中低速磁気浮上式鉄道における片側式リニア誘導モータの設計および最適化(その1)
2017年 3月 1日
概要:
中低速磁気浮上式鉄道における片側式リニア誘導モータ(single-sided linear induction motor, SLIM)に求められる牽引・制動特性を満たすために、2つの設計プラン候補が提案された。それは、8極80スロット(長さ1927mm)と8極(仮想9極)89スロット(長さ2047mm)である。限りある設置空間および材料コストを考慮し、SLIMのコイル極数、ピッチ、巻数、スロット数、配線等の型を正確かつスピーディに確定するために、2つのSLIM設計プランそれぞれについて、磁気回路、起磁力、等価回路、始動特性等を計算したところ、相応の理論計算と数値シミュレーション結果が得られた。実験の結果、2つの設計プランのいずれも中低速磁気浮上式鉄道の牽引要求を満たすことがわかった。このうち、8極80スロットはすでに量産化されており、8極89スロットについてはフィージビリティが証明されている。分析の結果、SLIMの設計プロセスおよび関連特性の計算方法は、中低速磁気浮上式鉄道の駆動用SLIMの最適化設計の参考となることがわかった。構造設計プロセスに基づけば、SLIMの動的制御に関するパラメータの静的変数を正確に計算することができる。
キーワード:片側式リニア誘導モータ、構造設計、パラメータ計算、最適化、有限要素解析
磁気浮上式鉄道は安全かつ乗り心地が良く、環境に優しく、騒音や環境汚染が少ない等の特徴のために、旅客輸送交通の近代化における重要なシンボルとなっている[1]。一方、中低速磁気浮上式鉄道は、さらに騒音やエネルギー消費が少ないことから、周辺環境への適応性が高く、路線コストが低い等の長所があり、競争力のある新型の都市公共交通となっている[2]。電気モータの正確なパラメータを求めることは、その制御とモデリングに重要な意味を持つ。リニア誘導モータは回転誘導モータより機械のエアギャップが大きいため、一般的に容量の同じ回転誘導モータに比べ磁気誘導がずっと少ない[3]。リニア誘導モータの一次コイルはスロット内に配置され、二次側ではスロットを使わず、アルミニウムと鉄の複合材を採用することが多いため、リニア誘導モータの一次側と二次側では漏れインダクタンスの差が大きくなる。リニアモータは磁気浮上式鉄道の重要な部品であり、リニア誘導モータによって列車の牽引と制動が可能となるが、リニアモータのモデル選択と電気モータのパラメータ計算をスピーディに行うことが非常に重要となる[4]。その動的特性と構造信頼性は車両に直接的に影響するため、研究の必要がある。また、磁気浮上式鉄道は電磁力によって浮上するため、動的パラメータの制御に厳格な要求がある。磁気浮上式鉄道の積載量を増やし、鉄道運行の信頼性を高めるために、本稿ではその構造について有限要素解析を行う。このことは、中低速磁気浮上式鉄道の浮上制御に重要な意味を持つだろう[5]。
1 中低速磁気浮上式鉄道のSLIMモデル選択・設計における制約条件
1.1 SLIMの基本的なパラメータ要求
応用環境や位置、空間等の条件による制約のために、SLIMの主な定型パラメータのいくつかは、以下のとおりあらかじめ確定されている。すなわち、電気モータの定格線間電圧はU=220V、電気モータの設計長さはL=1800~2000mm、電気モータの二次側アルミニウム-鉄複合構造のアルミ板の厚さは4mm、継鉄の厚さは20mm、電気モータの機械エアギャップは13mm、電磁エアギャップはδ=17mmで、電気モータの幅は560mm以下で、電気モータの鉄心高さは85mmである。
1.2 SLIMの容量と最大動作電流の選択
運行の信頼性についていえば、同じタイプのSLIMでは定格値近く(40km/h)の效率はおおむね50%であり、力率はおおむね0.57であり、40km/h時の電気モータの牽引力は36kWであるため、牽引を行う電気モータの容量は以下の計算式により確定される。
式中、ηおよびcosφはそれぞれ、定格値における電気モータの效率および力率である。SLIM容量130kVAを選択した場合の最大動作電流は以下の計算式により得られる。
このため、SLIMの最大動作電流は340Aに、定格周波数はf=39.4Hzに設計する。
2 SLIMのスピーディなパラメータ確定プロセス
1) 設計時に設定される基本パラメータ:設計時の一次コイルの負荷は約As=84000A/m、設計時のエアギャップにおける磁束密度は約B=0.18T、設計時の一極あたり・一相あたりのスロット数はq1 =3、コイルピッチはy=8である。
