第173号
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ロケットの開発:打ち上げ以外に残骸の回収も重要な課題に

2021年02月24日 付毅飛(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

専門家が語るロケット残骸落下地点の選定とその影響、損失を最大限回避する方法......

 雲南省シーサンパンナ タイ族(西双版納傣族)自治州人民政府は12月5日に発した緊急通知で、「ロケットの残骸の中に残っている残留物や危険物には、二次災害の危険があるため、近づいたり、触ったりしないように注意してほしい。また、ロケットの残骸を勝手に分解したり、拾い上げたり、隠したり、販売したり、購入したりすることは厳しく禁じる」と発表した。

 同通知は、12月6日午前11時58分、中国は四川省西昌衛星発射センターから、衛星軌道キャリアロケット・長征3号Bを使用した、衛星「高分14号」の打ち上げに成功したのにあわせて発表された。通知は、「シーサンパンナ・タイ族自治州勐海県勐満鎮、西定郷、勐遮鎮、勐阿鎮の一部の地域は、ロケットの残骸落下地点に設定されたエリアであるるため、関係する道路に管制を敷く」とし、現地の住民に対して、「政府の通知の支持に基づいて、退避し、防護を行うように」と呼びかけた。

 ロケットの残骸落下地点はどのように選定され、こうした残骸はどのような影響をもたらすのだろう? また、どうすれば、損失を最大限回避できるのだろう? これらの問題について、中国航天科技集団一院(中国キャリアロケット技術研究院)の専門家が筆者の取材に対して、次のように説明した。

物理的打撃のほか、爆発の危険も

 分かりやすく説明すると、キャリアロケットが分離して大気圏に再突入すると、飛行コントロール、回収の対策が講じられていない第一段、第二段エンジンなどは、構造の破裂、や爆発により残骸が発生する。

 中国航天科技集団一院のキャリアロケット・長征2号Cのチーフデザイナー・李君氏によると、中国内外の現役のキャリアロケットは通常、多段式ロケットで、衛星と連結している第三段エンジンのほか、ブースター、第一段、第二段エンジン、衛星フェアリングなどから構成されている。それぞれの部分は、各々の役割を果たした後、飛行中の各段階で分離・落下する。12月6日に打ち上げられた長征3号Bを例にすると、三段ロケットで、外部取付け式ロケットブースターが4台搭載され、ブースター、第一段、第二段エンジン、衛星フェアリングなどの残骸が発生する可能性がある。

ロケットの残骸の危険性は、多方面に及ぶ

 まず、ロケットの残骸が空から落下すると、地面が物理的打撃を受ける。しかも、分離された部分によって、その打撃の大きさも異なる。例えば、衛星フェアリングは、ロケットの先端部分の部品で、衛星の外側を覆っている。通常、ロケットが大気圏離脱後に分離し、その時の飛行高度は100キロメートル以上、速度は秒速3キロメートル以上である。しかし、衛星フェアリングは、カバーが薄く、重量が軽く、面積が広いなどの特徴があるため、大気圏に再突入すると空気抵抗の影響で一気に減速する。分析と飛行測定データによると、衛星フェアリングが地上から約10キロメートルの高さまで落下した時の、落下速度は秒速100メートル未満で、地上に到達した時は秒速20~30メートルにまで落ちている。簡単に言うと、動作さえ素早ければ、落下してくる衛星フェアリングを発見した時点ですぐに逃げれば、直撃を避けることは可能だ。

 一方、ロケットの第一段、第二段エンジンやロケットブースターが落下するときは、それほど生易しいものではない。それらの構造体は円柱形であり、空気抵抗を受ける面積が小さいため、内部のエンジンや燃料タンクなどの質量が大きく、大気圏に再突入する速度が速く、その衝突威力はすさまじい。李氏によると、ロケットの第一段エンジンが地上に落下する時の速度は秒速100メートルを超える可能性がある。報道によると、2013年12月2日、長征3号Bで無人月面探査機「嫦娥3号」が打ち上げられ、第一段エンジンの残骸が湖南省邵陽市綏寧県の民家2戸に落下し、被害が出た。現地では事前に避難指示が出ていたため、幸いにも死傷者はなく、被害を受けた民家の住民の損害は賠償された。

