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【16-008】中国における直近の条件付き認可の企業結合案件について

2016年 6月 3日

康 石

康 石(Kang Shi): 森・濱田松本法律事務所 パートナー、
外国法事務弁護士(中国法)、ニューヨーク州弁護士

1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

一、はじめに

 中国において、半年近く条件付きで認可を受けた企業結合案件[1]が公表されていない[2]。従って、直近とはいうものの、一番最近公表された条件付きの企業結合案件は、半年前である2015年11月25日に公表されたNXP社によるフリースケール社の全株買収案件(以下、「本件取引」という)である。

 本稿では、本件取引及び付加された条件の概要を説明したうえで、独禁法の観点から、本件取引がどのような重要な意味をもつかについて説明することとする。

二、本件取引及び条件の概要

 本件取引は、ナスダック上場のオランダ法人であるNXP社[3]が、その100%子会社であるSPCと、ニューヨーク証券取引所上場のバミューダ法人であるフリースケール社[4]を吸収合併させる形で、後者の全株を買収した案件である。

 両社は、汎用マイクロコントローラ、電源専用モジュール集積回路及び高周波パワートランジスタ市場において、全世界ベースで競争していた。中国商務部は、以下の理由から、上記重複している市場の中の高周波パワートランジスタ市場において、両社の結合は、競争を排除又は制限する効果がありうると判断した。

①市場シェアが世界1位と2位の会社が統合することとなり、統合後の市場シェアが51.1%(2013年ベース)又は54%(2014年ベース)に達するため(さらに、当該市場において主流の技術を使用する製品に限定する場合、そのシェアが84%を超える)、市場支配力は一層増強される。

②元々、熾烈な競争を行っていた業界上位2社が統合することにより、競争が排除されるだけではなく、技術研究開発や革新の原動力が減少するおそれがある。

③主要顧客の観点から見れば、調達先の選択肢が減少し、調達リスクが増加する可能性がある。

④両社は、強大な特許ポートフォリオによる優位性をもっており、顧客が新たな供給業者を導入するのに比較的に長い期間を要することから、他の事業者が関連市場に参入するのは比較的に難しい可能性がある。

 上記のような競争を排除又は制限するおそれのある本件取引に対して、中国の商務部が付加した条件は、構造的な措置であった。即ち、NXP社が本件取引前にもっている高周波パワートランジスタ業務(以下、「本件業務」という)のすべてを分離して、第三者に譲渡することであった。

三、本件取引の特殊性

(1)制限条件付加規定施行後の第1号案件

 本件取引は、商務部の「事業者集中に対する制限的条件の付加に関する規定(試行)」(2014年12月4日公布、2015年1月5日施行、以下、「制限条件付加規定」という)が施行された後、当該規定を適用して、条件付きで認可された第1号案件である[5]

 制限条件付加規定が公布される前は、「事業者集中取引における資産又は業務分離に関する暫定規定」(2010年7月5日公布施行)が存在していたが、商務部の実務上は、資産や業務を分離するという構造的な措置以外にも、特定事業の独立性を維持したり、従来通りに原材料等の供給を維持したりする等の一定の行為を義務付ける行為的措置も含まれており、制限的措置に関する法令上の根拠は十分ではなかった。制限条件付加規定は、制限的条件の種類(構造的条件、行為的条件及び結合型条件)、制限的条件の確定プロセス(提案当事者及びタイミング、評価内容及び評価プロセス、決定の公表等)、制限的条件の実施(分離の買主の条件、分離契約の締結期限等)、制限的条件の監督(監督受託者及び分離受託者の選任、条件、義務等)、制限的条件の変更及び解除、法律責任等について、詳細に規定している。