2) 車底の設置空間は制約があるため、それに基づいて電気モータの長さの範囲を確定すれば、電気モータの極数と電極距離のパラメータをあらかじめ確定することができる。技術フローは以下のとおり。すなわち、電気モータの実際の極数を2Pと設定すると、有效な長さの範囲内の仮想極数は2P +1となり、電極距離の範囲は以下の計算式により得られる。
電気モータの設計相数はm1=3で、一極あたり・一相あたりのスロット数はq1=3であるため、9で整除される数値、すなわちτ=207mmおよび216mmを取った際は、それぞれ2P=9(9は仮想極数、実際の有效極数は8)および2P=8に対応する。その後、以下の修正されたスロット数Zの計算式に基づけば、Z=2P·m1·q1 + y、すなわち8極のZ=80、8極のZ=89が得られる。表1に示す2つの設計プランの定義モデルはそれぞれM-1およびM-2である。
ピッチ[6]の計算式に基づいて得られるM-1のピッチは24mmで、M-2のピッチは23mmである。
3) 一次コイルの巻線の選択およびパラメータ計算
最大動作電流に基づいて選択した巻線の断面積はA=Ist/Jで、電気モータの一次側最大許容動作電流はIst=340Aである。コストの関係上、アルミニウム材質の巻線を選択したところ、その単位面積あたりの電流量はJ=3~4A/mm2であった。このため、巻線の断面積の最小値はA=340/4=85mm2であった。選択した巻線のワイヤーゲージは18.5mm×5.2mm、すなわち巻線の断面積はA=96.2mm2>85mm2であった。
SLIM型式 | 2P | τ/mm | Z | L/mm |
M-1 | 8 | 216 | 80 | 1 920 |
M-2 | 9(仮想値) | 207 | 89 | 2 047 |
このとき、推算された電気モータの最大ワイヤー荷重は、以下の計算式で求められる。
各スロットの導体数は、以下の計算式で求められる。式中、P'は等価の極対数であり、Pが偶数のときはP'=Pとし、Pが奇数のときはP'=(2P-1)/2とする。このため、M-1型とM-2型のいずれもNc=6=2×3の計算によって得られる。式中、Nph=72とするのは、二層重ね巻線の方式を採用しているからである。このため、スロット内の導体は二層に配置され、各層に3本とする。関連技術データを表2に示す。
SLIM型式 | A/mm2 | As/(A·M-1) | Nc |
M-1 | 96.2 | 84 691 | 2 ×3 |
M-2 | 96.2 | 88 565 | 2 ×3 |
4) スロットの選択およびパラメータの計算
一次コイルの導体幅を15.6mmと計算する。導体コイルを0.1mm幅のポリイミドテープで2回巻いた後のスロット幅bsは16.8mmとする。M-1およびM-2のピッチに基づき、それぞれの歯幅btを計算すると、M-1の歯幅は7.2mm、M-2の歯幅は6.2mmとなる。一次コイル導体高さを37mmと計算する。スロット楔高さh0は3mmで、各層間の絶縁体の厚さを考慮すると、スロット深さはh0 +h1=40.8mmとなるため、スロット深さは41.0mmとする。一次側の継鉄の高さをHy=44mmと計算する。
電気モータのスロットにオープンスロット構造を選択する場合は、図1のようになる。その際に得られる各パラメータの対比を表3に示す。
図1 SLIMスロットタイプおよび構造サイズ
Fig.1 Groove profile and structure size of SLIM
SLIM型式 | bs/mm | bt/mm | h1/mm | h0/mm | ht/mm |
M-1 | 16.8 | 7.2 | 37.8 | 3 | 41 |
M-2 | 16.8 | 6.2 | 37.8 | 3 | 41 |
5) 一次コイル特性の計算[7]
コイル分布係数は、コイル短節係数は、コイル係数はkw1=kdkpとする。
さらにコイルの削減係数を考慮すると、一次鉄芯の幅は以下の計算式で求めることができる。
一次側の各極の磁束は(、電気モータの一次側の各相の巻数はとする。このうち、keは逆起電力係数で0.52とし、U1は相電圧でとする。一次コイルの特性に関するパラメータを表4に示す。
SLIM型式 | kw1 | αw | D/mm | φ/Wb | Nph |
