【20-04】地域限定せず監視・医療体制整備重点に 尾身茂氏新型肺炎対策で提言
2020年2月14日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
世界保健機関(WHO)で感染症対策の長い経験を持つ尾身茂地域医療機能推進機構(JCHO)理事長・名誉WHO西太平洋事務局長が2月13日、日本記者クラブで記者会見し、新型肺炎「COVID-19」対策はすでに日本国内でも感染が広がっているとみた対応に切り替えることを提言した。クルーズ船の乗客については、順次速やかにPCR検査を実施したうえで下船させるのが適切としている。
尾身茂JCHO理事長・名誉WHO西太平洋事務局長(2月13日、日本記者クラブ)
PCR検査というのは、ウイルス遺伝子をPCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)法という方法で増やす遺伝子検査法。短時間で精度の高い結果が得られる特徴を持つ。
これまで日本の対応は、武漢市、湖北省からの渡航者とすでに発症した渡航者との接触者のみを対象に対応していたため、多くの感染者を見落としている可能性が大きい。すでに軽症者を含む感染が、少なくとも散発的に拡大し、いずれ武漢や湖北省と無関係の感染者が国内各地で見つかる可能性が極めて高い。しかし地域の医療現場では、新型肺炎を疑ってもPCR検査法を実施しない状況がある。尾身氏はこのように指摘し、対象地域を限定せず症例を検知できるよう診断体制を含めサーベイランス機能を整備するよう提言した。
さらに、検疫の強化にこだわるのではなく、感染者が適切な診断と治療が受けられる医療体制の整備に対策の重点を置くことも求めた。国民の不安を払しょくし、感染者が不当な扱いを受けることがないよう、政府は正確な情報を迅速かつ継続的に国内外へ向けて発信することも提言している。
尾身氏によると、今回のウイルスの特徴は、高齢者や基礎疾患を持つ人を中心に一部重症化がみられるものの、多くの人は軽症。一方、発熱、咳など発病してから数日を経ても熱が下がらず、咳、倦怠感が続いて、息が苦しいといった症状がみられる場合は、肺炎を示す黄色信号とみて早めに受診が必要、としている。既存の薬が効いたとの一部報告があり、新しい治療薬開発の努力やワクチン開発が日本をはじめ各国で始まっていることを紹介したが、「今回の流行を抑えるためには間に合わない可能性がある」との見方を示した。
2009年に日本を含む世界中で大流行した新型インフルエンザ(A/H1N1)の際、大阪府、兵庫県がいち早く学校閉鎖の措置をとった。これが、感染の広がりを防ぎ、外国に比べ死者数も特に少なくてすんだことを示すグラフを示し、今後の対策は、重症患者に対応する大病院と、軽症患者に対応する病院、クリニック、さらに家庭での対応という国全体の取り組みが必要であることを尾身氏は強調した。
尾身氏は、中国広東省を起源に2002~2003年に世界中に感染が拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生時、WHO西太平洋地域事務局長として対策に力をふるった。その時は中国の初期対応が非常に遅れたことが感染拡大を招いたことを挙げ、今回の中国の取り組みを評価する一方、武漢市、湖北省の担当者の対応については初動の遅れは明らかという厳しい見方を示した。
関連サイト
日本記者クラブ 会見リポート:尾身茂氏
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