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【14-04】物流革命

2014年10月 8日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 ネット通販を中心とした電子商取引企業グループ「アリババ・グループ・ホールディング」(以下、アリババ)がニューヨーク証券取引所に上場し大きな話題となったのは、9月19日のことである。ロイター通信によれば、初日は公開買い付け価格の68ドルを大きく上回り92.7ドルの初値を付け、その人気の高さを見せつけた。

 進出した日本のネット通販の企業が逃げ帰ってくるほど熾烈な競争――出店者と消費者に対する採算度外視のサービスなど――が行われている中国で、ガリバーと呼ばれる「淘宝」、「天猫」を持つアリババの強さはつとに有名である。

 だが、このアリババを中心としたネット通販業界の隆盛を支えたのは、何も競争の激しさばかりではない。ネットで買った品物を確実かつ迅速に届ける物流の成長がともなったからこそ、現在の中国のネット通販業界の急成長は成し遂げられたのである。

 この事実は同時に、今後ネット通販業界をさらに発展させるためには、どうしても物流の発展が不可欠であることを意味しているのである。

 労働賃金の上昇や人民元レートの高まりなど「世界の工場」としての発展に限界を感じた中国は、経済発展の構造転換を真剣に模索している。

 特に政府が期待を寄せるのが、消費による経済のけん引である。なかでもアリババに代表されるネット通販の潜在的な発展の余地は計り知れないと指摘される。

 つまり消費による経済のけん引を実現するためには、流通の整備がどうしても必要になるということだ。

 この中国の事情を見事に反映したと思われる記事が掲載されたのが2014年10月4日のことである。

国務院 不必要な料金所を公路から減少させる意向〉

 という見出しで伝えたのは『新京報』であった。記事の中身を見てみよう。

 中国政府ネットによれば、国務院は近々「物流業発展のための中長期計画2014‐2020(以下、「計画」)を発表するようだ。これは現代物流業の速やかな発展を促し、現代物流サービス体系を確立し整えるためのものである。(中略)

 物流業界の成長目標を年平均8%前後とし、経済成長率に占める比重を7.5%前後とする。(中略)また社会全体に占める物量のコストを対GDP比で2013年の18%から2020年には16%にまで下げることを目指す。(以下略)

 記事のタイトルにあるように、その一つの重要な問題が、〈不必要な料金所〉にあることは明らかだろう。記事中の小見出しにも、〈公路における無秩序な費用徴収に対する整理整頓を加速する〉とある。

 中国のネット通販では、「朝注文した魚の刺身が、夜には中国内陸部でも食べられる」と形容されるほどのスピードが実現されている一方で、まだまだ事故も多く、サービスのムラが指摘されている。

 この原因が高速道路の統一されない料金システムや輸送業者のサービスの差にあることは間違いない。

 まず高速道路の問題では、かつて道路が通っているそれぞれの自治体が勝手に料金所をもうけるという問題が大きな社会問題になったことがある。この現象は、いまでこそ少なくなったが、それでも一部に残っているのである。

 一方、物流業界にも大きな問題がある。

 青海省人民政府のサイトの記事によれば、〈近年、高速道路の通行料徴収において暴力的に法を破り、悪意を持って開閉バーを破壊、不法にすり抜けるといった犯罪が日増しに深刻となってきている〉というのだ。〈なかでも開閉バーを破壊するケースでは、料金所の職員に対して暴力行為に及ぶ者も増えていて、道路の集金環境は悪化の一途をたどっている〉というのだ。こうした現実は、何も青海省だけで見られるものではない。

 2010年4月14日付大洋ネット(『広州日報』系)に掲載されたルポルタージュ記事によれば、〈広州広園大橋料金所では、1日200台以上の車が何らかの不正行為によって料金逃れをしている〉。

 また、この状況は前出の青海省人民政府のサイトにもあるように〈悪化の一途をたどり〉、現在では、〈ここの10年で最も厳しい状態になっている〉(『新京報』2013年11月15日)という。

 同記事が11月14日付『鄭州日報』からの引用として報じたところによれば、青海省では、〈今年7月と8月の期間、1日に強引に開閉バーを突破する車両は800台を超えている〉のだ。

 この現実が2020年までにどれほど改善するのか。見物である。