の風土と留学生の情況に対する理解を深めました。個人の感覚から言うと、現在日本にいる中国人留学生の特徴は主に次のようにまとめることができると思います。
第1に、中国の中央政府レベルにおいて、公費留学生と訪問学者の派遣は既定国策となり、1999年にそれらの活動を統括する中国国家留学基金委員会との機構が設けられ、各大学、科学研究部門などから優秀な人材を選抜し日本留学させてきました。留学の形式から見ると、最初の「国家派遣」から、現在では「国家派遣」、「大学派遣」、「中外教育提携」、「私費留学」など多くの形になっています。そのため、国家派遣留学生は、在日中国人留学生の主流となりつつあります。
第2に、在日中国人留学生の規模が拡大しつつあると同時に、留学の構造、専門領域、留学ルートなどの面においても大きく変化しつつあります。留学の構造から見ると、改革開放直後の在日中国人留学生のほとんどは、研修生として派遣され、留学期間は1年間から2年間まででした。現在は既に学部生、修士課程、博士課程と訪問学者などの立体化した構造となっています。特にハイレベルな人材が国外のハイレベルの大学・研究機構に在籍する割合は高くなってきました。たとえば、2005 年度、日本で留学している留学生の中、大学、短大、高等専門学校の在籍人数は64774人であり、総人数で占める割合は53. 18 %でした。大学院の在学人数は30278 人、総人数で占める割合は24. 86 %でした。専門学校、予備学校の在学人数は25760人で、総人数で占める割合は21. 15 %でした。このような変化は、中国の改革開放の拡大の現れであり、中国の社会主義市場経済体制の定着、特にWTO加盟後の人材の多様化の現れだと思います。中日両国の教育提携の継続的発展、中日経済交流、文化交流、教育と科学技術交流の発展の現れでもあると思います。
第3に、経済、法律、金融、会計、管理、文学のなど人文社会科学の領域の留学生人数が増えつつあり、現在それらの分野の留学生数はすでに在日中国人留学生の半分以上となっています。「改革開放」直後、国家派遣の留学生の中、人文社会科学領域の留学生人数は全体の15 %しかありませんでした。このことから、中国が人文社会科学を重視していることが分かると思います。
第4に、留学生教育の面において、中国は日本の経験から多く学び、留学生派遣の構造を改善し、効率化させるべきだと思います。日本の奨学金の種類は主に、政府(文部科学省) の奨学金、民間団体の奨学金、地方公共団体が提供する奨学金、大学・高等専門学校が提供する奨学金と私費留学生奨学金などがあります。ここ数年、一部の市・区の地方自治団体も奨学金を提供しています。日本の奨学金制度は、中国にとって貴重な参考となると思います。これからの渡日留学生派遣活動の参考として、日本の奨学金制度について研究プロジェクトを設けたほうがいいと思います
筆者は2010年9月に日本での一年間の留学生活を終え、浙江大学の教員となりました。日本留学経験者の一員として、私は先輩たちのように、自分の留学経験と感想を後輩と共有し、これからの中日文化交流に貢献したいと思います。
朱新林(ZHU Xinlin):浙江大学哲学部副研究員
中国山東省聊城市生まれ。
2003.9~2006.6 山東大学文史哲研究院 修士
2007.9~2010.9 浙江大学古籍研究所 博士
(2009.9~2010.9) 早稲田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11~現在 浙江大学哲学部 副研究員