【24-03】清華大学8位、中国大学高評価 英教育誌世界評判ランキング
小岩井忠道(科学記者) 2024年02月26日
英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」は2月13日、「世界大学評判ランキング2023」として上位200校を発表した。中国本土からは前回より2校減ったものの、清華大学が前回より一つ順位を上げて8位となったのをはじめ、有力大学が軒並み高い順位を得た。日本からも東京大学が前回に続き10位を維持し、前回、初めてアジアからトップ10に2大学が入ったのと同様の結果となっている。
(Times Higher Education World Reputation Rankings 2023、同2022から作成:数字の前の=は同順位を示す) | |||
国・地域 | 大学数(前年) | 最上位大学名 | 最上位大学の世界評判ランキング順位 |
米国 | 52(56) | ハーバード大学 | 1 |
英国 | 20(24) | オックスフォード大学 | 4 |
中国 | 15(17) | 清華大学 | 8 |
ドイツ | 14(16) | ミュンヘン工科大学 | 28 |
日本 | 10(9) | 東京大学 | 10 |
オランダ | 9(10) | デルフト工科大学 | =44 |
フランス | 8(7) | パリ=サクレー大学 | =44 |
カナダ | 7(6) | トロント大学 | 21 |
ロシア | 6(6) | モスクワ大学 | =34 |
オーストラリア | 6(7) | メルボルン大学 | 51-60 |
韓国 | 5(5) | ソウル大学 | =47 |
香港 | 5(5) | 香港大学 | 61-70 |
スウェーデン | 5(5) | カロリンスカ研究所 | 71-80 |
(Times Higher Education World Reputation Rankings 2023、同2022、Times Higher Education World University Rankings 2024、QS World University Rankings 2024 Top global universitiesから作成:「THE世界大学ランキング2024順位」は、2023年9月27日公表の「Times Higher Education World University Rankings 2024」、「QS大学ランキング2024順位」は、2023年6月27日公表の高等教育評価機関Quacquarelli Symondsの「QS World University Rankings 2024: Top global universities」の順位) | |||||
世界順位 | 前年順位 | THE世界大学 ランキング 2024順位 |
QS大学 ランキング 2024順位 |
大学名 | 国・地域 |
1 | 1 | 4 | 5 | ハーバード大学 | 米国 |
2 | 2 | 3 | 1 | マサチューセッツ工科大学 | 米国 |
3 | 3 | 2 | 3 | スタンフォード大学 | 米国 |
4 | 4 | 1 | 4 | オックスフォード大学 | 英国 |
5 | 5 | 5 | 2 | ケンブリッジ大学 | 英国 |
6 | 6 | 9 | 27 | カリフォルニア大学バークレー校 | 米国 |
7 | 7 | 6 | =16 | プリンストン大学 | 米国 |
8 | 9 | 12 | 14 | 清華大学 | 中国 |
9 | 8 | 10 | 18 | イエール大学 | 米国 |
10 | 10 | 29 | 23 | 東京大学 | 日本 |
世界の著名研究者による評価
THEは毎年さまざまな大学ランキングを公表している。もっとも有名な「世界大学ランキング」は「教育環境」(評価比重29.5%)、「研究環境」(同29%)、「研究の質」(同30%)、 「国際性」(同7.5%)、「企業からの収入・研究を引用した特許数」(同4%)の五つを評価指標とし、それらをさらに細分化した合計18項目を評価した合計点で世界の大学を順位付けしている。一方「世界大学評判ランキング」の評価法は、「世界大学ランキング」の評価指標のうち「教育環境」と「研究環境」の評価項目に含まれる世界の有力研究者による「評判」だけを評価指標としている。過去5年間に他の研究者に引用された論文を発表している研究者の中から選ばれた世界的に著名な研究者に、自身の専門分野で教育と研究面に関し最も優れていると評価する大学をそれぞれ最大15挙げてもらった調査結果を基にした評価法だ。
