第158号
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伝統的工業都市重慶―「スマート化」を原動力にモデル転換

2019年11月18日 雍黎摂(科技日報記者)

「中国有数のスマートシティ」を作り上げるために、重慶市はスマートシティの「135」フレームワークを構築する予定である。「135」とは、1つのスマートシティセンターを建設し、次世代情報インフラ、基準評価、ネットワークセキュリティの3つのサポート体系を強固なものにし、民生サービス、都市ガバナンス、政府管理、産業融合、「生態宜居」(環境に優しく暮らしやすい)の5つのスマート化イノベーションの適用を発展させることを指す。

 中国の歴史ある工業基地のひとつである重慶市は現在、都市のモデルチェンジという歴史の転換点にある。ビッグデータのスマート化を利用してスマート製造の推進を続けており、伝統的な工業都市の要衝という位置づけの上に「新たなエンジン」が搭載され、まさに新旧エンジンの受け継ぎと役割交代が加速している。この2年で、重慶市ではスマート産業が発展し、全国のトップグループに入った。

 昨年、重慶市は「重慶市スマート製造発展実施プラン(2019--2022年)」を発布し、関連支援政策の後押しも受けながら、製造業のスマート化技術改造を大いに推進した。また、「2019中国スマート都市国際博覧会」において、重慶市はさらにエネルギーを集中させて「スマート製造の要衝」となり、「中国有数のスマートシティ」を作り上げることを打ち出した。

 将来に向け、重慶市は目標をはっきりと定めている。2020年までに重慶市全体のスマート産業の生産高は7,500億元に達する見込みであり、中国の重要なスマート産業基地と中国でもトップレベルとなるビッグデータのスマート化実用モデル都市の建設を基本的に完了させることである。そして、2022年までに重慶市はビッグデータのスマート化実用モデル都市の建設を完成させ、スマート社会における都市・農村融合発展の模範となり、「中国有数のスマートシティ」のモデルを示すことである。

製造業者のモデル転換が業界の発展をリード

 10月24日、重慶仙桃データバレーの5G自動運転モデル基地において、APA5.0全自動駐車システムを搭載した長安汽車の新型モデルCS75 PLUSが70秒以内に高難度の縦列駐車を成功させた。記者が乗車したL4クラスの自動運転技術を搭載した長安汽車の自動車は、無人運転の状態で対向車とのすれ違いや先行車の追従、車線変更、コーナリング、Uターン、衝突回避、障害物回避、信号通過等の各種動作を自動で安定的にこなした。

 無人運転による初の長距離試験で2,000kmの走行に成功した件や、自動運転車55台による世界最長のパレード走行でギネス認定を受けた件など、自動運転に関する探究において、長安汽車はコアテクノロジーでブレイクスルーを続けており、6つの業界ナンバーワンを実現している。

「スマート化能力は将来、自動車メーカーにとって最も重要なコアコンピタンスとなるだろう」と長安汽車の執行副社長を務める譚本宏氏は語り、スマート化に対する基本的な判断に基づいて産業改革と向き合い、コネクテッドカーのコアテクノロジーを重視し、確立することを示した。インテリジェントドライブ、コネクテッドカー、双方向通信の3分野のテクノロジーを支柱として、スマートカーのプラットフォームを段階的に構築していく。

 中国最大の自動車生産基地として、重慶市で建設された国家コネクテッドカー技術イノベーションセンターでは、産学研連携を図り、スマート化先端技術の研究を行い、ビッグデータのスマート化実用産業技術イノベーションプラットフォームを作り上げ、産業全体の発展をリードしている。

 自動車は重慶市の基幹産業であり、多数の自動車メーカーによるスマート化分野への継続的な投資によって、スマート化分野において重慶市の自動車産業は優勢を占めるようになりつつある。一方、重慶市の製造業者もリーディングカンパニーとしての優位性を発揮し、事業モデルの転換を行うと共に業界の発展も牽引している。

 宗申動力ではオートバイの最終組立ラインにスマート化改造を実施した結果、労働力が半分に節減され、自動エラー是正・防止能力が10.6倍向上し、1人あたりの生産効率が2.2倍向上した。この改善を行ったのは、宗申産業集団が工業生産の経験をもとに構築した「重慶忽米網」というインダストリアルインターネットのプラットフォームである。現在、重慶市唯一の国家級インダストリアルインターネットのプラットフォームのモデル事業として、忽米網ではすでに世界から11.4万の企業が登録しており、このうち製造業者が10万近くを占め、宗申動力にスマート化改善のソリューションを提供している。

デジタル化生産ラインとスマート工場102ヵ所を認定

 スマート工場とはどのようなものであろうか?

