【14-023】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(17)
2014年10月 6日
金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー
1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職
(4.2)自動車関連の法制度
廃車規制
中国において、大気汚染対策として展開している目玉政策のひとつが廃車制度である。2013年以前における廃車制度は、主に交通安全の観点から実施されたものであり、走行距離や耐用年数が主な規制基準であった。その規制基準に排ガスや騒音などの環境基準が加わったのは、2013年5月1日、日本の省令に当たる「自動車強制報廃標準規定(商務部等4部門命令2012年第12号)」を施行してからである。
いままで、環境基準に違反した車は「黄標車」(イエローラベル車)に指定され、規制内容は自動車メーカーの製造、販売停止や利用者に対する道路上での走行禁止措置に止まるものであった(中国道路交通安全法14条)。しかし本命令の施行によって行政は廃車措置を発動することもできるようになり、環境基準違反車に対するより徹底した取締りが可能となった。2013年以降、修理・改良を経てなお環境基準をクリアできない「黄標車」(主に業務用途車)には廃車措置が発動される。
2012年の統計によれば、国全体の自動車(バイクも含む)保有量のわずか6.5%を占める黄標車(1451.4万台)が排出したPM(粒子状物質)総量は、国全体の78%を占めることが分かった(典拠:環境保護部「2013年中国機動車汚染防治年報」)。黄標車対策の重要性が伺えるデータである。
「黄標車」の区分基準
「黄標車」とは、第1段階排ガス基準以下のガソリン車と第3段階排ガス基準以下のディーゼル車を指す。しかし、以前述べたように(本シリーズ14)、車種ごとの排ガス基準の適用時期がバラバラであるため、専門知識の欠ける一般利用者が、所有自動車が「黄標車」に該当するか否かについて判断することは困難が伴う。そこで、行政実務では便宜上、自動車の重量および車両登録の時期を主な区別方法として採用している(表1)。このような区別方法は、排ガス基準の適用時期を境に新基準を満たさない自動車の車両登録が拒否されるため、基準適用時期の代わりに車両登録日を用いても差し支えないという考え方に基づくものであった。
典拠:上海市「上海市黄標車淘汰政策宣伝資料」等に基づき、金が作成 http://www.sepb.gov.cn/fa/cms/shhj/huangbiaoche.html |
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車種 |
区別基準 | 淘汰基準 (2012年10月以降) |
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軽型自動車 (重量≤3.5t) |
ガソリン車 | 定員≤6名、重量≤2.5t: 2000年7月1日以前の登録車両 |
2005年1月1日以前に登録した業務用黄標車 |
上記以外、重量≤3.5t: 2001年10月1日以前の登録車両 |
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ディーゼル車 | 2008年7月1日以前の登録車両 | ||
重型自動車 (重量>3.5t) |
ガソリン車 | 2003年7月1日以前の登録車両 | |
ディーゼル車 | 2008年7月1日以前の登録車両 |
「黄標車」淘汰に関する区分基準
黄標車の廃車規制の導入を方向付けた公式文書は、国務院が2011年11月25日に発表した「第12次国家環境保護計画」である。本計画のなかで、国務院は、2005年1月1日以前に登録した業務用黄標車を2015年までに廃車化する目標(以下、淘汰目標)を立てた(表1)。後に、この目標の規制趣旨は上記の「自動車強制報廃標準規定」に反映された。
強制淘汰のタイムライン
すでに言及したが、国務院が掲げた廃車目標の主な対象は、2005年1月1日以前に登録した業務用黄標車である。ただ、その後の地方政府レベルの実施過程において、様々な運用の形が見られる。
まず、地域によって廃車規制の適用範囲が異なる。2012年以降の大気汚染対策強化の流れを受け、北京などの重点対策規制地域では登録時期に関する要件を撤廃し、黄標車に該当するすべての自動車(非業務用自動車も含む)を2015年までに淘汰する目標を掲げている。
つぎに、地域によって規制の手法が異なる。広東省のように、黄標車の使用年数、または登録時期に応じ、①直ちに廃車、②条件付き廃車、③任意による廃車、と3つの廃車措置を組み合わせて導入している地域もある(表2)。
典拠:「第12次国家環境保護計画」等に基づき、金が作成 | |||
地域 | 対象範囲 | 義務(2015年まで) | |
大気汚染重点対策地区:北京市、天津市、河北省、上海市、江蘇省(一部)、浙江省(一部)、広東省(一部) | すべての黄標車 | 廃車 | |
その他地域 (例:広東省、珠海市) |
業務用車 (広東省) |
使用年数15年以上の黄標車 | 廃車 |
使用年数10年~15年の黄標車 | 条件付き廃車:改善措置命令。一つの車検期間内、排ガス基準検査を受け、3回以上不合格の場合、廃車 | ||
使用年数10年未満(2005年1月1日以前の登録車相当) | 任意廃車 | ||
非業務用車 (珠海市) |
大型車両(2005年1月1日以前の登録車) | 廃車 |
地域によって異なる政策優先度
2014年に入り、環境保護部の提唱の下、地域ごとのPM2.5排出源の特定作業が行われ、成果が現れつつある。図1は、3つの地方政府がPM2.5排出源について発表した公式資料に基づいて作成したものである。PM2.5に占める自動車部門の排出割合は、地域間において大きな開きがあることが分かる。これは、自動車部門の政策優先度が地域によって異なることを意味する。
図1 地域ごとのPM2.5発生源の割合
典拠:北京市、天津市、石家庄市の環境保護局(庁)公開情報に基づき、金が作成
表3は、他地域から飛来したPM2.5が地域全体の排出量に占める割合についてまとめたものであり、その割合が地域によって大きく異なっていることが分かる。これは自動車対策の優先度の判断をさらに難しくさせる理由の一つである。これは、自動車対策に限らず、他の対策分野にも通ずる課題である。
典拠:北京市、天津市、石家庄市の環境保護局(庁)公開情報に基づき、金が作成 | |
地域 | 他地域飛来PM2.5の割合 |
北京 | 28%~36% |
天津 | 10%~15% |
石家庄 | 23%~30% |
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