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【16-004】中国における消費品リコール制度及び実務(その2)

2016年 3月31日

康 石

康 石(Kang Shi): 森・濱田松本法律事務所 パートナー、
外国法事務弁護士(中国法)、ニューヨーク州弁護士

1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

その1よりつづき)

一、リコール実務上の諸問題

1.主管部門

 消費品リコール規則によれば、国家品質監督検査検疫総局が全国のリコール業務の指導、調整、監督等を行い、省レベルの品質検査部門が当該管轄区内の消費品のリコールの監督管理業務を行うとされている( 第6条)。また、消費品の苦情申立等により、消費品に欠陥が存在する可能性があることを発見したその他の地域の省レベルの品質検査部門は、生 産者が所在する地域の省レベルの品質検査部門に通報しなければならないとされている(第10条第2項)。そして、生産者所在地の省レベルの品質検査部門は、消費品の欠陥調査を行うことができ、また、強 制リコールを命じることもできるとされている(第13条、第18条)。

 上記規定は一見合理的に職権区分がされているように見えるが、過去のリコール実務を見る限り、各地域の省レベルの品質検査部門(生産者所在地及び品質問題を最初発見した地域等)及 び国家品質監督検査検疫総局との間で具体的な権限区分について混乱が生じているようである。特に、欠陥消費品が全国レベルで販売されている場合、生 産者所在地や最初に問題を発見した地域の省レベルの品質検査部門間で、お互い管轄権がないと主張している場面が出てきているようである [6] 。また、法令上は明確ではないが、輸入品については、輸 入者が生産者とみなされ、輸入者所在地の省レベルの品質検査部門に管轄権があるように解されるが、実務上は、輸入品については、省 レベルにはリコール業務を監督管理する権限がなく、国 家レベルで統一的に管轄するとの取扱いとなっている。仮に、リコール業務の窓口が省レベルになったとしても、消費品リコール規則上、省 レベルの品質検査部門は、重 要なプロセスにおいて常に国家品質監督検査検疫総局に報告する義務が規定されていること(第13条、第14条、第16条等)、また、省 レベルにはリコール実務についての経験や管理能力がない等の関係で、結 局のところ、リコール業務について、国 家品質監督検査検疫総局又はその傘下にある欠陥製品リコール管理センターとやり取りをしなければならない場面が多い点に留意が必要である。

2.リコール計画の届出

 消費品リコール規則によれば、生産者は、欠陥消費品リコール情報システムを通じてリコール計画を所在地の省レベルの品質検査部門に届け出なければならないとされている(第19条第3項)。しかし、2 016年3月の現時点においても、当該システムは正式に対外的にオープンしておらず、内部的にテストされているところであり、実務上は、当該システムを通じてオンラインで資料をアップロードするだけではなく、紙 ベースでの届出も行うように要求されている。

3.告知の方法

 リコール計画をどのようなメディアを通じて、どの範囲で、どの程度の頻度で告知すべきかが実務上問題となる。法令上は、新聞、雑誌、ウェブサイト、ラジオ、テ レビ等の公衆への周知に便利な方法によって公表しなければならないとされているが(第21条第1項)、①上記のすべてのルートを通じて公表すべきか、②新聞に公告を出す場合、具体的にどの新聞に出すべきか、③ また、スマートホン及びインターネットの普及により、テレビを見ている人が減っている中、テレビを通じての公告も必要か等の疑問が生じるのも当然である。この点、欠 陥製品リコール管理センターは基本的に生産者の自主判断に任せ、当局としては具体的にどのように公告を行うべきかについて強制しないスタンスを取っている。実務上は、生産者自社のホームページ、欠 陥消費品リコール情報システム(欠陥製品リコール管理センターと連携しているいくつかのメディアが、当該システムの情報を転載する実務がなされており、これにより、公告のカバレッジが広がる仕組みになっている)に おけるリコール公告の掲載で上記義務は果たしたこととなる。このような最低限の公衆への告知のほか、例えば、小売店内での告知、消費者の連絡方法を知っている場合の個別通知も実務上認められている。

