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【14-04】中国人から見た日本の伝統的家具

2014年04月22日

李 暁亮

李 暁亮(LI Xiaoliang):淄博職業学院図書館 館員

中国山東省淄博市生まれ。
1999.9-2003.6 山東理工大学文学院 学士
2003.7-2008.8 淄博職業学院音楽表現系 助教
2008.9- 淄博職業学院図書館 館員

 日本の伝統的内装と言われて中国人がまず思い出すのは、畳や障子である。だが日本の伝統的内装に色濃い趣と高い実用性があることはあまり知られていない。日本人は一般的に、松の類の木材の内装を好む。日本は地震が多い国なので、万が一の時に運んで逃げられるように昔から内装には軽さが求められたためである。伝統的な日本住宅の最初のインスピレーションの一つは、建築学で「唐様」と呼ばれる様式で、13世紀に日本に伝来したものである(唐様とは中国の宋代の建築様式を指す)。禅宗と武士道精神との融合によって、書院様式と呼ばれる住宅が形成された。その特徴としては、大きく広がった空間と簡潔なライン、長方形の形状、内部の私的空間、大自然に対する開放・調和・統一などが挙げられる。

 日本の家具は和風のものを中心としている。和風家具は昔から、質素で緻密、さっぱりして上品な印象を与えてきた。ごちゃごちゃとして大げさな強い色彩はない代わりに、優美なラインと緻密な細工によってすっきりとした東洋の味わいがある。日本式家具の代表的なものには、座卓やタンス、戸棚、寝台、こたつなどがある。中国のインテリア設計で流行している和室の配置は普通、畳または木目の板が動かせるようになっており、居間にも客間にもできるというものである。イグサとワラで作られた日本独特の畳は、標準55mmの厚さに幾層にも分けて作られ、底の層によって湿気を防ぐ機能を持つ。畳は通風と保温の作用が高いため、暖かく湿った海洋性気候に適している。畳は単独で寝床にすることができ、寝台の上に置けば畳のベッドができる。現代の畳の製作には新しい材料と製法が使われ、その機能と品質はさらに高まっている。

 日本文化と家具の発展史を振り返ると、日本の伝統的家具と中国唐代の家具とに密接な関係があることがわかる。日本は奈良時代から、中国家具のスタイルを取り入れ始めた。中国は唐代に入ると、安定した統一の局面によって社会生活と精神生活に空前の繁栄が訪れた。唐代初期の活発な進取の精神と広大な理想とはいずれも、長期にわたって圧迫されていた情熱がほとばしったものだった。平和的な統治は民の心に沿っており、この時代の「貞観の治」(627年~649年)は明るい政治のモデルともなった。こうした文化的状況下で、「素朴で控えめ」であることが社会生活全体の主導的思想となった。唐代の家具はこの基本的な原則の下で発展したものだが、形式上の限界もあった。当時の家具は、丸々として膨らみがあり、大ぶりでどっしりしていることで知られ、豪快で安定感があり、気迫にあふれたものだった。だが形状や工芸、装飾は比較的シンプルで、家具の種類もあまりなかった。椅子類の家具の種類はいくらか増え、腰掛けの形式も以前より豊かとなり、装飾の要素も増えた。唐画「揮扇仕女図」中の宮中の腰掛けは、くびれが高い所にあり、四本の足には彫刻が施され、漆で彩られ、草花の図案が描かれ、華麗で雅やかなスタイルで目を引く。日本の伝統的家具も重厚さや質素さ、精巧さを特徴とし、中国の唐風家具と同じ効果を醸しだしており、そのスタイルは家具製作のところどころに浸透していることがわかる。日本の伝統的家具は華やかさや彫刻はなく、濃い色は施されていないが、簡潔・明快で緻密な魅力があり、現代流行しているシンプルなフォームを先取りしていたとも言える。日本の伝統的家具の特徴は以下のようにまとめることができる。第一に、造型が簡潔で、直線を基調としている。日本の伝統的家具は直線的な造型を基調とし、角がはっきりとしており、中国の古代家具のような丸みや膨らみのあるスタイルはほとんど見られない。日本のタンス類の家具は、西洋の楕円形に作られた引き出しや複雑な曲線を描く外観と比較すると、ほとんどただの四角い箱にしか見えない。机もただの四角と言っていいほどシンプルである。家具の形式は建築・室内のスタイルと同じ流れにあり、日本の家具の直線的な特徴は、日本の建築や屋外に露出した梁や柱などの構造と対応したものと考えられる。日本の伝統的家具は簡潔かつ素朴で、その機能が最大限に強調され、デコレーションや飾り付けは少なく、直線的な造型で、ラインは簡潔で、装飾があったとしても理性的に抑えられる範囲内にとどまっている。このことは日本の大和民族の性格と関係していると考えられる。日本人は禅の心を重んじ、淡白で落ち着いており、さっぱりと超脱しており、家具の風格も豪奢なものはほとんどない。第二の特徴は、自然の材料を好むことである。欧州では木材や皮革、金属、石材などさまざまな材料を苦労して加工して使っているのに対し、日本の伝統的家具は、複雑な考え方の影響を受けたこともあるがその影響は限られ、奈良時代にはそのような方向に発展する傾向があったものの、平安時代からは、家具の構造には木材と金属の部品などの装飾品だけが使われるようになり、そのほかの材料の使用は避けられた。日本の伝統的家具は自然を重んじ、美しく実用的なものである。家具の基材にはケヤキやサクラ、桐、竹、藤、草などが用いられ、透明塗りを施すことで材料そのものの質感が強調され、天然の美しさを楽しみ、素朴の中から上品な気風が感じられる作りとなっている。木製の部分は木目が出るようにカンナがかけられ、金メッキや青銅の金具などで装飾され、人と自然との融合が表現されている。第三の特徴は、精巧で格調高いことにある。日本の伝統的家具は極めて精巧に作られ、あらゆる製品に使用者への気遣いが見られ、機能が極限まで発揮できるようになっている。微に入り細に入ったその処理は、「合理的」という言葉では表すことのできないほど周到なものである。どの家具を見ても絶妙な比率で設計されており、最大限の使用が可能となっている。日本の伝統的家具の品質をはかる尺度となっているのが、その光沢と細部の処理である。木材を使った家具には二種類あり、その一つは、漆の装飾機能や金銀釉薬のデザインなどを使って上品な情緒を醸し出し、自然を表現するもの。もう一つは、木材そのものの審美的な価値を重んじるもので、光を照らし出す木材の美しさと絶妙な木目の効果に主眼が置かれる。さらに第四の特徴は、幅が広く低いデザイン。座って生活する日本人の習慣と対応したもので、日本式建築の構造や畳、杉の木の天井、障子などで構成される室内のスタイルと合致したデザインと言える。このほか造型の重々しさや多彩さ、秀麗さ、新鮮さも、日本家具の重要な特徴である。日本の伝統的家具は、東洋の家具の気風を備えると同時に、西洋の家具の誇張、さらには北欧の家具の有機的な造型の特徴も持ち合わせている。家具のラインに様々なバリエーションがあり、すっきりと流れるような線を描き、サイズもぴったりである。扉や引き出しの線の加工では、曲線と直線がどちらも用いられ、さまざまな面が描き出されている。家具の色彩は褐色系の重厚なものと、透明加工ですっきりとした秀麗なものがある。また日本の家具は非対称的な設計が取られている。非対称は対称から生まれたもので、対称が緩和された形式であり、デザインとしては、厳格な対称と調和的な均衡とのせめぎ合いとして現れる。書道が楷書(正規)、行書(半正規)、草書(非正規)に分かれるように、家具においても、正規のデザインは厳格な対称性として表現される。これに対し、半正規と非正規のデザインには自由な構想の余地がある。日本人はその絶妙な均衡を選びとってきた。一方では、厳格な基本的形式を保ち続け、こうした形式が家具の重心の変化に影響を与えた。日本人は同時に、厳格な対称を中心からわずかにずらすことで、単調さを緩和することに成功した。単なる変化からあふれる活力を引き出し、さらにはユーモアを表現するまでのその過程には一定のリスクもあり、バランスをいかに取るかがカギとなる。こうしたスタイルは家具だけではなく、庭園や建築にも延長され、さらには彫刻や内装の技術などにも応用されている。これは日本人の審美観の重要な特徴の一つである。

