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【23-13】中国の大学軒並み上昇 英教育誌世界大学ランキング

小岩井忠道(科学記者) 2023年10月10日

 英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)は9月27日、「世界大学ランキング2024」を公表した。上位200位内に入った中国本土の大学数は13校と一昨年の10校、昨年の11校からさらに数を増やした。1位は56校の米国、2位は25校の英国、3位は21校のドイツで中国は4位。この順位は前年、前々年と変わらないが、米英ドイツの上位3カ国は、軒並み前年より数を減らしている。さらに清華大学、北京大学が12位、14位とトップ10に急接近したのをはじめ、中国は13校すべてが前年より順位を上げているのが目立つ。

「世界大学ランキング2024」トップ200に入った大学数が上位13カ国・地域
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2024」「World University Rankings 2023」から作成):数字の前の=は、同順位(タイ)を示す
国・地域 大学数(前年) 最上位大学名 最上位大学の
世界ランキング順位
米国 56(58) スタンフォード大学 2
英国 25(28) オックスフォード大学 1
ドイツ 21(22) ミュンヘン工科大学 =30
中国 13(11) 清華大学 12
オーストラリア =11(10) メルボルン大学 37
オランダ =11(10) デルフト工科大学 48
カナダ 8(7) トロント大学 21
スイス 7(6) スイス連邦工科大学チューリヒ校 11
スウェーデン =6(5) カロリンスカ研究所 50
韓国 =6(6) ソウル大学 62
日本 =5(2) 東京大学 29
香港 =5(5) 香港大学 35
フランス 4(4) PSL研究大学 40

上位10位昨年と同じ米英大学

 英オックスフォード大学が8年連続で1位となった。以下、米スタンフォード大学2位(前年3位タイ)、米マサチューセッツ工科大学3位(同5位)、米ハーバード大学4位(同2位)、英ケンブリッジ大学5位(同3位タイ)、米プリンストン大学6位(同7位)、米カリフォルニア工科大学7位(同6位)、英インペリアル・カレッジ・ロンドン8位(同10位)、米カリフォルニア大学バークレー校9位(同8位)、米イェール大学10位(同9位)。順位変動はあるものの上位10位を米英の同じ大学が占めるのは前年と変わらない。

清華、北京大学トップ10急接近

 このトップ10に急接近したのが前年の16位から12位に浮上した清華大学と17位から14位に浮上した北京大学。中国本土からはこのほか上海交通大学が43位(前年52位)、復旦大学44位(同51位)、浙江大学55位タイ(同67位)、中国科学技術大学57位(同74位)、南京大学73位(同95位タイ)、四川大学150位タイ(同196位タイ)、華中科技大学158位タイ(同176位タイ)、武漢大学164位タイ(同173位)、ハルビン工業大学168位タイ(同351-400位)、北京師範大学177位タイ(同251-300位)、同済大学185位タイ(同251-300位)と、上位200位内に入った13校すべてが順位を上げている。

 THEは「中国の台頭は21世紀における重大な出来事のひとつであり、中国の高等教育制度が向上し続けていることは驚くことではない」(元米ノースカロライナ大学所属の中国専門家)、「米国と英国は依然として大学ランキングをリードしているものの、相対的な力は衰えている」(英シェフィールド・ハラム大学シェフィールド教育研究所教授)という言葉を紹介している。同時に上記の中国専門家が「中国の優秀な教育機関は非常に強力であるが、上位25校以外では質の低下が非常に激しい。中国当局は、現在存在する格差を確実に改善できるようにしなければならない」と語っていることも明らかにしている。

アジア・太平洋地域大学高評価

 中国以外のアジア・太平洋地域の大学も引き続き、高い評価を得ている。シンガポール国立大学と南洋理工大学のシンガポール2大学が、19位(前年19位)、32位(同36位)と引き続き高順位につけている。香港も、香港大学の35位をはじめ200位内の5校すべてが上位100位内に入っているのは前年と変わらない。オーストラリアもメルボルン大学の37位をはじめ、前年より1校増の11校が上位200位内に入った。韓国もソウル大学の62位をはじめ、前年と同数の6校が入っている。

 さらに今回、目を引くのは近年、低迷が続く日本の大きな変化。上位200位内に新たに3校が入り昨年の2校から5校に増えた。東京大学が前年の39位から29位に、京都大学が68位から55位タイに浮上したほか、東北大学が201-250位から130位タイ、大阪大学が251-300位から175位タイ、東京工業大学が301-350位から191位タイと大幅に順位を上げている。世界大学ランキングでは、高等教育の世界的評価機関であるクアクアレリ・シモンズ(QS:Quacquarelli Symonds)のランキングもよく知られる。例年、THEのランキングでは、日本の大学の順位がQSのランキングに比べ相当低い傾向が顕著だった。しかし、今年の順位は今年6月に公表された「QS世界大学ランキング2024」の結果(東京大学28位、京都大学46位、大阪大学80位、東京工業大学91位、東北大学113位)と、だいぶ差が縮まっている。