M-1 | 0.945 | 0.928 6 | 220 | 0.005 445 | 72 |
M-2 | 0.945 | 0.937 5 | 220 | 0.005 221 | 72 |
6) SLIM磁路の計算[8]
実際のエアギャップにおける磁束は、エアギャップにおける磁束密度は、ピッチの磁束密度はとする。このうち、kfeは鉄心圧入係数でkfe= 0.93とする。一次側における継鉄の磁束密度はであり、このうちHyは一時側における継鉄の高さ44mmとする。
Hdは固定孔の直径であり、10mmとする。エアギャップ係数は、等価エアギャップはδ'e = kδ2δeである。エアギャップの磁路特性の関連パラメータを表5に示す。
SLIM型式 | φm/Wb | Bδ/T | Bt/T | By/T | δ'e |
M-1 | 0.005 546 | 0.183 3 | 0.657 | 0.726 1 | 19.22 |
M-2 | 0.005 546 | 0.191 3 | 0.718 | 0.683 6 | 19.40 |
7) 電気モータの起磁力の計算
エアギャップの起磁力をFδ=1.6×106Bδ δ'e、一次側の歯部の起磁力をFt=2Hthtとして、磁化曲線を調べるとHt=240A/mが得られる。一次側のヨークの起磁力Fy=ξHaτとして、このうちξは磁束密度分布が不均一な際の係数であり、ξ=0.7とした際に、磁化曲線を調べるとHa=285A/mが得られる。一対の磁極の総起磁力の低下は(二次鉄心の起磁力の低下を無視した場合)ΣF=Fδ +Fa +Ftであり、磁路飽和係数はで、磁化電流はである。電気モータの起磁力関連パラメータの比較を表6に示す。
SLIM型式 | Fδ/A | Ft/A | Fy/A | ΣF/A | kμ | Iμ/A |
M-1 | 5 656.5 | 19.73 | 43.14 | 5 719.4 | 1.011 | 124.5 |
M-2 | 5 587.0 | 19.73 | 41.30 | 5 648.0 | 1.011 | 123.0 |
8) 等価回路の計算
コイル端部の長さはLe=1.4τ、コイル半巻の平均的長さはLcp=D +Le +0.03であり、一次側の各相の電気抵抗はである。一次側の巻線がアルミニウム材質である場合には、電気抵抗率は(計算式ρAL=2.95×10-8)であり、スロットの漏れコンダクタンスはで、表によればku=0.916 7, kk=0.937 5.である。歯部の漏れコンダクタンスは、一次コイル端部の漏れコンダクタンスはである。高調波の漏れコンダクタンスはであり、このうちkβは短節と関連する係数であり、表によればkβ= 0.028 1, kμ=1.01である。磁化リアクタンスは、エアギャップ磁場の基本波における漏れリアクタンスはであり、一次側の各相における漏れリアクタンスはである。
SLIMの品質因子の計算式はであり、始動パラメータはである場合、始動時のスリップはs=1, c=0.01である。表よれば、パラメータは以下のとおりである。kp=2.027、kq9.37、Da=-0.011 2、Dj=0.007 09、Dfa=-0.020 59、Dfj=0.016 47。
一次コイルにおける磁気伝導の関連パラメータを表7に示す。
SLIM型式 | Lcp/mm | λs | λt | λe | λd | xδ/Ω |
M-1 | 552.4 | 0.870 5 | 0.512 6 | 0.766 7 | 0.100 0 | 0.015 71 |
M-2 | 539.8 | 0.870 5 | 0.512 6 | 0.734 7 | 0.095 3 | 0.016 50 |
9) 始動特性の計算
一次側の回路における電流は、以下の計算式で求められる。
また、始動時の力率は、以下の計算式で求められる。
始動時の誘導起電力は、検証のための逆起電力係数はke=E1/U1で、設定値0.52との位相差は小さい。始動時の推力は、電気モータからエアギャップを経て二次側に伝わる同期有効電力と一次側の入力有効電力とのバランス関係によって決まる[9]。すなわち、以下の計算式で求められる。
始動時の関連特性パラメータを表8に示す。
SLIM型式 | Ist/A | cosφ | E1/V | ke | Fst/N |
M-1 | 545.8 | 0.550 5 | 61.027 | 0.5194 | 3 232 |
M-2 | 559.6 | 0.573 3 | 66.487 | 0.5235 | 3 923 |