今回の調査は2022年10月から2023年1月までに実施され、世界中の著名研究者から3万8796件の回答を得ている。この結果は、昨年9月にTHEが公表した「世界大学ランキング2024」での「教育環境」「研究環境」の評価でも活用されており、全体の評価に占める比率も33%と高い。今回公表された「世界大学評判ランキング」は、この33%の部分だけを評価対象として大学を順位付けした結果だ。論文がどれだく多くの研究者に引用されているか、企業からの収入をどれだけ得ているかなど、数字で明確に示されるさまざまな数量データに基づく評価が過半を占める「世界大学ランキング」に対して、主観的ともいえる調査結果を基にしたランキングといえる。こうしたランキングの意義をTHEは「学者、進学希望者の中から才能ある人材を引き付けるための鍵となる評判は、高等教育にとって重要だから」と説明している。
中国の大学軒並み高評価
今回のランキングで目を引くのは何か。米国、英国をはじめとする欧米主要国の有力大学の評価が依然高いのは変わらない。米国が1位のハーバード大学をはじめ6校、英国も4位のオックスフォード大学を含む2校と、トップ10に入った大学のうち8校を両国が占める。顔ぶれも順位も前回とほぼ変わらず、THEだけでなく英国の高等教育評価機関Quacquarelli Symondsの「QS 世界大学ランキング」の最新ランキングでも最上位に位置する大学ばかりだ。これら米英両国の8大学に加え、8位に清華大学、10位に東京大学が入った。アジアから2大学がトップ10入りしたのは前回が初めて。「中国と日本がリードし、アジアの世界的な学術的評価を高め続けている」とTHEが評価していたが、この状況は今回も変わらないことが示された。
THE、QSいずれの世界大学ランキングでも近年、高い評価が目立つ一方、今年1月公表の国際性のみを評価指標とする「最も国際性に富む大学ランキング2024」では、中国本土の有力大学が軒並み低い評価だったことが目を引いた。「THE世界大学ランキング2024」で14位、「QS世界大学ランキング2024」で17位の北京大学が139位、「THE世界大学ランキング2024」で12位、「QS世界大学ランキング2024」で25位の清華大学は176位と、上位100位内に評価された大学は一つもないという厳しい結果となっている。
しかし、今回のランキングでは清華大学の8位以下、北京大学が前回より二つ順位を上げ、トップ10入り目前の11位となったほか、上海交通大学が43位(前回28位)、復旦大学が51-60位(同39位)、浙江大学が51-60位(同51-60位)、中国科学院大学が61-70位(同61-70位)、中国科学技術大学が61-70位(同61-70位)、南京大学が71-80位(同91-100位)と、100位内に前回同様、有力大学8校が入った。
次いでハルビン工業大学が101-125位(同126-150位)、武漢大学が126-150位(同151-175位)、北京師範大学が151-175位(同176-200位)、同済大学が151-175位(同151-175位)、華中科技大学が176-200位(同176-200位)、四川大学が176-200位(同61-70位)、西安交通大学が176-200位(同176-200位)と上位200大学に15校が名を連ねた。前回より2校減だが、米国、英国に次ぐ多さだ。これらの大学の多くが、THEとQSの世界大学ランキングと同等、あるいはそれ以上の順位となっているのも目を引く。
日本の大学の評価も回復
日本の大学の評価は特にTHEの世界大学ランキングで近年、低迷が続き、ようやく昨年9月公表の「世界大学ランキング2024」で上位200位内に新たに3校が入り前年の2校から5校に増え、幾分回復が見られた。一方、「最も国際性に富む大学ランキング2024」では、中国本土の大学同様、評価の低さが目立った。東京工業大学の157位が最高。上位200位内に入った11校のほとんどが前年より順位を落とすという結果となっている。国際性が評価対象となっていない今回のランキングは、「世界大学ランキング2024」よりもだいぶよい結果となっており、さらに「QS世界大学ランキング2024」と比べるとさらに軒並み高い順位となっていることが分かる。
東京大学以外の日本の大学は、京都大学が24位(前回26位)、大阪大学が61-70位(同61-70位)、東北大学が61-70位(同61-70位)、東京工業大学が71-80位(同91-100位)と、100位内に前回と同じ5校が入り、そのうち2校が前回より順位を上げ、残る3校も順位を維持した。以下、名古屋大学が101-125位(同101-125位)、九州大学が126-150位(同126-150位)、北海道大学が151-175位(同126-150位)、筑波大学が176-200位(同176-200位)と前回と同じ顔ぶれの大学が並ぶ。北海道大学を除き、前回より順位を上げるか同じ順位を維持したのに加え、前回順位が付かなかった早稲田大学が新たに176-200位に入ったのが目を引く。
(Times Higher Education World Reputation Rankings 2023、同2022、Times Higher Education World University Rankings 2024、QS World University Rankings 2024: Top global universitiesから作成:=は同順位の存在を示す。-は順位なし) | |||||
