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【20-22】外国人家族の支援策整備不可欠 日本学術会議が人口縮小社会の処方箋

2020年8月27日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日本が直面する人口縮小社会に向けて、外国人家族の支援策整備などさまざまな対応が必要だとする提言を日本学術会議の検討委員会がまとめ、8月24日公表した。日本学術会議では別の委員会が、外国人児童生徒特に高校生に対する教育支援策の強化が必要とする提言を2週間前に公表したばかり。一定の専門性・技能を有した外国人材を積極的に受け入れることを目的とする改正出入国管理法が昨年4月1日に施行されるなど、日本では外国人材の確保を目指す取り組みが進む。しかし、最近まで外国人労働者の受け入れは抜け道的でしかなかった、と提言は指摘し、迅速かつ包括的な受け入れ策を求めている。

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21世紀通して最高齢化国に

 日本の生産年齢(15~64歳)人口は、1995年にピークを迎え、すでに1,200万人(14%)が減少し、2043年までにピーク時から約3,000万人(34%)、2062年までには約4,000万人(46%)減る。65歳以上の高齢人口は、2042年前後に現在より375万人(11%)増のピークを迎え、その後高齢人口は減少に転ずるが、現在でも世界一である高齢化率(65歳以上人口割合)は、ほぼ下がることはない。その後も21世紀を通して韓国などとともに最高齢化国であり続ける―。日本学術会議の人口縮小社会における問題解決のための検討委員会(委員長・遠藤薫学習院大学法学部教授)が公表した「『人口縮小社会』という未来―持続可能な幸福社会をつくる」と題する提言は、こうした見通しをまず明らかにしたうえで、世界に先駆けて少子高齢化と人口減少が進む日本の将来像を「人口縮小社会」ととらえている。

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(提言「『人口縮小社会』という未来―持続可能な幸福社会をつくる」から)

 提言に盛り込まれた数多くの具体策は、人類がこれまで直面したことがない転換に対し、日本社会のあるべき方向性とそれに向けての具体策を示す処方箋ともいえる。「人口縮小社会」をこれまでの考え方を見直した「幸福な社会」として描いているのが目を引く。「幸福な社会」の姿として提示しているのは、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の17の目標「SDGs」が想定する望ましい未来社会の姿。SDGsが提案する「持続可能な発展」が、「すべての人々のための幸福」と、「未来のための再生産」に軸足を置いていることを重視している。

経済成長より人生を享受できる社会

「幸福な社会」とは、「経済成長自体よりも、多様な他者たちとともに、相手に対する想像力と思いやりを持ちつつ、不当な抑圧や攻撃を受けることなく、危険や不安に脅かされることなく、自分なりの人生を十全に享受できる『場』としての社会」と提示されている。

 外国人家族のための支援策整備は、提言に盛り込まれた人口縮小社会を「幸福な社会」として構築するのに必要なさまざまな対策の一つだ。働く現場を大きく変える可能性があるデジタル技術に迅速・的確に対応するためには、働く人の「質」が極めて重要。働く人が意欲をもって目の前の仕事に取り組み、また将来を展望しながら自身の能力を高めることが可能な社会にしなければならない、という考え方が根底にある。

 人口縮小社会で重要な役割を果たすのは、多様な人材が受け入れられ、能力が発揮できるインクルーシブ(包括的)な職場。生産年齢人口割合を維持するためには外国人の受け入れは不可避だとして、外国人を対等な「仲間」として受け入れるためにも、外国人労働者の人権を擁護するための法整備を求めている。さらに外国人労働者の子どもたちに対する初等教育段階からの多文化共生教育の拡充や日本語教育の無償提供などを含め、家族を視野に入れた支援策の整備が不可欠であることも強調している。

 日本社会で生まれ育ったにもかかわらず、十分な成育環境や教育機会を得られなかったため、潜在的な能力や意欲を伸ばせない。こうした子どもたちがいるのは、本人はもちろん社会にとっても大きな損失。貧困家庭やひとり親家庭、外国人家庭など構造的な困難を持つ子どもたちに対する社会的支援を充実させる「社会的投資政策」を、成人の再教育、女性の労働力化、ワーク・ライフ・バランス政策などとともに実施すべきだ、と提言している。

 また、外国人の受け入れは人口規模にかかわる問題だけでなく、グローバル化する世界につながった人々を国内に包含することで、世界に向けたアンテナを持つ社会をつくるという重要な意味を持つことにも注意を促した。

包括的な外国人受け入れ策を

 昨年4月1日に施行された改正出入国管理法により、新しい在留資格「特定技能」が創設された。一定の専門性・技能を有した外国人材を積極的に受け入れることを目的としている。人手不足の状況下で、即戦力となるような人材確保が期待されている。従来からある「技能実習生」という制度は「技能移転による国際貢献」を目的とするため、実習修了後、必ず母国に帰らなければならない。「特定技能」制度の創設によって、技能実習生が実習修了後も日本在留を続けることができる道も開けた。