 日本式家具は、日本人の生活に対する気遣いや態度を反映したものであり、ディテール一つ一つが精巧で細かく、文化的な趣にあふれている。さらに製作過程では実用的な機能が最大限に運用できる工夫がこらされており、使用者は、家具の美しさを楽しむと同時に、周到な設計によって便利かつ快適にこれを使用することができる。木材や藤、竹など自然の生きた素材が幅広く応用され、このうち木材では、杉や松、カシワ、ケヤキ、クルミ、カリンなどの貴重な材料も含まれる。その天然素材の美は、日本式家具の設計理念と呼応し、天然の上品な基調を作り出している。

 日本式家具はこのように緻密で精巧なだけではなく、様々な用途に使うことができる。日本風の家具を単独で選んでほかのスタイルの家具と合わせるのもいい。客間には座卓や小型のタンス、居間には畳や座卓、書斎に本棚、部屋の仕切りには屏風やふすまなどがいい。日本式の家具は質素で上品かつ自然なので、どのようなものとも合わせやすいだけではなく、簡潔ではっきりとした設計で家の中に静かで温かい空気を作り出してくれる。

 日本では1960年代から、インテリアデザインと家具デザインが専門分野として確立した。専門のデザインチームができ、高等教育においてもインテリアデザインと家具デザインの専攻ができた。日本は戦後、技術の向上だけではなく、人材開発にも力を入れ、その急速な発展のための堅実な土台を築いた。

 癒やしが流行する現代、東洋の禅を感じさせる日本式家具は、この騒がしい世の中で、悩みとストレスを忘れ、自然で淡々とした質素な生活の喜びを見つけ、心身ともに開放され満ち足りた一時を与えてくれる。日本各地では近年始まった住宅リフォームブームが当分衰えそうになく、限られた住宅空間の中でデザインを通じて空間を十分に利用し、近代的な設備や家具を置き、生活の快適さや便利さを追求する試みがさかんに行われている。従来は「食―衣―行(交通)―住」という順番だった生活面での要望は現在、「住―行―衣―食」の順番に代わり、居住環境の改善が最優先事項になっている。

 日本のメディアの報道によると、手の動きでスマート機能が使える指輪「Ring」の販売予約が日本で始まった。指を動かすだけで様々な指令を出すことできる。スマートフォンはもちろん、対応した機器があれば、指を動かすだけでカーテンを開けたり、電気をつけたりできるという。まさに未来の道具である。この指輪の販売価格は185ドルで、予約価格は145ドル。現代の科学技術も日本の家具設計に新たな活力を注いでいるようだが、「唐様」の時代の家具からかなり離れているのも事実だ。