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【20-20】外国人高校生への教育支援急げ 遅れる対応に日本学術会議が提言

2020年8月18日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日本在住の外国人あるいは日本国籍を持つもののどちらかの親が外国人という人々が今後、ますます増えると期待されている。2019年4月施行の改正出入国管理法により、新しい在留資格「特定技能」が創設された。外国人が日本で生活しやすくするためのさまざまな措置が取られつつある中で、早急な対応が求められている一つが、外国人児童生徒の教育環境の改善。日本学術会議は、特に高校生について日本人高校生との間に生じている著しい教育格差を早急に解消することを急ぐべきだとする提言をまとめ公表した。日本語教育を必要とする生徒が多い地域や高校に「多文化共生コーディネーター」や「多文化共生担当教員」を創設するなど、さまざまな具体的提言が盛り込まれている。さらに、そもそも外国人児童生徒に関する実態の正確な把握が遅れている現状を指摘し、国籍や母語など生徒たちの詳細なデータを都道府県ごとに明らかにする調査の実施とデータの公表も強く求めている。

 昨年4月に創設された在留資格「特定技能」は、一定の専門性・技能を有した外国人材を積極的に受け入れることを目的としている。日本国内で深刻になっている人手不足の状況に対応するため、即戦力となるような人材確保が急がれているからだ。一方、国内在住の外国人の子供たちに対する人材育成策つまり教育の実態は問題が多い。昨年9月に文部科学省が公表した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)結果」は、2018年5月時点で日本国内の公立小中高校(義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校を含む)で、「日本語で日常会話が十分にできない児童生徒」あるいは「日常会話ができても、学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている」といった日本語指導が必要な児童生徒が多いことを明らかにしている。

 これを見ると公立の小中高校とそれに準じる学校で日本語指導が必要な児童生徒は、外国籍を持つ人たちが約4万人、どちらかの親が外国人で国籍は日本という人たちが約1万人いる。外国籍児童生徒の総数は約9万3,000人なので、外国籍を持つ児童生徒の43%が日本語指導という支援を必要としていることになる。さらに、支援を受けないままの状況にある児童生徒も約1万1,000人いることが分かる。

日本語指導が必要な外国籍児童生徒数

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日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数

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(「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)結果」から)

 約4万人の日本語指導が必要な外国籍児童生徒を、指導を受けている母語別でみるとどのような割合になっているか。ブラジルの公用語でもあるポルトガル語の1万400人、中国語の9,600人、フィリピン語の7,900人が上位3位に並ぶ。続いて3,800人のスペイン語、1,800人のベトナム語、1,100人の英語、580人の韓国・朝鮮語という順だ。

日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の母語別在籍状況

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(「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)結果」から)

 文部科学省は今年2月に「外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)」も公表している。こちらは小中学校を対象にした調査だ。この調査結果によると、外国籍の小中学生で就学しているかどうかが不明な児童生徒は約2万人に上る。公立小中高校(義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校を含む)に在籍しているものの、日本語指導など特別の支援を受けていない約1万1,000人に加え、文部科学省が把握できていない外国籍小中学生が約2万人いるということを示している。

 この調査は、全国の公立小中学校で外国人の子供の支援を行う人々がどのくらい配置されているかも調べている。回答があった全国1,741の地方公共団体に雇用・登録されている「日本語指導の支援者」は、499地方公共団体団体(回答数の28.7%)に4,225人。このほかそれぞれの母語で支援する「母語支援員」が402団体(同23.1%)に4,572人いる。支援を受けている子どもたちの国籍別割合は明らかにされていないが、「母語支援員」がどのような言語で対応しているかを示す調査結果からおおよその傾向はわかる。最も多いのが中国語で対応している支援員で、「母語支援員」のいる地方公共団体402のほぼ3分の2にあたる260団体に配置されている。次いでポルトガル語の191団体(402団体の47.5%)、英語175団体(同43.5%)、フィリピン語149団体(同37.1%)、スペイン語132団体(同32.8%)、ベトナム語72団体(同17.9%)、韓国・朝鮮語67団体(同16.7%)、タイ語53団体(13.2%)、インドネシア語36団体(9.0%)、ミャンマー語5団体(1.2%)の順となっている。

公立小中学校に配置されている支援員等の状況

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(文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)概要」から)

 調査結果から見えてくるのは、こうした支援をしている団体が地方公共団体の一部でしかないことに加え、常勤職員を配置している地方公共団体はさらにそのごく一部でしかないという現実だ。回答があった全国1,741の地方公共団体のうち、常勤職員の「日本語指導の支援者」を置いているのは68団体だけで、人数も239人にとどまる。499団体で働く「日本語指導の支援者」4,225人の大半は、臨時・非常勤職員や他機関からの派遣者、ボランティアだ。「母語支援員」になると、常勤職員を配置している地方公共団体はさらに少ない。全国1,741の地方公共団体のうち14団体のみで、人数も49人だけ。402団体で働く「母語支援員」4,679人のほとんどは、「日本語指導の支援者」同様、臨時・非常勤職員や他機関からの派遣者、ボランティアとなっている。

 また文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)結果」によると、全国の公立高校生の中退率1.3%に対し、日本語教育が必要な生徒の公立高校の中退率は7倍以上の9.6%にも上る。日本語教育が必要な高校3年生の卒業後の進学率は42.2%(公立高校3年生全体では71.1%)、就職者のうち非正規の仕事に就いた者の率は40.0%(同4.3%)、進学も就職もしていない生徒の率は18.2%(同6.7%)と、歴然とした差が生まれている。

