第169号
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自動運転のカギを握る高精度地図の産業化まであとどのくらい?

2020年10月06日 馬愛平(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

 地図サービスは、インターネット時代に手堅い需要がある。今年8月、配車サービス最大手の「滴滴出行」は独自に開発した地図サービス「滴滴地図」を打ち出した。「滴滴出行」の共同創始者兼最高技術責任者(CTO)で同社傘下の自動運転企業の最高経営責任者(CEO)である張博氏は、「配車の依頼が出された位置、お勧めの乗車ポイント、依頼後のスマート配車、調整、走行ルート計画、予想到着時間、走行中のナビゲーション、安全・保護、渋滞回避などの面において、滴滴地図は常に最適化を実施している。現在同サービスは深圳や成都など10都市以上で利用が可能」と説明する。

 第9回世界地理情報開発者カンファレンスで、張氏は、「スマート地図は既に、当社のコア技術となっている」と述べた。ある専門家は、「滴滴出行が独自開発した地図サービスをリリースしたのは、配車業務のサービスのほか、『高精度地図』という重要な目標に焦点を合わせているから」と分析している。

 では、高精度地図の発展はどのような現状なのだろうか?そして今後、標準化やカスタマイズの目標をどのように達成するのだろうか?こうした疑問について、業界内の専門家に取材した。

現実の道路シーンをデジタル化で再現

 高精度地図は自動運転に不可欠な要素となる。

 寛凳科技の商品開発副責任者・孫旭氏は取材に対して、「高精度地図は自動運転のニーズに応えるために開発された。従来の電子地図と比べたときの両者の最大の違いは、高精度地図のサービス対象が自動運転意思決定システムであるのに対して、従来のナビゲーション地図のサービス対象はユーザーであった点だ」と説明した。

 清華大学インテリジェントコネクテッドビークル(ICV)・交通研究センターの弁公室副室長、中国ICVイノベーション聯盟自動運転地図・位置測定業務グループの秘書長・江昆氏は、「どんなランクの自動運転のガイドラインにおいても、地図は核心となるモジュール。自動運転のランクが高いほど、地図の重要性も高くなる。従来の地図は、衛星の位置測定の存在に依存していたが、高精度地図は、それ自体が一種の位置測定プラットフォームで、自動運転という分野において積極的に位置測定情報を提供する」と説明した。

 孫氏によると、「高精度地図は、現実の道路シーンをデジタル化して再現したということができる。道路やその付属施設などの各種要素の位置、形状、セマンティック情報などを非常に詳しく、かつ正確に表現している。ナビゲーションという属性を見ると、車道レベルでナビゲーションしてくれる。例えば、北京の東五環路(北京市中心部から10キロほど外周を通る環状道路)にあるいくつかの立体交差点は、高精度地図において、道路全体の形態を見ることができる。道路上の全ての車線境界線、ひいてはその始まりと終わりの地点まですべてが正確に表現されている」という。

 そして、「現実の世界のリアルで正確な表現に基づいて、高精度地図は自動運転意思決定システムに自動車周辺の豊富な道路シーン情報を提供し、自動運転車両がセンサーを通して情報を取得するうえで有効なサポートとなる。高精度地図情報と車両のセンサー情報を組み合わせて、より正確でロバスト性(コントロールシステムの性能安定維持能力)のある車両位置測定機能を実現し、自動運転の意思決定に網羅的な情報を提供し、自動運転の意思決定実現をバックアップする」という。

「高精度地図には豊富な応用シーンがある。公共道路や港、駐車場などのレベル3(特定の場所でシステムが全てを操作、緊急時はドライバーが操作)、レベル4(特定の場所でシステムが全てを操作)の自動運転に不可欠な基礎データサポートを提供する」と孫氏。

 また、スマート交通の分野の都市交通計画、管理、道路における取り締まり、道路資産のパトロール・検査、管理、道路のメンテナンス、清掃、スマート路線バスなど、多くの分野の産業スマート化、精密な管理の高度化に、高精度地図は重要な基礎を提供する。

 孫氏は、「高精度地図が自動運転やスマート交通、生活サービスなどの各分野で幅広く応用されるようになるにつれて、より高精度で、要素の豊富な地図製品が次第に産業高度化のための必須アイテムとなっており、中国が新インフラに力を入れているのを背景に、高精度の地図が必ず、現有の従来の地図に段階的に取って代わるようになるだろう。そして、最終的に、産業チェーンの重要な一部として自動運転やスマート交通の産業高度化を促進するようになるだろう」と予測している。

地図データのクオリティが自動運転に大きな影響

 高精度地図は、人や車、道路などの各交通参加者をつなぐ架け橋で、自動車メーカー、地図メーカー、インターネット企業、チップメーカーなどが、それをめぐって各種連携を展開し、共にその発展を促進している。また、自動運転技術が急速に発展し続けており、高精度地図はより高いレベルで発展、進歩することが期待されるようになっている。

