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【14-01】公務員事情

2014年04月16日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 全国人民代表大会(全人代)が閉幕した直後、中国のメディアは習近平総書記の打ち出した「八項規定 六項禁令」(ぜいたく禁止令)の成果を強調する報道が相次いだ。

 例えば、3月19日には『新京報』が〈中弁国弁 レストランが最低消費を設定することを禁止〉と題する記事を掲載している。〈中弁国弁〉とは中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁のことで、ともに党と行政の中枢神経に相当する組織だ。商務部や工商管理局がこのような規制を出すというのは別として、この2つの組織の連名でレストランの経営内容に関する規制が発せられることには違和感を拭えない。

 記事の中身は、要するに最低消費――中国の高級レストランでは座席に着いた時点で少なくともこれだけの消費をしなければならないという金額を設定している店が少なくない――の禁止によって高額支出の抑制をさらに強めようとしていることが伝えられている。

 公務員による高級レストランでの宴会禁止はすでにぜい沢禁止令によって決められているが、これを徹底するためにレストランの側にも手を入れようというのだ。

 これは、公務員が国や地方の金を浪費しているという批判をかわすために導入された〝三公消費〟(公費での外遊、公費での高級車の購入、公費でぜいたくな宴会を開くこと)の抑制の徹底を目的としている。

 習近平体制のスタートと同時に全国で進められてきた〝ぜい沢狩り〟の影響で、多くの高級レストランが廃・転業に追い込まれてきたのは周知のことだ。事実、昨年は中央国家機関の公務員の接待費は対前年比で50%まで削減(3月16日『新京報』)されている。そして今年もこの波は収まりそうもない。全人代閉幕後まもなく全国に派遣される規律検査のための巡視が始まったからである。

 今回で第三弾となる巡視は、北京・天津を中心に全国21省を回り、中央では科学技術部、大学では上海の復旦大学、企業では中糧集団、そして新疆生産建設兵団などにも査察が入ることになっているため、各地・組織は戦々恐々としている。

 だが、同時に興味深い現象も見られるようになってきている。というのも中国で常にいわれる「上に政策あれば下に対策あり」が現実になりつつあるからだ。

 3月24日、『北京青年報』は前述した最低消費禁止を受けたレストランの反応を特集しているのだが、その見出しには〈中・高級レストランは個室サービス料を新たに設定〉とある。要するに、最低消費はとらないが、個室を使うのなら(宴会は基本的に個室が多い)サービス料金を取るということで、ある種堂々と規定を骨抜きにしたに等しい現実が広がっていたということだ。ここには、いくら党中央を相手にするとしても、店が潰れるのを座して待つわけにはいかないという経営者側の抵抗も感じられる。

 同時に指摘されるのが、公務員側の影のサポートである。サービス料を設定しても支払いを拒否されればそれまでのことだからだ。

 これと同じ文脈で注目されるのは全人代で交わされた習近平と広東省の大学生農村幹部とのやり取りだ。

 公務員の給料が低すぎると指摘する大学生幹部に対して習近平は、「大学生の農村幹部の生活については関心を持っている。恋愛問題から結婚問題まで。彼ら基層の幹部たちが夢を実現するために」とあいまいに答えただけであった。

 この発言については、賄賂とは無縁の公務員の生活が本当に厳しいことのほか、三公で楽しみがなくなった公務員が組織的にこうした発言をさせたのだという意見も聞かれるのだ。つまり、ここには一つ今後始まるかもしれない公務員のサボタージュの匂いが漂っているというのだ。

 真偽は定かではないが、一つ大きな収穫であったのはこのやり取りを受けて国家公務員局の楊士秋局長が、「一部の公務員には灰色収入があるが、これはすべての公務員にあてはまることではない」と発言し、暗に灰色収入が多くの公務員の副収入になっていることを認めたことだ。