(2)Upfront-Buyerに関する第1号案件

 本件取引に関する商務部の決定内容からもわかるように、本件取引に関する審査の初期段階から、NXP社は、本件取引が競争を排除又は制限するおそれがあることを認め、本件業務を分離し、北京建広資産管理有限公司(以下、「本買主」という)に売却する救済措置案を商務部に対して提出した。また、本件取引に関する商務部の認可が取得される前に、NXP社は、本買主との間で、本件業務を売却することに関する契約(以下、「本分離契約」という)を締結した。このような背景もあり、本件取引に関して商務部が付した条件は、①NXP社が、本分離契約に従い、本件業務を本買主に売却すること、②上記分離が完了するまで、制限条件付加規定に基づいて、本件業務の存続性、競争性及び売却可能性を確保すること、③本件業務の分離が完了するまで、関連契約に従い、本買主に対して関連サービスを提供すること、④本件業務の分離のクロージング前に、フリースペース社との本件取引を実施してはならないこと等、本買主又は本分離契約と関連付けるような条件が中心的な条件であった。本件取引以前に商務部が付加した構造的制限措置は、主に、審査対象となる取引を実施した後、又は審査対象となる取引を認可した日から一定期間以内に、分離対象業務に関する買主を探し、当該買主と分離契約を締結することであった。企業結合案件の認可取得後、一定期間内に分離対象業務の買主を探すのが一般的であることに対して、企業結合案件に対する審査過程において、分離対象業務の潜在的な買主を特定し、当該買主及び当該買主との分離契約も審査の対象とすることを、Upfront-Buyer制度という。

(3)審査期間の短縮ができなかった案件

 実務上、Upfront-Buyer制度を利用する主な狙いは、審査対象となる企業結合案件に対する審査を早めるものである。しかし、本件取引に関する商務部の認可は、残念ながら、企業結合に関する初期審査段階(正式受理から30日間)及びその後のさらなる審査段階(90日間、さらに60日間延長可能)でも獲得することができず、結局、案件申請の取り下げ及び再申請(いわゆる、Pull and Refile制度)まで行い、最初の申告(2015年4月3日)又は正式受理(2015年5月15日)から半年以上経過した2015年11月25日にやっと獲得されており、認可までに時間がかかっている。

 本件取引がUpfront-Buyer制度を利用したにも関わらず、認可取得まで時間がかかってしまったのは、本分離契約の締結が遅かった(2015年10月27日に締結)ことも一因ではあるようであるが、この種の案件の第1号案件として、当事者だけではなく、商務部においても類似案件のハンドリングに経験がなかったことが主な原因のように推測される。

四、おわりに

 中国法上、一定の業務を分離するような救済措置を取らなければならない企業結合案件においては、一般的に、条件付き認可に関する商務部の決定後の6か月以内に買主を探し、分離契約を締結しなければならず、かかる契約締結後の3か月以内に分離を実施しなければならない(「制限条件付加規定」第13条及び第15条)。また、審査対象となる企業結合案件を実施する前に、買主を探し、分離契約を締結しなければならない案件は、①分離前に、分離対象業務の競争性、売却可能性を維持することに比較的に大きいリスクがある場合、②買主の身分が分離対象業務の市場競争回復に決定的な影響を与える場合、③第三者が分離対象業務に対して権利を主張した場合に、限定されている(「制限条件付加規定」第14条)。従って、上記三つの案件以外において、基本的に当事者が自主的にUpfront-Buyer制度を活用するかを決めることとなるが、商務部の審査段階で買主を探し、分離契約を締結した場合には、買主の独立性や分離契約の有効性等も必然的に商務部の審査対象となることから、これに起因して審査期間が長くなる可能性がある点を留意する必要がある。

 なお、本件取引における本買主は、新規設立されたファンド系会社であり、関連製品市場の既存の生産者ではない。本買主との本分離契約が認められたことから、ファンドであっても、独立した買主として、分離対象事業の独立性を維持することができると認めている、商務部の見解が今後のプラクティスに参考となるだろう。

(おわり)


[1] 競争を排除又は制限する可能性のある企業結合案件(中国法上は、事業者集中取引という)について、一定の条件(たとえば、一定のビジネスを切り出させたり、又は、コア技術の乱センスを行う等の一定の行為を行わせたりすることを指す)を課すことを前提条件に、企業結合案件に対して認可を行う場合がある。

[2] Dupontとダウ・ケミカルの統合など、そろそろ条件付きの企業結合案件が公表されるのではないかと推測される。

[3] 旧Philips社の半導体部門が分社化した会社である。

[4] 旧モトローラ社の半導体部門から分社化した会社である。

[5] 2015年10月19日に公表されたノキアによるAlcatel Lucentの買収案件に対する条件付き認可も、時期的には、制限条件付加規定の後のものであるが、当該案件における条件は、標準必要特許に関するFRAND承諾であり、制限条件付加規定に則った手続きが適用された形跡はない。



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