【25-12】対話で「記憶の繰り越し」克服を 日本人の対中国意識調査分析結果
小岩井忠道(科学記者) 2025年04月17日
ここ数年間、大きな変化がない日本人の中国に対する見方を変えるには交流を強化し、対話を重ねることが重要だとする「日本人の中国に対する意識調査2024分析結果報告書」を、笹川平和財団笹川日中友好基金が公表した。日本人の見方が変わらない一因とみられる「記憶のキャリーオーバー(繰り越し)」がもたらす負の効果を弱めるために必要な努力として、経済交流、文化交流に加え日本人にとっての最大の懸念要因である外交・安全保障面で、懸念を払しょくするための対話を重ねる必要を強調している。対中認識をめぐる世代差が生じていることを明らかにしたことを、2022年からこれまで3回実施した「日本人の中国に対する意識調査」の大きな成果としているのも目を引く。
4月3日に公表された「日本人の中国に対する意識調査2024分析結果報告書」は、昨年11月に公表済みの笹川日中友好基金による最新の調査結果を、園田茂人東京大学東洋文化研究所教授が詳しく分析したものだ。基になった調査結果は当サイトも「『親しみ感じない』73.1%に増加 日本人の中国に対する意識調査」という記事で昨年11月に紹介しており、以下のような結果が示されている。
「米国、韓国、台湾に比べ親近感、関心度のいずれにおいても中国が最も低く、この3年間ほとんど変化していない」。「日中関係を良好と思わないとする回答も2022年の状態に戻っており、下げ止まり状態にある」。「今後中国と付き合う際の方針も、この2年間でほとんど変化がなく、評価はわずかに否定的な方向に動いている」。「中国のメディアを信用しない者も毎回70%を超え、ほとんど変化していない」


(笹川平和財団「日本人の中国に対する意識調査2024分析結果報告書」から)
意識の世代差生んだ中国の急速な変化
園田教授の分析結果で「調査の最大の貢献」として強調されているのは、「中国の急速な変化が日本国内における対中認識をめぐる世代差を生み出している点を発見したこと」。「日本の高齢者は中国の政治や経済に対する関心が強く、多くの知識を持っているが、それ故、中国の変化を否定的に評価し、結果的に日中関係を悪く評価する傾向が見られた」。こうした結果を「予想外だった」としている。
「現在の60歳代が中国イメージを形成した20歳代は日中関係の蜜月期。改革・開放によって中国の政治や経済が変わることが期待され、人々は中国の政治・経済を見守り、よりよい日中関係を予想した。しかしその後、中国の変化は期待した方向には進まず、中国に対して厳しい目を向けるようになった。これに対して現在の30歳代の場合、20歳代には中国の経済力は日本を上回っており、日本が中国を経済的に凌駕していた『古き良き時代』の記憶を持っていない。また高齢者のように、中国に最初から強い期待を持っていなかったから、失望することもない」。園田教授は予想外だったとする結果に対し、このような見方を示している。
中国籍の人々との接触の影響複雑
もう一つ調査で浮き彫りになった事実として挙げているのが「内なる中国」に対する評価に見られる変化。「内なる中国」での大きな変化として園田教授は、改革・開放以降、中国から日本への移民が増え、2007年には中国籍の人々の数が、戦後長らく最大勢力だった韓国・朝鮮籍の数を抜きトップになった現実を挙げている。さらに日本人男性と結婚した外国人女性の国籍別分布で見ても、1990年以降トップだったフィリピン籍を2009年に抜き現在に至るなど、日本国内で中国籍を持つ市民の存在が大きくなっている実態にも注意を促している。
調査回答者のうち、3分の1はこれら中国籍の人たちと接触があり、残る3分の2が接触のない人たちとなっている。園田教授が注目するのは、両者で回答結果に有意の差が出た一方、その違いが単純ではないことを示す調査結果だ。「日本社会は、中国からの移民を積極的に受け入れるべきだ」「中国との関係改善のために、日本国内の中国にルーツを持つ人たちにもっと活躍してもらうのがよい」とのいずれの設問に対しても、中国籍の人たちと接触がある人たちの方が、接触のない人たちより肯定的な答えをした人が多い。一方、「中国にルーツを持つ人たちは、日本国籍の有無にかかわらず、日本より中国の肩を持つ傾向にある」「中国にルーツを持つ人たちも、日本の慣行やルールに従うべきである」との設問に対してもまた、中国籍の人たちと接触がある人たちの方が接触のない人たちより肯定的な人が多い。
こうした結果から見て取れるのは何か。中国籍の人たちと接触がある人々は日本国内で中国にルーツのある人たちを受け入れ、活用することに肯定的だが、他方、どちらかというと多文化共生の理念とは反する意見にも肯定的な声が多く聞かれる。つまり中国籍の人たちとの接触効果が単純でないことを示す結果となっているわけだ。
さらに「中国は軍備を増強しているため、日本はこれに対抗しないといけない」「現在の米中対立にあって、日本はアメリカ側に就くべきである」という設問で、中国籍の人たちとの接触がある人たちの方が、「そう思う」と回答している割合が高いとう調査結果も挙げて、園田教授は次のように指摘している。「日本国内の中国籍の人と接触したからといって、親中国的になるわけとは限らない。それどころか、中国に忖度(そんたく)しない姿勢を示している人たちは、むしろ中国籍の人と接触している人たちの方が多い」