 上空から物体が落下するだけでなく、第一段、第二段エンジンの中に残るロケットエンジンの推進剤や高圧ガスも危険だ。

 李氏によると、ロケットは、ボディ、増圧輸送システム、電気システム、動力システムなどで構成される複雑なシステムで、そのうちの一つ、またはいくつかの部分で、ある程度内の誤差が生じたとしてもロケットの打ち上げが成功するためには、各段のロケットエンジンの推進剤が一定量残るようにしておかなければならない。2種類の推進剤を使ったロケットには、少なくともそれぞれ100キログラム以上の予備の推進剤が入っている。

 従来の液体燃料キャリアロケットの第一段、第二段エンジンの推進剤は、四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジンだ。この2種類の燃料には、以下のような特徴がある。まず、有毒で、土壌や植物、水資源を汚染し、一定の濃度に達すると人体にも危険なものとなる。次に、容易に自然燃焼する。この2種類の燃料が接触すると燃焼し、量が多くなると爆発する可能性もある。ロケットの第一段、第二段エンジンが秒速100メートルに迫るスピードで地面に直撃した際、カバーの薄いロケットのボディ推進剤タンクがその衝撃で破裂する可能性は極めて高い。そして、別々の燃料タンクに入っていた2種類の燃料が非常に高い確率で、一気に混ざり合い爆発が起きる可能性がある。通常、その爆発の威力はすさまじく、重さが600キログラム以上あるエンジンの破片が遠くまで飛び散り、爆発の衝撃で数十メートル先の窓ガラスも割れる可能性がある。

 第一段、第二段エンジンが地上に落下した時に、推進剤タンクが破裂して爆発が起きなかったとしても、安全というわけでは決してない。ロケットが飛行している間、推進剤タンク内には2~3気圧、さらにはそれ以上の気圧がかかっている。地面に落下した時に推進剤タンクが破裂しなかったとしても、その圧力が放出されるにはかなりの時間がかかる。また、第一段、第二段エンジンには用途、圧力が異なるエアボトルがある。例えば、エンジンの振動を抑制するサーボメカニクスに使われているエアボトルの圧力は21パスカルにも達し、大気圧は約210気圧になる。

 これらが、ロケット打ち上げ前に、残骸が落下する可能性のある地域の住民に避難指示を出し、ロケットの残骸は専門家が回収して処理する理由だ。

上空で十数メートルの誤差が地上で数キロメートルに

 ロケットの残骸には危険性があるため、その落下地点の設定が、各国がロケットを打ち上げる時に直面する課題となる。

 ロケットブースターや第一段、第二段エンジン、衛星フェアリングなどの構造体がロケットの飛行中に分離される段階はそれぞれ異なるため、一度の打ち上げで設定する必要のある残骸の落下地点も複数になる。

 李氏は、第一段エンジンの残骸の落下地点を例にして、「ロケットの飛行軌道、ロケットが飛行中の地上の投影ポイント、第一段エンジンが分離される位置などを、綿密に計画する。分離する時の飛行速度、角度のパラメータなどを総合的に考慮すると、残骸の落下するセンターポイントを計算することができる。だが、ロケットの実際の飛行においては、物体にかかる外力や質量のわずかな変化、エンジンの推進力の微妙な変化など、いろんな不確定要素があり、第一段エンジンが分離する位置にも誤差が出る」と説明する。

 また、分離する時の速度、飛行姿勢の角度などのパラメータの変化も、落下地点の精度に影響を与える。例えば、長征3号Bの第一段エンジンは、分離して地上に落下するまでに300秒余りかかる。分離時の速度に1秒あたり10数メートルの誤差があれば、落下地点の予想範囲は数キロメートル違ってくる。その他、従来のロケットの構造体は分離後、コントロール不能の状態で大気圏に再突入する。その過程での姿勢や空気圧なども不確定要素で、一定の誤差を生じさせる。