 孫氏は、「自動運転が進歩しているため、まず地図にはより豊富な要素が求められるようになっている。例えば、比較的簡単な高速道路のシーンの切り替わり、比較的複雑な都市のシーン、通行規則が複雑な都市のシーンの道路の交差点、各種道路施設、各種交差点の通行規則などは、高精度地図において確実、かつ正確に表現されていなければならない。そのため、高精度地図のデータ規格、データ基準定義、地図の測量自動化の程度などに対して、高いレベルが求められる。自動運転車両の重要な運転支援情報源である高精度地図のデータのクオリティは自動車の位置測定の精度に直接影響し、さらに、自動運転機能のスタートとストップにも影響する」と説明する。

 高精度地図のデータのクオリティは、地図の精度や地図が随時更新されるかによって決まる。例えば、高精度地図のデータがリアルタイムで更新されなければ、情報の遅れが原因で安全リスクが高まってしまう。

 電気自動車(EV)メーカー「理想汽車」の郎咸朋総経理は以前、取材に対して、「レベル4の自動運転の場合、最低でも『日』単位での更新が必要で、一部の重要な情報の場合、『時間』単位で更新しなければならない」と述べた。

 データをリアルタイムで更新するためには、大量のリアルタイム動向情報が不可欠となる。高精度地図には、膨大な道路交通データの下支えが必要で、データ収集能力がカギとなることは言うまでもない。

 高精度地図のデータ収集方法には、専用ツール・専門家による収集とクラウドソーシングによる収集の2種類がある。

 前者は専用のツールや専門家によってデータが収集され、道路ネットワークデータや車道ネットワークのデータ、道路交通設備のデータ、安全補助データなどの情報が収集される。そして、集中的にデータを収集した後、データを融合、処理、発表、交付するなど、多くの作業が必要となる。

 高精度地図のデータ収集効率を向上させるため、一部の自動運転企業や自動車メーカーは既に、クラウドソーシングによる収集を採用し始めている。フロントカメラを搭載した車両を通して、道路状況のデータを記録し、それをデータセンターに送って、アルゴリズムを通して、価値のある情報だけを抜き取り、地図の更新を行うという方法だ。

 孫氏は、「高精度地図は、どれだけスピーディーな更新能力を有しているかが、サービスのクオリティを左右する重要な指標となる。自動運転が発展するにつれて、クラウドソーシングによるデータ収集を通して更新するスタイルが次第に主要な更新スタイルとなっており、高精度地図の自動運転車両に対するサービスクローズド・ループが形成されている」との見方を示す。

持続可能な発展は産業の大規模化がカギ

「量産」は今年、高精度地図と高精度位置測定業界にとって、大きな意味を持つキーワードとなっている。広汽新能源は3月、EV SUVモデル・Aion LXに、自動運転オープンプラットフォーム百度Apolloの高精度地図を搭載することを正式に発表した。中国は6月24日、「北斗衛星測位システム(BDS)」を構成する最後の衛星・北斗3号の打ち上げに成功した。その高精度な技術は成熟度をアップさせた後、スマート運転産業で運用されることになる。

 では、現在、高精度地図の発展にとって何が足かせとなっているのだろうか?孫氏は、「自動運転産業の重要な部分である高精度地図製品には、持続可能な大規模発展が必要で、その実現には、産業全体の大規模化が必要だ」と指摘する。

 そして、「高精度地図のデータ収集から製作までの複雑さの程度は、従来の地図の作業・製法よりもはるかに高い。そのため、コストに大きな差が出てくる。基礎となる地図のデータ収集、製作にしても、その後の地図の継続的な更新にしても、企業にとっては多額の資金が必要となる。また、自動運転産業にさらに有効なサービスを提供し、道路情報・データ収集能力や処理能力を強化しなければ、本当の意味で産業全体の良い循環を形成することはできない」と指摘する。

 新インフラの推進が加速するにつれて、さらに多くの道路情報の標準化、サービスインターフェースの統一化が進み、高精度地図の情報収集のルートも増え、それにより、高精度地図の情報収集コストが低減し、高精度地図製品の発展がより加速するとみられている。

 地図自体は大産業ではないものの、基礎データやサービス提供者として、各業界と結び付くことができ、さらに、各業界の情報化技術が発展するにつれて、カスタマイズのニーズも一層高まっており、地図データの標準化体系の構築は急務となっている。

 では、今後、標準化とカスタマイズをめぐる目標を達成するためには、どのような取り組みが必要となるのだろうか?

 孫氏は、「高精度地図の標準化とカスタマイズは、時間のかかる作業。その実現には、市場ニーズの主導が必要だ。現在、中国国内外の標準化作業は自動車メーカーや地図企業が共に模索しながら行っており、川上産業の応用のニーズを満たす基準でなければ、実行が不可能だ。一方、地図企業は、いかにニーズを満たしながら、低コストでデータを採集し、高精度地図を製作するデータ技術、自動化生産プラットフォームを構築するかという課題に直面している。今後、高精度地図データの応用の過程で、データの暗号化処理も必要不可欠な作業となり、産業全体が発展するにつれて、高精度地図データ基準も細分化され、少しずつ実行可能なソリューションが形成されていくだろう」との見方を示した。


※本稿は、科技日報「作為自動駕駛的行動指南 高精地図距離産業化還有多遠」(2020年09月16日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。