第180号
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中国製眼内レンズで白内障を「クリア」に

2021年09月17日 陳 曦(科技日報記者)

海外製品と肩並べる性能の中国国産眼内レンズ

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画像提供:視覚中国

中国で初めて開発された高次親水性非球面フォールダブル(折り畳み)眼内レンズ(IOL)は、2020年2月、欧州連合(EU)の要求事項に適合していることを表すCEマークを取得し、さらに今年3月10日には、中国国家薬品監督管理局が発表している「Ⅲ類医療機器登録証」も取得した。首都医科大学付属北京同仁病院が筆頭となり、中国中医科学院眼科病院など7病院が共同で実施した4年に及ぶに臨床試験研究の結果によると、このIOLの性能は、海外から輸入した同等の製品と違いはなく、患者は期待通り視力を回復させることができる。

 有名な女優・林青霞さん(67)は最近、白内障の手術を受けたことを明らかにした。

 中華医学会眼科学分会の統計によると、2020年、中国の45~89歳の白内障患者数は約1億3,200万人。そのうち、白内障が原因で、視力を失った人の数は1,332万人に達すると見られている。

 白内障を根治させるための唯一の方法は手術で、IOLは、白内障治療には欠かせない医療光学部品であり、眼科の分野で最も主流で、生産高が最も多い生体材料だ。

 7月8日に開催された第21回全国白内障・屈折矯正手術学術会議で、天津世紀康泰生物医学工程有限公司(以下「世紀康泰」)は、同社が開発した中国初の高次親水性非球面フォールダブルIOLを展示した。同製品が発売されたことで、白内障患者の治療に新たな選択肢ができたことになる。

IOL挿入は白内障の主な治療法

 天津医科大学眼科病院の李筱栄院長は、「80歳以上の高齢者は、ほぼ100%白内障になる。人は生まれた時は、目の水晶体が透明で、物がはっきりと見える。しかし、水晶体の主な成分はタンパク質であるため、年を取るにつれて、タンパク質が徐々に老化して白く濁り、弾力性もなくなり、物がはっきり見えなくなる」と説明する。

 白内障は高齢者だけの問題ではない。外傷や中毒、糖尿病、その他の代謝疾患なども白内障の原因となる。このほか、緑内障や網膜剥離、ぶどう膜炎などの目の病気も、水晶体の代謝と関係があり、白内障を併発したり、その症状が出る前に白内障を患っていたりする可能性がある。

 李院長は、「水晶体を取り除きIOLを挿入するのが、白内障の主な治療法だ。白内障手術の技術は既にかなり成熟している。超音波乳化吸引術を通して、混濁した水晶体を取り除き、透明のIOLを挿入するというのが、最も一般的な方法だ」と説明する。

 混濁した水晶体を取り除いた後、IOLを挿入しなければ、屈折の異常がひどくなり、患者の生活に大きな影響を与える。人工物であるIOLは、永久に目の中に固定され、外れることはなく、クリーニングも必要ない。また、患者が違和感を覚えることも全くない。さらには、水晶体に拒絶反応を起こす組織はなく、IOLを挿入しても、他の人工物を挿入した時のように、人体組織が拒絶反応を起こすことはない点は注目に値する。そのため、長期間にわたって使用することができるのである。

 中国における高齢化の深刻化、医療消費の高度化にともない、IOLの性能、安全性、有効性もますます重視されるようになっている。

「世紀康泰」の研究開発プロジェクトマネージャー・張明瑞氏は、「IOLのアップデートは加速している。光学設計の視点からみると、IOLは、球面IOL、非球面IOL、そして機能性IOLへの発展を経て来た。材質別で見ると、固い材質のIOLとフォールダブルIOLがある」と説明する。

 李院長は、「IOLのアップデートは、患者に直接的なメリットがあり、手術の時の傷口はより小さくなり、術後の結果はより良くなっている。また、後発白内障の発生も減らせる。フォールダブルIOLは、水晶体を2~3ミリに折り畳むことができるため、手術の時は小さな傷口で、水晶体を挿入することができる。球面IOLと非球面IOLの違いは、瞳孔が大きくなった時、非球面IOLは球面IOLのように、サイドの物の形が歪み、違和感を覚えることはないことが挙げられる。機能性IOLは、乱視の矯正などの視力の問題改善に使用される。3焦点IOL、多重焦点IOLは、遠近両用を実現している」と説明する。

 そして、「材料の面では、今は、IOLに親水性材料が選ばれることが多い。親水性のIOLの材料はやわらかく、付着物を防ぐことができ、生体適合性も優れており、目に挿入するのも簡単だ。親水性を備えたIOLは細胞の付着を減らすことができるため、後発白内障が起きる確率が下がり、生体適合性も向上する」という。