 しかし、提言はこうした現状にも厳しい目を注ぐ。「出入国管理法改正により、外国人の受け入れが今後急速に進む可能性はあるが、外国人の受け入れは、その生活を包括的に受け入れることを含めて対応しなければさまざまな問題を引き起こすことになる」と注意喚起している。さらに「日本社会は外国人の受け入れに高い壁をつくりながら、他方でごく最近まで、『実習生』や『研修生』の名の下に、抜け道的な外国人労働者の受け入れを継続してきた。これは米国の人身取引年次報告で『強制労働』や『人身取引』と呼ばれるような問題を含むことを銘記すべきである」と厳しく指摘している。

誰一人取り残さず、知の探究も重視

 外国人家族の支援策整備は提言の一部でしかない。「多様な社会関係をひらく」、「生きることの安全保障―いのちの再生産」、「持続可能な社会の働き方」、「『幸福な社会』を支える知の探究」という四つの項目を掲げて、それぞれ多様な対策を求めている。「多様な社会関係をひらく」では、多様な人々を包摂し「誰一人取り残さない」インクルーシブな社会設計の実現が提言されている。「生きることの安全保障―いのちの再生産」では、「妊婦の医療費・健康診査費への公費負担の充実・無料化の全国的拡充」や「就学前(保育所・幼稚園)から大学院までの教育の無償化」、「高校卒業までの子どもの医療を無料に」といった具体的措置を求めている。

「持続可能な社会の働き方」で提言されているのは、「最低賃金の引き上げ」や「より累進的な所得税制」といった「働くことが報われる」社会にするための制度改正など。「『幸福な社会』を支える知の探究」では、柔軟な雇用制度設計や広範な分野の研究者による連携研究を促進する基盤整備など、優秀な人材の確保策と、「幸福な社会」を構築するための研究力の深化策が提言されている。

 今回の人口縮小社会における問題解決のための検討委員会による提言に先立って、日本学術会議の地域研究委員会多文化共生分科会は8月11日、「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障―公立高校の『入口』から『出口』まで」という提言をまとめ、公表している。こちらの提言は、特に高校教育の外国人生徒(日本国籍だがどちらかの親が外国人である生徒も含む)に関する支援策が義務教育段階に比べて大幅に遅れていることを重視し、日本人高校生との著しい格差を解消する対策を急ぐことを求めている。具体的には、現在一部の都道府県しか設けていない公立高校入試の外国人生徒に対する特別枠や入試科目の軽減といった特別措置を全国に拡大することなどを提言している。

 世界に先駆けて少子高齢化が進む日本に対する国際的な関心は高い。日本学術会議の新たな提言も、2000年に国連が公表した報告書の中で「『日本社会が現状の経済を維持しようとするなら、今後50年にわたって毎年61万人の外国人労働者の受け入れが必要だ』という勧告を行っている」ことを紹介している。「補充移民-それは人口減退・高齢化に対する解決策か」と題するこの報告書は、日本と欧州のほとんどの国が国際人口移動=補充移民(Replacement Migration)なしに人口減少と高齢化を回避することはできない、と予測している。日本はイタリアとともに「かつてない規模の移民を必要とする」国に挙げられており、ドイツを合わせた3国は「移民とその子孫が総人口に占める割合が2050年に30~39%に達する」という推計が示されている。

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外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議(2018年12月25日)=首相官邸ホームページから

「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」は昨年12月20日、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を改訂した。会議では森まさこ法務相から新たな在留資格である「特定技能」の資格を得た在留外国人が11月末時点で1,019人、特定技能試験の合格者が3,322人であることが報告された。一方、日本学術会議の今回の提言で「抜け道的な外国人労働者の受け入れ」と厳しく指摘された「技能実習生」については、改訂された「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」の中で対応策も示されている。来日しようとする外国人から保証金や違約金を徴収するなどの悪質な仲介事業者(ブローカー)や、転職を繰り返させることにより、転職先の雇用主からの謝礼金を繰り返し受け取る職業紹介事業者の存在を認め、これらを排除する対策が明記された。具体的には「技能実習の在留資格について、不適切な送り出し機関の関与の排除などを目的とした二国間取り決めの作成に至っていない中国などの送り出し国について、引き続き協議を進め早期の作成に努める施策を法務省、厚生労働省、外務省が実施する」とされている。

関連サイト

日本学術会議人口縮小社会における問題解決のための検討委員会が公表した提言「『人口縮小社会』という未来 ―持続可能な幸福社会をつくる

外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂)

日本学術会議地域研究委員会多文化共生分科会提言「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障―公立高校の『入口』から『出口』まで

国連プレスリリース「国連人口部による研究『補充移民(Replacement Migration)』研究結果まとまる

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