第171号
トップ  > 科学技術トピック>  第171号 >  南京国家農業ハイテク産業モデルエリア:エコスマート農業「百花園」構築

南京国家農業ハイテク産業モデルエリア:エコスマート農業「百花園」構築

2020年12月10日 金 鳳(科技日報記者)

image

南京国家農業ハイテク産業モデルエリアの白馬中植ブルーベリー・ブラックベリー産業モデルパーク(取材先提供)

1周年を迎えた、中国第1陣、長江デルタ地域唯一の農業ハイテク産業モデルエリア

 オランダの企業10社がこのほど、飼育するブタや肉用ニワトリの声による健康チェック、動物の個体識別、家禽、ブタの飼育小屋の自動管理、生きたブタの遺伝子育種など、最先端の家畜養殖・加工技術を携えて、江蘇省の南京国家農業ハイテク産業モデルエリア(以下「南京国家農高区」)を訪問し、技術を披露した。

 これらの企業は、農業・養殖、農業自動化設備、農産品生産加工などの分野で、中国でのビジネスチャンスと江蘇省での提携パートナーを見つけたいと考えている。

 よく似た光景が2ヶ月前にもあった。在上海日本総領事館と日本の農業関連の企業約10社が南京国家農高区を訪問、意見を交換し未来を語り合っていた。

 南京国家農高区は、まるでエコスマートな農業の「百花園」の如く、世界各地からやって来るゲストに多様なニーズと選択肢を提供している。

 昨年11月18日、中国国務院は南京国家農高区の建設を認可し、以来、同エリアには優良プロジェクトが続々と集まり、今年調印された1億元(約15.9億円)以上のプロジェクトは19件、その投資額は合わせて50億4,200万元(約802億円)に達した。登録された重大プロジェクトは14件、新規プロジェクト情報は110件である。ここ一年で、南京国家農高区にはイノベーション資源が集積し、南京農業大学や南京林業大学など、高等教育機関や研究所等7機関が入居して急速に発展していると同時に、江南大学や江蘇大学、江蘇農林職業技術学院との戦略的提携も強化されている。農業発展の基礎構築、デジタル農村の建設推進、グローバル提携の深化、及びビッグデータやクラウドコンピューティング、農業スマートデバイスの採用により、同エリアの農業・産業の「IQ」はより高まりを見せている。

 このほど成立1周年を迎えた南京国家農高区は、現代農業の高い品質の発展のルートを模索しながら、活気に満ち溢れている。

「高いIQ」を備えた土地と農産品

 中国の現代農業はスマート農業の方向へ発展しており、南京国家農高区では、農業生産のデジタル化、デバイス・設備のスマート化、農業サービスの情報化などを進めて、土地、農産品の「IQ」を高めている。

 南京国家農高区の白馬中植ブルーベリー・ブラックベリー産業モデルパーク(以下『モデルパーク』)では、スタッフはマウスをクリックするだけで、ブルーベリーやブラックベリーの栽培日数、生物季節現象、土壤の含水量、温度・湿度、農事などの情報をチェックすることができる。

 現場責任者の兪小花氏によると、現在、約33.3ヘクタールのモデルパークにおいて、約4万株の苗が江蘇省中国科学院植物研究所により提供されたという。「専門家が選択・育成した優良品種で、高効率栽培技術、土壤改良マニュアルに加えて、5Gスマートデジタル農場管理プラットフォームを駆使することで、ブルーベリー・ブラックベリーは短期間で実を着け、それを販売することができる」。

 南京国家農高区ができる以前に、現地では既に現代農業産業体系の構築が始まっていた。では、よりハイレベルなスタート地点に立ち、南京国家農高区の発展に適したプロジェクトを実施するには、どうすれば良いのだろうか?

 南京国家農高区の投資促進部の責任者である李凱氏によると、バイオテクノロジーを活用した農業を主導産業、未来食品産業を突破口とし、農産品の特色ある加工、農業スマート設備製造、農業テクノロジーサービス業を「1+3+1」オール産業チェーン体系として、提携パートナーを探している。

 南京国家農高区と提携する、ネット上で人気の生鮮EC大希地もその一つで、最近開催されたばかりの「ダブル11(11月11日のネット通販イベント)」では、ショッピングサイト・天猫の生鮮食品分野で一番人気となった。

 大希地未来モデル工場生産ラインを訪れると、牛肉は解凍、余分な脂肪除去と成形を経て、定量カットマシンによる3Dスマートスキャンで、牛肉の体積や重量に基づいて密度を測定し自動カットを行うことで、牛肉のひと切れ毎の厚さと質が均一になるようにしていた。

 多忙な生産ラインを前にして、大希地の郭紀剛副総裁は1年前に同エリアに進出するという決断は正しかったと振り返る。「ここ数日、急ピッチで生産している。昨年10月にこちらに視察に来た際、政府がとても積極的で、農業の現代化水準も高く、一流のビジネス環境があることが分かった。南京国家農高区が成立すれば、産業的雰囲気がもっと良くなると感じた」と語った。

 南京国家農高区の「未来」を信じて、大希地は今年1月に契約を締結し工場を建設した。

 郭副総裁は「工場建設期間中、政府のほうから当社に来て、各種証書の手続きをサポートしてくれたので、かなりの手間が省けた。効率的に政府とやり取りができたおかげで、工場は今年8月28日に正式に生産が始めることができた。新型コロナウイルス流行期間中も、南京国家農高区が関連当局と連絡を取って人材を募集してくれたおかげで、100人以上の応募があり人手不足を緩和することができた」とする。