 長安汽車の乗用車生産工場である「長安汽車乗用車魚嘴基地」のプレス成形ラインでは、高速ダブルアームロボットを使用したラインの生産スピードは15回/分に達する。生産ラインのプレス機はすべて中国国内で自主開発し、製造された。その金型交換時間はわずか3分で、普通の生産ラインで要する20分という水準よりはるかに短くなっている。溶接ラインには産業用ロボット535台が投入され、ロボットによる自動溶接、ゴム用接着剤の自動塗装、自動搬送、自動試験等の機能を実現し、スポット溶接の自動化率は97%に達し、業界平均の80%をはるかに上回っている。塗装ラインには業界をリードする全自動ロボット吹き付けラインを導入し、排気の回収・再利用技術も実用化されている。最終組み立てラインでは高度の自動化、フレキシブル生産と高度なマン・マシンシステムを実現し、接着剤の自動塗装を導入し、組み立てプロセスでは画像精密測位や自動組み立てを採用し、資材の自動分類、自動搬送を実現している。

「自動化の応用は、今後の製造業の発展における大きな方向であり、「第三次創業」の号令はすでにかけられている」と譚本宏氏は話す。

 長安汽車と同じく、重慶市の多くの伝統的な製造業ではまさにデジタル化、ネットワーク化、スマート化に向けた発展がスピードアップしている。

 金康SERESのスマート工場は「インダストリー4.0」を基準に建設され、1,000台あまりのロボットを有し、製造のプラットフォーム化、フレキシブル化、可視化を実現している。中国船舶重工集団海装風電股分有限公司(略称:中国海装)はスマート化メンテナンスおよび無人操作の推進に注力しており、風力発電システムにおいて中国で初めてスマート化組み立て生産ラインとLiGaビッグデータセンターを導入し、スマート風力発電機とスマート風力発電所を建設した。隆鑫通用は汎用エンジン工場のスマート化改造とレベルアップに力を入れ、デジタル工場システムを整備しており、スマート化を柱としてドローンや一般航空事業に全力を注いでいる。

 2018年、重慶市のスマート産業は生産高4,640億元に達し、前年同期比19.2%増となった。今年に入ってから、重慶市ではスマート化改造プロジェクト620件が成功裡に実施されており、デジタル化生産ラインとスマート工場102ヵ所が認定され、モデル事業の生産効率が66.3%向上し、コストが22.2%削減され、モデル転換とレベルアップの重要な指標となっている。

「1322」スマートシティ管理モデルを真っ先に探究

 重慶市両江新区にある礼嘉智慧公園では、AI、ビッグデータ、IoT等の最新の情報技術とハイテクによって作り上げられた未来のスマートライフを体験できる。重慶市では政務サービス、社会統治、民生の改善等の分野におけるビッグデータのスマート化実用が推進されており、市民はスマートシティの生活を享受している。

「大量のデータが道を走るが、道行く人々は少ない」。重慶市社会広報政務データリソース共有交換プラットフォームが設立され、同市の62の部門とつながる3,030分類の各種データにリアルタイムでアクセスできる。重慶市全体の一体化オンライン政務サービスプラットフォームの完成によって統一プラットフォームによる行政手続が実現し、手続にかかる時間が1/3以上短縮された。

 重慶市江北区では、区全体の浄化槽や下水道等1,555ヵ所の危険源からの気体が24時間オンラインで監視され、電灯10,000ヵ所のスマート制御が実施され、600kmに及ぶ地下排水管が地理情報システム(GIS)でカバーされている。江北区スマートシティ運営管理センターの巨大なディスプレイではリアルタイム監視画面とデータ画面が絶えず切り替わり、江北区内全体のリアルタイム動向が表示されている。

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重慶市江北区スマートシティ運営管理センター(筆者撮影)

 都市管理職員の巡回や市民からの情報に頼るこれまでのやり方と異なり、同センターでは「スマートというブレーン」の強みを発揮し、ウェブカメラのスマート撮影システムと合わせ、都市によくある58種類の問題に対するスマート収集、情報の一括伝達、自動派遣、スマート検証、スマート解決を実現した。同区の都市管理はグリッド化1.0からスマート化3.0へと飛躍的な変化を遂げ、現在はスマート化4.0へのレベルアップに向かっている。

「我々は中国国内でまだ基準が確立しておらず、事例もない状況で、全国に先駆けて『1322』フレームワークの新型スマートシティ管理モデルを摸索し、構築した」。重慶市江北区スマートシティ運営管理センターの主任を務める曽卿華氏によれば、「1322」フレームワーク体系は、1つのビッグデータセンターと3つの管理プラットフォーム、2つのサポート(スマートシティ管理センターと全業務融合)、2つのサブプラットフォーム(ビッグデータ分析プラットフォーム、コンポーネントのIoT)により構成される。

 2010年に江北区のデジタル化都市管理システムは全面的に完成して正式に運用され、江北区全体の都市施設・設備93万件あまりについてIDのデジタル化が実現し、ビッグデータセンターでは業界を超えた都市総合データの共有によって、モデリングとスマート分析によって江北スマートシティ管理ブレーンが構築された。「1322」フレームワークによって江北区は6,551ユニットのグリッドに区分され、街区で2級に分けられた責任グリッド461ユニットと770の責任主体がスマートシティ管理総合監督プラットフォームに組み入れられた。都市管理問題については、人々の情報に頼るこれまでのやり方からスマート収集を主体とし、移動巡回を補助とするものに変わっている。近年、江北区ではスマート都市管理総合監督プラットフォームにより156万件の都市管理問題が発見・受理され、解決率は96.47%に達している。

「中国有数のスマートシティ」を作り上げるために、重慶市はスマートシティの「135」フレームワークを構築する予定である。「135」とは、1つのスマートシティセンターを建設し、次世代情報インフラ、基準評価、ネットワークセキュリティの3つのサポート体系を強固なものにし、民生サービス、都市ガバナンス、政府管理、産業融合、「生態宜居」(環境に優しく暮らしやすい)の5つのスマート化イノベーションの適用を発展させることを指す。


※本稿は、科技日報「伝統工業要衝転型 重慶発動"智能引擎"」(2019年11月7日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。