第79回CRCC研究会「2015年の中国―習近平政権の行方」/講師:津上 俊哉(2015年 1月15日開催)
演題:「2015年の中国―習近平政権の行方」
開催日時・場所
2015年 1月15日(木)15:00-17:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演資料
「 第79回CRCC研究会 2015年の中国―習近平政権の行方」( 1.7MB )
「 第79回CRCC研究会 詳報」( 4.82MB )
日中関係今後10年は不安定な状態 津上俊哉氏が見通し
小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
中国経済の動向に詳しい津上俊哉氏(津上工作室代表)が1月15日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演、「日中関係は今後10年は不安定な状態が続くとみられ、対応いかんで日本の命運が左右される」との見方を明らかにした。
講演で津上氏は、「年7%の経済成長ができる状態ではないのにアクセルを踏み続けている」という表現で、中国の経済について厳しい見通しを示した。最も大きな問題として氏が挙げたのは、少子高齢化の急激な進行。1990年代に生まれた現在高校、大学生の世代が、10年上の世代の3分の2しかいない人口構造グラフを示し、少子高齢化による経済成長の低下が2020年代後半に深刻化するとの予測を明らかにした。人口構造に大学進学率の上昇が重なり、特にブルーワーカー(現場作業員)が半減する結果、生産性の上昇分を相殺してしまい、さらに高齢化により貯蓄の取り崩しが始まる、という理由を挙げている。
中国政府は一人っ子政策の見直しを始めているが、若い世代の多くは経済的な理由から子供2人を持とうとせず、実際に出生率が上がる兆しは見えない、とも指摘している。生産年齢人口が増えない影響の深刻さを説明するために、氏が示したのが最近10年間に日本がたどった現実。実質GDP(国内総生産)成長率は先進国で最低だが、生産年齢人口1人当たりで見ると、逆に先進国で最高という日本の現状は、現役の一人一人が頑張っても現役の総数が減ってしまえば相殺され、経済成長ができなくなってしまうことを裏付けている、と指摘した。
「中国は15年の時差で日本の後を追走しており、2020年代後半以降は、日本同様、経済成長の維持が困難になる。中国がGDPで米国を追い抜く日も来ない」と氏は結論づけている。
一方、中央財政が健全という大半の先進国には見られない強みを中国が持つことに氏は着目する。日本が経験したような不動産バブル崩壊は起きず、地方政府の債務危機も上級政府が救済する、として「短期の中国経済の崩壊はない」との見通しも示した。
習近平政権の政治・外交と日中関係のこれからについて氏は、「ノーアウト満塁でマウンドに立ったリリーフエース」と習主席をたとえて解説している。内政安定と改革推進という裏腹の関係にある二つの難題の解決を迫られているという意味だ。「習氏への権力集中」「空前絶後の反腐敗闘争」「三中全会で決定された大幅な改革」「厳しい言論弾圧」といった変化の全てが、「体制の危機感の高まりに起因する」と断じた。習氏は「開明的な専制君主、中興の祖」になり得る一方で「改革が進まなければ、急速にレームダック化する恐れもある」という後がない状況に立たされているという見方だ。
津上氏は国際的な関心を呼んでいる「アジアインフラ投資銀行」についても、膨張する国民の「大国意識」を満足させるための「経済大国外交」の具体例だとして、習政権の狙いを詳しく解説した。インフラ整備に資金を必要とする途上国に十分な融資をしない世界銀行や米国をはじめとする先進諸国に対する不満に加え、既存の国際金融機構体制内では主要な役割を演じられないとみた中国の挑戦、と氏は見ている。
アジアインフラ投資銀行に対しては、米国も日本も反対の態度を示しているが、既に参加を決めている東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、インド、中東諸国、ニュージーランドなどに続き、韓国、オーストラリアも参加する可能性がある。「日米が反対して『かやの外』にいるより、参加して意見を言うのが適切ではないか」と、津上氏は提言した。
中国の経済成長が持続するというのは幻想である、と中国自身が悟り、同じ幻想の裏返しとして日本国民の多くが抱く極端な嫌中感情が消えるまで、後10年は不安定な日中関係が続く―。氏はこうした見通しを示した上で、「流動的で危険な今後の10年間をいかにくぐる抜けるかで日本の命運も左右される」と、今後の日中関係を占った。
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津上 俊哉(つがみ としや)氏:
現代中国研究家 津上工作室代表
略歴
1957年生まれ、1980年東京大学卒業後、通商産業省に入省、在中国日本大使館参事官、北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任。2012年2月から現職。
著書に「中国台頭」、「中国台頭の終焉」、「中国停滞の核心」等。