 そのため、研究者は繰り返し実験を行ってデータを積み重ね、さまざまな確率を総合的に検討し、残骸が散布する地点を計算し、落下地点を設定する。

 李氏によると、同じ型のロケットでも、軌道、構成、制御プランが違うと、落下地点も変わる。例えば、四川省の西昌衛星発射センターからキャリアロケット「長征2号C」使い、リモートセンシング衛星「遥感30号」が打ち上げられた際、軌道の角度は35度で、ロケットは東に向かって飛行した。中国は偏西風が吹くため、ロケットは追い風の方向に飛行する。そのため、第一段エンジンの残骸の落下地点の予想範囲面積は約1,200平方キロメートルに及び、おおよそ飛行する方向に長く、両側の方向が狭い長方形がその範囲になる。一方、西昌衛星発射センターから角度約97度で、太陽同期軌道衛星に向けて打ち上げるとなると、理論上では上空の風は主に軌道の側面に影響を与えるため第一段エンジンの残骸の落下地点の予想範囲はやや大きな正方形に近付く。そして、第二段エンジンが分離する時の高度はさらに高く、速度もさらに速いため、大気圏に再突入する過程の不確実性も大きくなり、残骸落下地点の予測範囲も大きくなる。

指定の場所に垂直着陸させ、ロケットを再利用する時代の到来へ

 宇宙事業関係者はこれまでずっと、ロケットの残骸がもたらす危険を小さくするための対策を探ってきた。

 2019年7月26日、西昌衛星発射センターから打ち上げられた「長征2号C」は、衛星3基を軌道に送り込んだほか、中国のロケットとしては初のグリッドフィン分離体落下地点安全制御技術」の実証実験にも成功した。

 その実験では、「ハエたたき」のような形状のうすいグリッドフィンが、長征2号Cの第一段エンジンの先端近くに数多く取り付けられていた。ロケットが発射される時は、そのボディにピタッと張り付いていた。第一段エンジンが分離し、大気圏に再突入する段階でロックが解除されて羽のように広がり、指令に基づいて回転してエンジンの姿勢や飛行の軌跡をコントロールし、最終的にその落下地点を正確にコントロールする。

 李氏によると、以前は第一段エンジンの落下はコントロールできなかったが、グリッドフィンでコントロールできるようになると、第一段エンジンの落下地点の予測範囲が、1千平方キロメートル近くから約60平方キロメートルにまで縮小できるという。

 西昌衛星発射センターからロケットを打ち上げて、さまざまな条件の制限を受ける中、1千平方キロメートル近くの無人地域を探して落下させるのは至難の業であるのに対して、60平方キロメートルの無人地域を選定するのは相対的にはるかに容易になる。

 李氏は、「研究者は現在、従来の通常の推進剤を使ったロケットの落下地点の精度を数平方キロメートルに抑えて、最終的に指定の場所に着陸させる方法の研究に取り組んでいる。また、一定の範囲内で落下地点を選定し、残骸を指定エリアに落下させることによって、第一段、第二段エンジンの残骸の落下地点にいる人々の生産や生活に与える影響を解消するよう取り組んでいる」と説明する。

 落下地点のコントロールのほか、研究者らはエンジンの予備の推進剤の安全な処理の仕方を研究しており、飛行試験の初期段階の検証も完了した。試験では、第一段、第二段エンジンが上空で大気圏に再突入する過程で、推進剤をエンジンのキャビティから外に排出し、2種類の推進剤を混ぜ合わせて自然燃焼させ、水や窒素ガスなどの非汚染物質を生成させるという方法が検証された。2種類の推進剤が完全に燃焼していないとしても、エンジンの飛行高度が高いため、外に排出される量は少なく、空中で自然に希釈され、環境に危害が及ぶことはない。

 中国が液体酸素とケロシンを燃料にする大・中・小型のキャリアロケットを全面的に投入するにつれて、研究者はロケットを垂直着陸させ、ほとんど損壊していない状態で回収する技術やそれを再利用する技術の研究も全力で展開している。実現すれば、分離して、大気圏に再突入した第一段、第二段エンジンは「残骸」になることはなく、リサイクルされ関連の科学研究試験に使用されることになる。


※本稿は、科技日報「別只惦記火箭上天 残骸回収也有大講究」(2020年12月22日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。