(笹川平和財団「日本人の中国に対する意識調査2024分析結果報告書」から)
交流と対話で対中認識の変化を
こうした調査結果から明らかになった日本の現状を、園田教授は「記憶のキャリーオーバー(繰り越し)」という言葉を提示して説明している。若いころにつくり上げた中国イメージを人生の後半にも引きずるばかりか、そこから現在の中国や日中関係を眺めようとする傾向があるため、結果的に日本国内での対中認識が年齢や世代によって異なってくると考えられる、という見方だ。具体的に次のように指摘している。
「日本人の対中認識は、この数年大きな変化を示していない。これは、日本人の対中認識を再構築するほどの大事件が生じていないばかりか、『記憶のキャリーオーバー』が依然として続いているからと考えられる。中国からの人の流入が増えるといった『内なる中国』の変化も、一部『外なる中国』への評価をわずかに改善させているものの、逆効果を示す現象も見られることから、変化の起爆剤になっているように思えない」
さらに今後、日本人に求められるのは交流を深めることだとして次のように提言している。「日中関係への評価の特徴を直視し、経済交流と文化交流を進めると同時に、日本人にとっての最大の懸念要因である外交・安全保障面で、懸念を払しょくするための対話の努力を重ね、『記憶のキャリーオーバー』がもたらす負の効果を弱毒化することが重要」
対韓国、台湾、米国観とも大きな差
「日本人の中国に対する意識調査2024」は、2022年、2023年に続く3回目の調査として日本国内在住の15歳~89歳の男女3000人を対象に、昨年8月19~25日にインターネット調査法で実施された。中国のほか韓国、台湾、米国に対する親近観や関心度についても詳しく調べている。それぞれの国・地域に親しみを感じるかを聞いた質問項目に対し「親しみを感じる」と「どちらかというと親しみを感じる」を合わせた答えが最も多かったのは台湾の63.5%。次いで米国49.3%、韓国26.4%と、中国7.3%の数値の低さが目立つ。「親しみを感じない」「どちらかというと親しみを感じない」を合わせた答えも韓国48.8%、米国18.5%、台湾15.5%と、こちらも中国の73.1%が突出して高い。
それぞれの国・地域に対する関心度を尋ねた質問に対する答えにも大きな差がみられる。「とても関心がある」「どちらかというと関心がある」を合わせた答えが最も少なかったのは中国で26.4%にとどまる。「全く関心がない」「どちらかというと関心がない」を合わせた答えも51.7%と半数を超えた。最も関心が高かったのは米国で「とても関心がある」「どちらかというと関心がある」を合わせると61.5%(「全く関心がない」「どちらかというと関心がない」を合わせた答えは16.0%)。次いで台湾が56.1%(同19.9%)、韓国が37.2%(同39.1%)と、いずれも関心は中国より高いことを示している。
4カ国・地域それぞれと日本との関係を尋ねた結果からも日中関係を厳しくみる日本人の多さが目立つ。日中関係を「良好だと思う」「どちらかといえば良好だと思う」を合わせた比率はわずか3.3%。「良好だと思わない」「あまり良好だと思わない」を合わせた比率は75.5%に上る。「良好だと思う」「どちらかといえば良好だと思う」の答えが63.7%の日台関係、同じく51.9%の日米関係との差は特に著しく、「良好だと思う」「どちらかといえば良好だと思う」が19.3%、「良好だと思わない」「あまり良好だと思わない」が43.4%の日韓関係に比べてもだいぶ差がついている。
さらに、それぞれの国・地域のメディアによる日本に対する報道をどの程度信頼しているかを聞いた質問に対する答えにも、大きな差が見られた。中国に対しては「信頼している」「どちらかというと信頼している」を合わせた答えがわずか5.8%。「全く信頼していない」「あまり信頼していない」を合わせると77.8%に上る。台湾(「信頼している」「どちらかというと信頼している」53.4%、「全く信頼していない」「あまり信頼していない」25.1%)、米国(同じく47.4%、34.1%)との違いは大きく、韓国(同じく17.8%、63.8%)ともだいぶ差がある。
関連サイト
笹川平和財団笹川日中友好基金「日本人の中国に対する意識調査2024 分析結果報告書」
笹川平和財団笹川日中友好基金「日本人の中国に対する意識調査2024」
関連記事
2024年12月13日 経済・社会「日本に好印象持つ中国人12.3% 急激な悪化示す日中共同世論調査」
2024年11月27日 経済・社会「「親しみ感じない」73.1%に増加 日本人の中国に対する意識調査」
2024年02月13日 経済・社会「日本人の中国親近感過去最低 「関係良好と思わない」も9割に」
2023年10月23日 経済・社会「相手国の印象ともに悪化 日中共同世論調査結果」
2023年02月09日 経済・社会「中国への親近感さらに低下 ロシアも悪化 内閣府調査」
2022年12月21日 経済・社会「良き隣人、パートナー、競争相手 新たな日中関係柯隆氏提言」
2022年12月05日 経済・社会「経済協力期待共に7割超す 日中共同世論調査で判明」
2022年01月31日 取材リポート「対中国関係不安視85.2%に 内閣府世論調査で前年上回る」