4.リコール期間

 リコール計画を届け出た後、リコール公告を行うことになるが、その後、どの程度の期間、リコール措置を継続しなければならないかが問題となり、この点は、企業側の負担にもかかわるため、多 くの企業が関心を持っているトピックである。消費品リコール規則が公布される前のリコール事例を見る限り、2~3ヵ月のリコール期間を設定している事例も存在する。実務上は、リコール計画を届け出た後、正 式にリコールを行う前に、企業側が自主的な損害防止、救済措置を取ることは認められており、このような救済措置の一環として、販売チャネルや消費者から欠陥製品の回収を行う場合が多いため、リ コール計画を届け出た時点では、回収できるところは回収できたといえる場面もあり、リコール計画を長く設定しても意味がないとの見方もある。しかし、リ コール公告を公衆に告知した後初めてかかる情報に接した消費者から連絡が来る場合があるため、リコール公告後一定期間が過ぎてから、欠陥製品の回収ピークに向かうことが多い。なお、リコール開始前後、企 業側の回収行為が活発であり、内部的に消耗する時間やリソースも多いが、リコール業務の後半には時間やリソースの投入も自然に減ることになる。リコール期間を短く設定した場合、それが原因で、消 費者が本来であれば避けることができた損害を被ることもありうるため、消費者との間で紛争を避け、企業側をプロテクトする観点からも、リコール期間はある程度長く設定することが望ましい [7]

5.回収率

 リコールを実施した結果、欠陥製品の何割以上を回収しなければリコールを完了することができないとの基準は中国法上設けられていない。この点、製品の特性、欠陥の程度、欠 陥製品の流通期間又は範囲等により、リコールによる回収状況が異なることがありうることから、消費品リコール規則も特別な規定を設けていない。実務上も、どの程度の回収率を目指すか、どの程度回収できたら、リ コールを完了することができるかは、生産者の自主判断に任せながら、当局が一定程度指導又は監督を行うことが多い [8]

6.処罰

 リコール規定の違反の程度に応じて、一定金額(100万元以下又は欠陥製品売上の10%以下)の過料等の処罰規定を規定した「欠陥自動車製品リコール管理条例」と異なり、消 費品リコール規則は罰則規定を設けておらず、本規則に違反した場合、「製品品質法」、「消費者権益保護法」又は「輸出入製品検査法」等の法律法規の規定に従って処罰するとされている(第26条)。従って、本 規則で定めるリコールのルールに違反した場合 [9] 、直接適用される罰則規定は存在しない。本規則で罰則規定を設けていなかったのは、企 業側による自主リコールを推奨する当局のスタンスの表れでもあるといわれている。

7.企業イメージに対する影響

 欠陥を発見した企業側は、リコールを行うことによる企業に対するネガティブなイメージ又はレピュテーションリスクを懸念する場合がある。しかし、中国においても、リコール制度及び実務の普及により、リ コールを行う企業に対して、消費者に対して責任を負う信頼できる企業であると肯定的な評価を行う消費者が増えていることが、アンケート調査等により証明されている [10] 。この点、中国の当局も、企 業によるリコールを奨励しており、消費者に対する教育等を通じて、製品に欠陥があるのはある意味不可避的な側面が存在し、それを発見した後、積 極的にリコールを行う企業を評価すべきとの認識を普及させようとしているようである。

二、おわりに

 消費者リコール規則の公布により、中国のリコール制度がある程度統一化された面もあるが、上述したとおり、製品によって異なる主管部門が異なる基準、プ ロセスでリコールを管理している現状は変わっていない。2016年の「リコールの年」におけるリコール実務において、今まで明らかになっていない論点が明確になり、当 局によるより規範的な実務運用がなされることが期待されている。

 リコール業務において、弁護士による役割も増えてきている。弁護士としては、①欠陥の認定、リコール実施義務の有無の判断等と関連する、主管部門との交渉又は協議、②リコール計画、リコール公告、F AQ等のリコール関連文書の作成、③リコール実施前後のプロセスのマネジメント及び企業側のリスクコントロール、④リコールに伴う消費者や関係事業者との間の紛争の処理等の面で、専 門的な知見に基づくアドバイスが期待されるだろう。

(おわり)


[6] 実際にも、過去において、省レベルの主管部門によって、リコールが発動されたことはないとも言われている。

[7] 製品の特性、販売状況、回収率等に基づいて、例えば、6ヵ月~1年以上設定することが考えられるが、具 体的にはリコール主管部門と相談しながら設定することが可能である。

[8] なお、リコール経過報告やリコール終了報告は、当局に提出するものであり、一般公衆には公開されてない情報であるため、リ コール実施後の回収率は公開情報ではない。

[9] 例えば、リコール計画の届出が遅れたりした場合、企業側が自社による欠陥調査報告をタイムリーに当局に報告しなかったりした場合、何 らかの処罰がないかを懸念する場合があるが、これらに対する処罰規定は存在しない。

[10] ある製品において、第1号リコールを行ったことを、企業イメージの宣伝に利用している企業も現れている。