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【23-16】中国科学院が1位に浮上 高被引用論文著者の所属機関

小岩井忠道(科学記者) 2023年11月27日

 国際学術情報サービス会社「クラリベイト」は、多くの研究者に引用された価値の高い論文を特に多数発表した研究者と所属する機関名を「高被引用論文著者リスト2023年版」として11月15日、公表した。世界67カ国・地域の1,300以上の機関に所属する研究者6,849人が選ばれている。米国の研究機関に所属する研究者が最も多い結果はこれまでと変わらないが、2位の中国が米国との差を詰め、さらに最も多くの高被引用論文著者が所属する機関として中国科学院が米国のハーバード大学を抜いて1位に浮上したことが目を引く。

高被引用論文著者の選出国・地域
(Clarivate「Clarivate Reveals World's Influential Researchers in Highly Cited Researchers 2023 List」、「Clarivate Names World's Influential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List」から作成、:香港、イタリアは前年10位外)
世界順位
前年順位)
国/地域 高被引用論文著者数
(前年)
シェア(%)
(前年)
シェアの変化
(昨年比)
1(1) 米国 2,669(2,764) 37.5 (38.3) -0.8
2(2) 中国 1,275(1,169) 17.9 (16.2) 1.7
3(3) 英国 574(579) 8.1 (8.0) 0.1
4(4) ドイツ 336 (369) 4.7 (5.1) -0.4
5(5) オーストラリア 321 (337) 4.5 (4.7) -0.2
6(6) カナダ 218 (226) 3.1 (3.1) 0
7(7) オランダ 195 (210) 2.7 (2.9) -0.2
8(8) フランス 139 (134) 2.0 (1.9) 0.1
9(--) 香港 120 1.7 0.3
10(--) イタリア 115 1.6 0.1

過去11年間の論文基に選出

 クラリベイト社の高被引用論文著者リストは、同社の学術文献引用情報データベースから前年12月までの11年間に作成され、他の研究者に引用される回数が各研究分野でそれぞれ上位1%に入る論文の著者を、各分野で優れた研究業績を挙げた科学者として毎年、選んでいる。今回は、極端に多人数、多数国の著者による論文や、過剰な自己引用やグループ引用などが特定できた論文を除外する選考法の改良も行われた。7,125の高被引用論文著者として世界67カ国・地域の研究機関から選ばれた6,849人は、世界の研究者総数のほぼ1,000人に1人に相当する。20の研究分野と、複数の研究分野で優れた業績を挙げた研究者がほぼ半々となっている。

詰まる中国と1位米国との差

 最も多かったのは米国内の研究機関に在籍する2,669人で、研究の影響力では米国が依然として世界をリードしている現状は今回も変わらない。ただし、前年に比べ95人減り、全体に占める比率37.5%も前年に比べ0.8ポイント低下した。2018年には43.3%を占めていたのをみても、米国を拠点とする高被引用論文著者の世界に占める比率は緩やかな下降線をたどっていることが分かる。一方、ここ数年と同様、2位を維持した中国は前年から106人増の1,275人、全体に占める比率も17.9%と前年に比べ1.7ポイント増となった。この5年間を見ても世界シェアは2倍以上に伸びている。「研究のグローバル化を通じて、トップレベルの科学的・学術的貢献のバランスが一変したことを反映している」と、クラリベイト社は中国の影響力の増大を評している。

 今回の調査からは、選ばれた高被引用論文著者の83.8%がわずか10カ国、72.7%が上位5カ国(米国、中国、英国、ドイツ、オーストラリア)に集中していることも明らかになっている。高被引用論文著者の所属する国・地域は、8位まで前年と順位も含め全く同じ顔触れとなった。前年9位のスイス、10位のシンガポールに代わって、今回は香港が9位、イタリアが10位に浮上している。

中国科学院から270人選出

 高被引用論文著者が数多く所属する機関の比較では、前年2位だった中国科学院が270人と前年の228人から大幅に増やし、前年1位の米ハーバード大学237人を抜いて1位に浮上したことが目立つ。上位10位の機関の顔ぶれは一部順位の変動はあるものの前年と変わらない。このうち8機関が欧米諸国で占められている中、中国科学院とともに清華大学が前年同様5位に入っているのも目を引く。人数も78人と前年より5人増えている。

高被引用論文著者の所属機関
(Clarivate「Clarivate Reveals World's Influential Researchers in Highly Cited Researchers 2023 List」、「Clarivate Names World's Influential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List」から作成)
順位(前年) 高被引用論文著者所属機関名 国・地域 高被引用論文
著者数(前年)
1(2) 中国科学院 中国 270(228)
2(1) ハーバード大学 米国 237(233)
3(3) スタンフォード大学 米国 126(126)
4(4) 米国立衛生研究所 米国 105(113)
5(5) 清華大学 中国 78(73)
6(6) マサチューセッツ工科大学 米国 73(71)
7(8) カリフォルニア大学サンディエゴ校 米国 71(66)
8(10) ペンシルベニア大学 米国 63(62)
9(9) オックスフォード大学 英国 62(63)
10(7) マックス・ブランク研究所 ドイツ 59(67)

 日本はどうか。今年の高被引用論文著者数は前年と同数の90人。9位の香港120人、10位のイタリア115人にもだいぶ見劣る。アジア地区に限っても韓国の70人は上回るものの、前年と異なり今回10位内に入れなかったシンガポールの109人にも及ばない。2014年には5位だったのが2015年には8位に下がり、2016年、2017年は辛くも10位にとどまっていた。しかし、2018年以降、10位内に浮上したことはなく、今回も代わり映えしない結果となっている。

関連サイト

クラリベイト・アナリティクス・ジャパン「世界最高峰の研究者を選出 高被引用論文著者リスト2023年版発表

クラリベイト・アナリティクス・ジャパン「世界最高峰の研究者を選出した高被引用論文著者リスト2022年版を発表

Clarivate「Clarivate Reveals World’sInfluential Researchers in Highly Cited Researchers 2023 List

Clarivate「Clarivate Names World’sInfluential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List

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