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【11-004】二酸化炭素排出の超大国・中国の苦悩−中国初のDOE認証例から垣間みる中国排出権取引市場整備の取組み−

範 雲涛(亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科 教授)     2011年 7月12日

 京都議定書に基づく気候変動対応の次期国際協調枠組みの行方には波乱含みの様相が色濃くなりつつあり、COP17の開催が今年12月に南アフリカ共和国で予定されている現在,中国の政府許認可済みのCDMプロジェクト案件数がすでに3052件を数え、国連CDM理事会による登録済み実績と照合させても分かるように、すでに800件を超え、世界全体のCDMクレジット供給総量上でも中国一カ国だけで62.80%を占めており、トップランナーの地位を築いていることが確認できるのである。(中国政府DNAおよびUNFCCC事務局HP公表データを参照) 

 それにもかかわらず,近年においては中国をホストカントリーとする第一約束期間に対応したCDMプロジェクトやVERクレジット案件の最終許認可/登録できる案件数が伸び悩んでおり、少なからぬ申請案件が国連CDM理事会でペンデングになったり、不許可となったりしている。2012年までの第一約束期間に対応したCDMプロジェクトの国連登録作業が近年になってから遅々として進まず,京都議定書に基づく次期国際協調の枠組みが今ひとつ不透明で流動的な状況になっている。その背景には、CDMクレジット登録案件数が世界最多という供給国でありながら、CDM案件の最終認証作業に必要なDOE(指定運営機関)をほとんど自前では保有できてこなかったというジレンマに悩まされてきている事情がある。

 DOE(Designated Operational Entities)指定運営機関とは、京都議定書に基づくCDMプロジェクトにおける温室効果がスの排出削減量について、第三者の立場から有効化審査と検証・認証を行う指定運営機関のこと。DOEのライセンス資格審査と認定は国連CDM理事会が行い,文書審査と現地審査に合格すれば、仮認定、さらに立ち会い審査に合格すれば、最終認定を得られる仕組み。

 目下、世界中に国連の認定を受けている正規のDOE組織は、合計52社ある中,中国では僅か4社しか持っていない。それも昨年年末に国連による許認可を取得したばかりの組織であり、出来立てほやほや。DOE組織がほぼ欧米系企業の独占状況となっている現状は,中国のCDMを含む排出権クレジットの獲得するための壁となって立ちはだかっているのである。すなわち,中国国内で欧米系CDM開発業者によるおのおののプロジェクトが、最終的に国連から排出量の確認と登録が得られるかどうかの主導権は、実施主体たる中国側の業者にはなく、往々にして欧米系DOEによって牛耳られていているというのが実態である。相対的には、中国本土系のDOE組織が業務遂行能力や資質の面でも劣勢に立たされて、中国が今後世界最大のカーボン市場へと成長するためのボトルネックがこのような正規DOE保有の絶対数不足に起因していると言えよう。

 世界中のDOE勢力関係の図式を塗替える出来事が起きたのは今年の6月3日、中国環境連合認証センターという中国政府系DOEが、ドイツのボンで開催されたUNFCCC CDM執行理事会(EB)第61回目の会議で業務資格ライセンス認定が下されたことで、15分野にわたるすべての関連業務のライセンスを一挙に獲得することができた。

その15カテゴリーに渉る業務範囲とは:

 エネルギ鉱工業/エネルギ輸送業/エネルギ需給/製造業/化学工業/建築業/運輸業/鉱山掘削・鉱物加工/非鉄金属/化石燃料の飛散性排出/スコープ/SHF4生産および消費の飛散性排出/溶剤消費/廃棄物3R処理/植林/森林再生および農業。

 これで中国環境連合認証センターは,世界52カ所の正規DOEのうち、第12番目のCDMプロジェクト認証作業に要する15科目にわたる完全なるフルセットライセンスを持つ機関と認められたことで、中国では初めての出来事で,唯一の完全な審査/認証機能を働くDOEとなっている。

 かかる中国本土系DOE組織の成長と発展に弾みがつけられる政策構想が今年6月初旬に国家発展改革委員会によって公布された。

 2015年までには、中国国内で北京、上海、武漢、杭州等既存環境交易所をベースにさらに広州、重慶、云南等複数になるカーボンエクスチェンジ取引所を設立させ、中国独自の「国内排出権取引制度」枠組みを創出させようとする壮大な気候変動自主取り組み政策が打ち出されたのである。その狙いとは,COP15会議期間中に中国が高らかに宣言した次期枠組みに対応した中期プランとしてエネルギ--消費の原単位レベルでの二酸化炭素排出削減目標の40%−45%カットを中国の自助努力によってすべての国内産業部門セクター別アプローチで着実に削減行動を展開しようとする国家戦略の実施に向けた制度インフラ整備にあろうかと考えられる。


範雲涛

範雲涛(はん・うんとう):
亜細亜大学アジア・国際経営戦略研究科教授/弁護士

1963年、上海市生まれ。84年、上海復旦大学外国語学部日本文学科卒業。85年、文部省招聘国費留学生として京都大学法学部に留学。92年、同大学大学院博士課程修了。その後、助手を経て同大学法学部より法学博士号を取得。東京あさひ法律事務所、ベーカー&マッケンジー東京青山法律事務所に国際弁護士として勤務後、上海に帰国、日系企業の「駆け込み寺」となり、日中関係や日中経済論、国際ビジネス法務について、理論と現場の両方に精通した第一人者。著書に、『中国ビジネスの法務戦略』(2004年7月日本評論社)、『やっぱり危ない! 中国ビジネスの罠』(2008年3月講談社)、『中国ビジネス とんでも事件簿』(2008年9月 PHPビジネス新書)など。