中国国産のIOLの性能・品質が継続的に向上

 白内障手術では、フォールダブルIOLの挿入が主流であるものの、中国では、依然として白内障患者の30%が材質の固いIOLを選んでいる。その主な理由は価格がより安いからだ。しかし、折り畳むことができないため、手術の時の傷口が2倍以上の6ミリに達する。一方、残りの70%の患者が選ぶフォールダブルIOLの大半は現時点では輸入に頼っている。

 2020年末の時点で、中国で白内障手術を受けた患者の数は400万人に達した。しかし、中国国産のIOLが使われたケースは全体の20%弱となっている。

 李院長によると、中国のIOL市場では、以前は海外ブランドのほぼ独占状態だったが、ここ数年は、中国国産の新型IOLの品質も、輸入品と比べて全く遜色なく、一部の仕様は、輸入品を上回るようにさえなっている。

 今回発表された親水性非球面フォールダブルIOLは、世紀康泰が独自に開発した第三世代のIOLで、製品には7規格、4サイズある。2種類のハプティックデバイスのうち、穴あきハプティックは、中国初のサスペンションシステムを実現した製品となる。

 南開大学現代光学研究所の劉永基教授は、「球面水晶体と比べると、このIOLの非球面設計は、患者の暗い環境や夜間の環境下での視覚能力を向上させることができる。球面収差がゼロの設計であるため、角膜の球面収差により過度に矯正されることを避けることができ、全ての角膜の形状に適している。また、水晶体の偏りや傾斜がイメージングの質に与える影響を効果的に低減させることができる。角膜の正の球面収差を残し、焦点深度が増し、中間視力が改善し、人間工学にもよりマッチしている」と、今回発表された親水性非球面フォールダブルIOLの光学設計におけるイノベーションを詳しく説明する。

 張氏は、「従来のC型ハプティックとL型ハプティックを比べると、穴あきハプティックは性能がさらに優れている。白内障手術において、混濁した水晶体を取り除いた後、水晶体嚢が残る。そしてそこにIOLをそこに入れる。穴あきハプティックの設計により、IOLを囊の大きさによって調整することができ、衝撃緩和機能があり、囊の中での安定性が高い。もし、患者が怪我をしたり、手術中に囊が破れたりした場合、水晶体と周辺を縫合し、そこにぶら下げて固定させると、IOLはさらに安定する」と説明する。

 この中国初の親水性非球面フォールダブルIOLは2020年2月に、CEマーク(商品がすべてのEU加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マーク)を取得した。そして今年3月10日には、中国国家薬品監督管理局が配布した「Ⅲ類医療機器登録証」も取得した。首都医科大学付属北京同仁病院が筆頭となり、中国中医科学院眼科病院など7病院が共同で実施した4年に及ぶに臨床試験研究の結果によると、このIOLの性能は、海外から輸入した同等の製品と違いはなく、患者は期待通り視力を回復させることができる。

「値段が高いほど良いというわけではない」

 張氏は、「IOLは値段が高ければ高いほど良いというわけではなく、自分に合ったものを選ぶのが一番」と指摘する。

 日常生活においてはっきり見えることだけを望むのであれば単焦点IOLを選び、さらに老眼鏡を使えば良いだろう。もし、本や新聞を読んだり、スマホをいじったり、車を運転したりすることが多いが、メガネはかけたくないという人は、多重焦点IOL、特に3焦点IOLを選べば、白内障や近視、老眼などの問題を解決でき、術後にメガネをかける必要はない。

 単焦点IOLと比べて、機能性IOLは価格が比較的高い。張氏によると、中国国内で研究開発された機能性IOLは、現在、登録に向けて審査を受けている段階だ。

 このほか、白内障手術後1~2年で、目がまたぼやけるという患者も多い。それについて、張氏は、「それは後発白内障で、白内障手術をする時に、残った上皮細胞が変性して起こる。分かりやすく言うと、混濁した水晶体を取り出す時に、後嚢に白内障の『種』が落ちてしまい、その種が発芽し、白内障が少しずつ水晶体の真ん中へと広がる状態だ。その問題を解決するために、研究開発チームが開発中の360度の直角縁のIOLは、水晶体と後嚢がぴったりとくっつくため、上皮細胞の変性を抑制することができ、後発白内障の発生を減らすことができる」と説明する。

 張氏は、「世界最多の白内障患者を抱える中国はここ20~30年の間に、白内障手術の技術やIOL研究開発などの面で急速な発展を遂げてきた。そして、中国国産の新製品が絶え間なく研究開発され、発売されるようになるにつれ、さらに多くの国内の白内障患者が高品質で低価格の国産IOLを使うことができるようになるだろう」と語る。


※本稿は、科技日報「中国造人工晶状体令人"眼前一亮"」(2021年7月28日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。