【13-01】中朝関係
2013年 7月16日
富坂聰(とみさか さとし):ジャーナリスト
略歴
1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
著書
- 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
- 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
- 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数
韓国の朴槿恵(パク・クンネ)大統領がアメリカに次ぐ2番目の訪問先として中国を選んだことで中韓両国の急接近が日本でも大きな話題となった。同大統領は7月9日にも日本との首脳会談に関して記者から問われると「避けているわけではないが」といった表現ながらその必要性を否定したのだった。
東アジアの外交環境を見渡せば、5月に北朝鮮の崔竜海総政治局長が中国を訪れたのに続いて韓国の大統領が中国訪問を果たすというように中国の存在感が高まった。相対的に日本の存在感は薄まったとの見方が区内には広がったのである。
だが、だからといって中韓の距離、または中朝関係が劇的に変化したかといえば決してそうではない。
まず韓国大統領が従来の慣例を無視してアメリカの次の訪問国として日本ではなく中国を選んだことは、日本から見れば「日本パッシング」にも映るが、韓国側の事情を考えればむしろ必然の選択だったと考えるべきなのだろう。
その理由の第一は韓国経済の現状だ。現在の財政状況が、かつてIMF管理となった1997年のアジア通貨危機以上に悪いとされる韓国経済は、貿易依存度が対GDP比で90%を超える外需偏重である。そしてその韓国の最大の貿易相手こそが中国であれば、必然的に対中貿易が韓国の生殺与奪を握ることにもなるのだ。
そして第二の理由は北朝鮮問題だ。崔特使の派遣により、中国がこの問題でどう動くのか、韓国としては正確に把握し、かつ牽制しなければならないはずだ。その意味で早期に中国側と密に話をする必要に迫られていたのである。
万一、中国が北朝鮮の望むように米朝会談に向けての根回しに動けば日本と韓国は梯子をはずされることにもなりかねないからだ。
その中国は北朝鮮に対する金融制裁や朴大統領との蜜月の演出で北朝鮮との距離が開いているとの見方がもっぱらだが、実はそれほど単純な問題ではない。
6月27日、訪中した朴大統領が会見で「両首脳はいかなる状況でも北朝鮮の核保有は容認できないということで認識を共にした」と話したことで中韓がそうした考えで一致したかのように多くの日本のメディアが伝えたが、現実はそういうニュアンスではなかったようだ。中国側は「いかなる条件下でも核武装は容認しない」とする文言を嫌い、「朝鮮半島の非核化」という言葉への修正を求めたという。また、共同声明では、「北朝鮮の核実験に憂慮を示し、北朝鮮の核保有を容認できない」と記された部分から「中国は」という主語を取り除き、韓国だけになっているなど、北朝鮮への配慮を強くにじませる内容になっているのである。
そもそも、中国が北朝鮮に対する制裁を強めたという内容についても報道されているほど単純なものではない。石油の供給を一時ストップしたことも、当初中国側は「パイプラインのメンテナンスで3日間止める」という事前の通知を行っている。
また金融制裁についても、四大商業銀行が制裁した影響が具体的にどこに表れているのか、誰もわからない程度の影響しか確認できていないのである。もし中朝間の決済業務が本格的に滞るのであれば、中国からの物資の流れも自然に止まる――支払いが止まって困るのは圧倒的に輸出超過の中国側であるから――はずだがそうした現象は起きていないのも不思議だ。
決定的なのは中朝国境にあり鴨緑江の河口に位置する黄金坪経済特区の開発が、最近になって急ピッチに進み始めたことだ。こうしたことはロシアが北朝鮮内で行っている特区でも同じだ。やはり世界はオセロゲームのように単純な図式でとらえることはできないということなのだ。