2017年度中の日本語指導が必要な高校生等の中退・進路状況

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(「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)結果」から)

 外国人材の受け入れについては日本政府も力を入れている。2018年12月25日には首相と法務相を議長とする「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」が、「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」を決定している。関係閣僚会議は今年7月にも総合的対応策を改訂し、「中学高校で将来を見通した進路選択の機会が提供されるよう日本語指導やキャリア教育の充実、生活相談の実施など包括的な支援を進める」ことや、「公立高校入試で帰国・外国人生徒に、ルビ、辞書の持ち込み、特別定員枠の設置などの特別な配慮をする」という取り組みを急ぐことが盛り込まれた。

 関係閣僚会議の決定を受け文部科学省は、対象が10都道府県・指定都市・中核都市に限られているものの、外国にルーツを持つ公立高校生に対し、日本語指導、教科指導、進路相談などを実施する際に、3分の1の費用を補助するという支援策を2019年度から始めている。

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外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議(2018年12月25日)=首相官邸ホームページから

 日本学術会議の地域研究委員会多文化共生分科会は11日、「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障―公立高校の『入口』から『出口』まで」という提言をまとめ、公表した。提言はこれまでの政府の取り組みに一定の評価を与えたうえで、特に高校教育の外国人生徒に関する支援策が義務教育段階に比べて大幅に遅れていることを重視し、高校進学率や中退率をめぐる全国平均と日本語教育が必要な外国人生徒の間にみられる著しい格差を解消する対策を急ぐことを求めている。

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 提言がまず求めているのが、高校進学者を増やすための改善策。公立高校入試で外国人生徒の特別枠制度を設けているのは現在14都道府県、受験教科の軽減を行っているのは11府県、外国人生徒に対する学科試験をすべて免除(作文と面接に置き換え)しているのは3道県に限られている。文部科学省が公表済みのこうして現実を示し、「特別枠・特別措置を全国的に拡げていくための制度の指針を示し、都道府県に実施を働き掛けていく」ことを文部科学省に提言している。

 入学後の支援体制に関する改善策も求めている。具体的に提言されているのが「多文化共生コーディネーター」と「多文化共生担当教員」の創設。高校入学後に外国人生徒の抱える悩みや問題を初期の段階で解消したり、専門家につなげたりする人材が必要との考えに基づく。「多文化共生コーディネーター」に期待されるのは、地域内の高校の外国人生徒たちをめぐる共通の問題に対し、学校間だけでなく、教育委員会や外部団体・ボランティアなどと連携をとり、効果的な対応を探し出す調整的役割だ。

「多文化共生担当教員」には、教育委員会や校長と連携をとりながら、それぞれの学校内で外国人生徒が抱える悩みや課題に対応したり、専門家につなげたりする役割が期待される、としている。また、外国人生徒の学習の動機づけや学習意欲向上、学校内での多様性確保のため、外国につながりをもつ人たちを部活動の学外コーチ・顧問などに委嘱することも提言している。さらに「教員免許取得のための必修教職科目に、多文化共生を主題とする科目を追加」、「高校の管理職を対象とする、多文化共生に関する研修の義務化」、「より多くの大学で、外国人生徒対象の推薦入試、特別枠の実施」も求めている。

 これらの提言の根底にあるのは、高校が「学びの場」であるだけでなく、外国人生徒たちに強い学習動機や学習意欲を抱かせる場であるべきだという考え。大半の公立高校では、教職員や部活動の学外コーチなどを含めて、外国につながりをもつ人たちが少なく、多様性が確保されていない。外国人生徒たちは移民第一世代である親や周囲の大人たち以外と接する機会が限られ、情報や知識不足から幅広い職業の選択肢があることを知らず、将来の展望を描きにくい状態にある場合が多い。またアイデンティティ育成や言語的多様性の維持と活用のための母語の授業が少ないため、自文化を表出し、日本人生徒と共有を図れる機会も限られている。さらに校長を含む管理職と教員に対して多文化共生の理解を深める研修の機会と、全生徒を対象とした多文化理解を主題とする教育の機会がいずれも限られているために、しばしば外国人生徒は孤立感を抱きがち。こうした現実に対する強い懸念を提言は示している。

 こうした現状に対する具体的な対策として提言しているのが、外国語を母語とする生徒が多い学校で、需要の高い言語から優先的に母語授業を開設すること。外国人生徒のアイデンティティを育成し、コミュニケーション力・思考力を向上させることが期待できるとしている。

 提言はさらに、外国人生徒に対する教育は、日本が批准している「児童(子ども)の権利に関する条約」「人種差別撤廃条約」などの国際条約で教育を平等に受ける権利が保障されていることからも改善を急ぐ必要があることも強調している。公立、私立別の外国人在籍者総数はわかるものの、都道府県別、国籍別、言語別、全日制・定時制別の在籍者数などを示す調査が行われていない現状を指摘し、外国人児童生徒の実態把握のため、国籍、母語、都道府県の項目を含めた調査の実施とデータの公表も文部科学省に求めている。

関連サイト

日本学術会議地域研究委員会多文化共生分科会提言「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障―公立高校の『入口』から『出口』まで

文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)

外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂)

文部科学省「『日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)』の結果について

総務省「高度外国人材受け入れに関する政策評価書

首相官邸ホームページ「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」〈2018 年 12 月 25 日)

外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(2018 年 12 月 25 日)

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