「THE世界大学ランキング2024」トップ200内のアジア・太平洋大学
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2024」「World University Rankings 2023」、「QS World University Rankings2024」から作成
世界順位 前年順位 QSランキング 2024順位 大学名 国・地域
12 16 25 清華大学 中国
14 17 =17 北京大学 中国
19 19 8 シンガポール国立大学 シンガポール
29 39 28 東京大学 日本
32 36 =26 南洋理工大学 シンガポール
35 31 =26 香港大学 香港
37 34 14 メルボルン大学 オーストラリア
43 52 15 上海交通大学 中国
44 51 50 復旦大学 中国
53 45 =47 香港中文大学 香港
54 44 42 モナシュ大学 オーストラリア
=55 68 46 京都大学 日本
=55 67 =44 浙江大学 中国
57 74 =137 中国科学技術大学 中国
60 =54 =19 シドニー大学 オーストラリア
62 56 41 ソウル大学 韓国
=64 58 60 香港科技大学 香港
67 62 =34 オーストラリア国立大学 オーストラリア
70 53 43 クイーンズランド大学 オーストラリア
73 =95 =141 南京大学 中国
76 78 =74 延世大学 韓国
82 =99 70 香港城市大学 香港
83 =91 56 KAIST(韓国科学技術院) 韓国
84 =71 =19 ニューサウスウェールズ大学 オーストラリア
=87 79 =65 香港理工大学 香港
=111 88 89 アデレード大学 オーストラリア
=130 201-250 113 東北大学 日本
=143 =131 72 西オーストラリア大学 オーストラリア
=145 =170 =145 成均館大学 韓国
148 133 90 シドニー工科大学 オーストラリア
149 =163 =100 浦項工科大学 韓国
=150 =139 68 オークランド大学 ニュージーランド
=150 =196 =355 四川大学 中国
=152 =187 69 国立台湾大学 台湾
=158 =176 275 華中科技大学 中国
=164 173 194 武漢大学 中国
=168 351-400 =256 ハルビン工業大学 中国
=175 251-300 80 大阪大学 日本
=177 251-300 =272 北京師範大学 中国
180 175 =130 マッコーリー大学 オーストラリア
=185 251-300 216 同済大学 中国
=191 301-350 =91 東京工業大学 日本
=193 201-250 254 マカオ大学 マカオ
=199 =193 =189 クイーンズランド工科大学 オーストラリア
=199 174 =266 蔚山科学技術大学 韓国

新指標に特許など評価法変更

 THEは今年のランキング公表に当たって、評価法を変更したことを事前に明らかにしている。日本をはじめアジア・太平洋地域の大学の順位向上の理由の一つになっている可能性が高い。これまでは、「教育」(評価比重30%)、「研究」(同30%)、「論文被引用数」(同30%)、「国際性」(同7.5%)、「企業からの収入」(同2.5%)の五つを評価指標とし、それらをさらに細分化した合計13項目を評価した合計点で世界の大学を順位付けしていた。

 今年の評価法は項目が18項目に増え、五つの評価指標の中で全く変わっていないのは「国際性」だけ。最も大きな変更の一つは「論文被引用数」で、これまでのように被引用数の多い論文の数で評価するだけでなく、引用された論文の重要性など研究の質をより重視する評価法となった。さらに「企業からの収入」には、大学の研究が引用された特許の数という新しい項目が加えられ、評価比重も2.5%から4%に高まっている。このほか「教育」では「博士号授与数と教職員数の比率」と「博士と学士の比率」といった項目の評価比重が下がり、「教育」全体で30%から29.5%へ、「研究」でも「研究助成金」と「論文数」の評価比重がそれぞれ下がり、全体の評価比重が30%から29%へとそれぞれ低下している。

 大学の研究が引用された特許の数を見るという新しい評価法についてTHEは、「技術移転を通じて大学がどの程度、国の経済を支えているかは、もっと評価されるべきだ」と説明している。

重要論文とは何かで評価に差

 研究論文の価値をどう見るかでは、THEやQSの大学ランキングと、国際情報サービス会社「クラリベイト」が毎年、公表している「クラリベイト引用栄誉賞」の結果との大きな違いがこれまでも目立っていた。クラリベイトが、医学・生理学、物理学、化学、経済学の4分野でノーベル賞級の研究成果を挙げた研究者として毎年、ノーベル賞受賞者発表の直前に公表している「クラリベイト引用栄誉賞」の今年の受賞者は23人。日本人2人以外はすべて欧米の研究者だ。2002年以降、これまでの受賞者数を見ても日本は36人とアジア・太平洋地域で群れを抜いて多い。

 日本以外では、オーストラリア、韓国、シンガポール、香港を研究拠点とする研究者の受賞者はこれまでそれぞれ2人ないし3人だけで、中国本土からは受賞者が出ていない。「クラリベイト引用栄誉賞」を受賞後、ノーベル賞を受賞した研究者は日本で4人いるが、その他はオーストラリアの研究者が1人いるだけ。「クラリベイト引用栄誉賞」の選考法は、被引用数が多いだけでなくその論文で示された研究成果の主発見者であるか、今後ノーベル賞の対象になりそうな注目領域であるかなど論文の価値をより重視したものとなっている。こうした違いが、日本人研究者の評価の高さにつながっているとみられる。

関連サイト

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「WorldUniversity Rankings 2024

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「WorldUniversity Rankings 2023

クアクアレリ・シモンズ「QS World University Rankings2024

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