表8により、M-2型電気モータはM-1型に比べて始動時の電流が大きく、力率が高いことから、始動時の推力が21.3%高いことが分かる。
(その2へつづく)
参考文献
[1] YAN L. Development and application of the maglev transportation system [J]. IEEE Transactions on applied Superconductivity, 2008, 18(2) : 92-99.
[2] XU W, ZHU J G, ZHANG Y, et al. An improved equivalent circuit model of a single-sided linear induction motor [J]. IEEE Transactions on Vehicular Technology, 2010, 59(5) : 2277-2289.
[3] LU Q, LI Y, SHEN X, et al. Analysis of linear induction motor applied in low-speed maglev train[C]/ / Proc 15th International Conference on Electrical Machines and Systems. Hokkaido, Sapporo: IEEE Press, 2012: 1-6.
[4] KUIJPERS A A, NEMLIOGLU C, SAHIN F, et al. Force analysis of linear induction motor for magnetic levitation system[C]/ / Proc 14th International IEEE Power Electronics and Motion Control Conference. Ohrid: IEEE Press, 2010: 17-20.
[5] SHIRI A, SHOULAIE A. Design optimization and analysis of single-sided linear induction motor, considering all phenomena [J]. IEEE Transactions on Energy Conversion, 2012, 27(2) : 516-525.
[6] TAKAHASHI I, IDE Y. Decoupling control of thrust and attractive force of a LIM using a space vector control inverter [J]. IEEE Transactions on Industry Applications, 1993, 29(1) : 161-167.
[7] AHN JR S C, LEE J H, HYUN D S. Dynamic characteristic analysis of LIM using coupled FEM and control algorithm [J]. IEEE Transactions on Magnetics, 2000, 36(4) : 1876-1880.
[8] 魏凱.基于低速磁懸浮列車的直線感応電機的控制研[D].成都:西南交通大学, 2007.WEI Kai. Control of low-speed maglev train based linear induction motor [D]. Chengdu: Southeast Jiaotong University, 2007.
[9] WAI R J, CHU C C. Motion control of linear induction motor via petri fuzzy neural network [J]. IEEE Transactions on Industrial Electronics, 2007, 54(1) : 281-295.
※本稿は陳雅婷、陳特放、鄧江明、于天剣、唐建湘、成庶「中低速磁浮単辺直線電機設計及特性優化」(『哈爾濱工業大学学報』第48卷第9期、2016年9月、pp.83-88)を『哈爾濱工業大学学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司