 南京国家農高区経済発展部の責任者である施晨曦氏によると、企業を呼び込み、しっかりと根を下ろして発展してもらうために、オールライフサイクルサービス体系を構築しているという。例えば、プロジェクトの推進段階では、企業の審査関連の手続きを代行し、企業サービスの部分では、専門のサービス機関を設置して、企業の戦略計画、生産・流通、安全・環境保護、財務・経営などの面のサービス体系を構築している。

イノベーション資源が集積し農業の発展を牽引

「この1年で、表現型の研究施設が90%完成した。少し前には、大豆の茎の高さや葉の面積、葉の葉緑体レベルなどをモニタリングしたばかりだ」南京国家農高区の南京農業大学(以下「南農」)白馬基地で、そう語る同校の傅秀清准教授は、暇さえあればチームと共に農地に腰を下ろし、作物のフェノミクス研究に励んでいる。

 南農は農地に作物の表現型の移動研究施設を設置し、マシンビジョン、画像認識、ディープラーニングなどの方法を通して作物の「超音波検査」を行い、そのオールライフサイクルのデータをモニタリングしている。

 傅准教授は「データがある程度蓄積されると、生産性の高い品種が選出でき、ビッグデータ解析や作物形状の分析を通して、作物の生産性の高い遺伝子を発掘する。プロジェクトを南京国家農高区で開始すると、無料で工場やオフィススペースを提供するなどのサポートを提供してくれた。昨年、作物の表現型研究チームは、南京慧瞳作物表現型研究院を立ち上げ、南京市2020年度第一期市級新型研究開発機関に名を連ね、50万元(約795億円)の資金補助も獲得した」と説明する。

 農業の高い品質の発展には、イノベーション資源の下支えが不可欠だ。現在、南農のように南京国家農高区に入居している研究機関は7か所あり、提携パートナーと様々なコラボレーションを展開している。例えば、既に入居契約を結んだ南京周子未来食品科技有限公司は、南京農業大学の周光宏教授が率いるチームの研究に基づき、今後培養肉の開発や大量生産に取り組む計画だ。江南大学と南京溧水区政府が共同建設することで合意した未来食品技術イノベーションセンターの建設案は、省の専門家の論証をクリアした。南京林業大学の新キャンパスや農業テクノロジーイノベーション港もここで誕生した。

 この1年間、南京国家農高区のイノベーションプラットフォームの構築過程を実際に経験した南京白馬高新区科技人材局の張群局長は「南京国家農高区が農業テクノロジーイノベーションの策源地となるためには、高等教育機関や研究機関を集めるだけではなく、科学研究成果の技術移転を行い、イノベーションによる農業発展を牽引することが必要だ」と語る。

グローバル提携を展開してオープンなイノベーション能力が向上

 最先端科学研究やエコスマートな農業産業が集積し、加えてオープンでウィンウィンの構造と「サポート」式の政策サービス体系が相まって、南京国家農高区の「友達の輪」は拡大を続けている。

 荷蘭科集系統有限公司(以下「科集」)は、オランダに本社を置くオーダーメイド温室の設計や施工、建設を行う多国籍企業で、最近、オランダ貿易促進会により南京国家農高区が同社に紹介された。科集でアジアエリアを統括する王子宵氏は「実地調査を通して、南京国家農高区には良い農業発展の基礎があり、質の高い農産品の生産、宣伝販売の産業チェーンも健全であることが分かった。また、高等教育機関やハイレベルの技術人材が集積しており、ヒューマンリソースのコストパフォーマンスも悪くない。数ヶ月の視察を経て、南京国家農高区と提携することで合意した。当社は今後、研究開発と加工・製造のモジュールを南京国家農高区に置く予定だ」と話す。

 南京国家農高区に入居している企業や、提携を展開する高等教育機関、研究機関およびグローバルプロジェクトを対象に、南京市と溧水区はサポート政策を打ち出している。例えば、南京国家農高区の農業関連企業が新たにスマート設備を導入する場合、最高で800万元(約1.27億円)の補助金を支給している。また、新たに入居する外資系企業や大型企業に対しては、年間払込登録資本に基づいて、一定の割合で最高1,000万元(約1.59億円)の奨励金を給付している。さらに、農業産業基金100億元(約1,590億円)を設立し、研究開発能力の強化、自主ブランド構築、設備のレベルアップ、ハイレベル人材招聘などに取り組む企業に重点的なサポートを提供している。

 科集との提携は、南京国家農高区のグローバル協力のプロローグに過ぎない。李氏によると、南京国家農高区の投資促進部は、現在日本やオランダ、米国、一部の東南アジアの国の企業や機関とマッチングを展開し、最先端の技術を導入するための商談を行っている。例えば、在上海日本総領事館とマッチングした際は、日本企業の南京国家農高区への入居やプロジェクト実施などを呼びかけている。また、日本の日中産学交流推進協議会と共同で日本農業テクノロジー交流協力センターを設置し、海外インキュベーションプラットフォームを立ち上げ、日本の農業企業のスマート設備、スマート農業などの分野の経験を吸収して取り入れる機会を探っている。

 成立1周年を迎えた南京国家農高区が、中国で第1期の長江デルタ地域唯一の農業ハイテク産業モデルエリアとして、今後どのように基礎を固めながら革新を進め、前途を開拓するのか、期待は高まるばかりだ。


※本稿は、科技日報「南京国家農高区:打造緑色智慧農業"百花園"」(2020年11月18日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。