世界順位 | 前年順位 | THE世界大学 ランキング 2024順位 |
QS大学 ランキング 2024順位 |
大学名 | 国・地域 |
8 | 9 | 12 | 25 | 清華大学 | 中国 |
10 | 10 | 29 | 28 | 東京大学 | 日本 |
11 | 13 | 14 | =17 | 北京大学 | 中国 |
19 | 19 | 19 | 8 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
24 | 26 | =55 | 46 | 京都大学 | 日本 |
=36 | =40 | 32 | =26 | 南洋理工大学 | シンガポール |
43 | 28 | 43 | 51 | 上海交通大学 | 中国 |
=47 | 44 | 62 | 41 | ソウル大学 | 韓国 |
51-60 | 39 | 44 | 50 | 復旦大学 | 中国 |
51-60 | =45 | 37 | 14 | メルボルン大学 | オーストラリア |
51-60 | 51-60 | =55 | =44 | 浙江大学 | 中国 |
61-70 | 61-70 | ― | ― | 中国科学院大学 | 中国 |
61-70 | 51-60 | 35 | =26 | 香港大学 | 香港 |
61-70 | 61-70 | =175 | 80 | 大阪大学 | 日本 |
61-70 | 61-70 | 57 | =137 | 中国科学技術大学 | 中国 |
61-70 | 51-60 | 60 | =19 | シドニー大学 | オーストラリア |
61-70 | 61-70 | =130 | 113 | 東北大学 | 日本 |
71-80 | 61-70 | 83 | 56 | KAIST(韓国科学技術院) | 韓国 |
71-80 | 91-100 | 73 | =141 | 南京大学 | 中国 |
71-80 | 91-100 | =191 | =91 | 東京工業大学 | 日本 |
81-90 | 61-70 | 66 | =34 | オーストラリア国立大学 | オーストラリア |
81-90 | 61-70 | 54 | 42 | モナシュ大学 | オーストラリア |
91-100 | =152 | 53 | =47 | 香港中文大学 | 香港 |
91-100 | 91-100 | =64 | 60 | 香港科技大学 | 香港 |
91-100 | 71-80 | 70 | 43 | クイーンズランド大学 | オーストラリア |
101-125 | 126-150 | =168 | =256 | ハルビン工業大学 | 中国 |
101-125 | 101-125 | 201-250 | 225 | インド理科大学院 | インド |
101-125 | 101-125 | 201-250 | =176 | 名古屋大学 | 日本 |
101-125 | 151-175 | =145 | =145 | 成均館大学 | 韓国 |
101-125 | 51-60 | 76 | =74 | 延世大学(ソウルキャンパス) | 韓国 |
126-150 | 126-150 | 301-350 | =164 | 九州大学 | 日本 |
126-150 | 91-100 | =152 | 69 | 国立台湾大学 | 台湾 |
126-150 | 126-150 | 84 | =19 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
126-150 | 151-175 | =164 | 194 | 武漢大学 | 中国 |
151-175 | 176-200 | =177 | =272 | 北京師範大学 | 中国 |
151-175 | 126-150 | 351-400 | 196 | 北海道大学 | 日本 |
151-175 | 151-175 | ― | =149 | インド工科大学ボンベイ校 | インド |
151-175 | 176-200 | ― | 197 | インド工科大学デリー校 | インド |
151-175 | 151-175 | =185 | 216 | 同済大学 | 中国 |
176-200 | 151-175 | 82 | 70 | 香港城市大学 | 香港 |
176-200 | 126-150 | =87 | =65 | 香港理工大学 | 香港 |
176-200 | 176-200 | =158 | 275 | 華中科技大学 | 中国 |
176-200 | ― | ― | =285 | インド工科大学マドラス校 | インド |
176-200 | 151-175 | 149 | =100 | 浦項工科大学 | 韓国 |
176-200 | 61-70 | =150 | =355 | 四川大学 | 中国 |
176-200 | 176-200 | 351-400 | =355 | 筑波大学 | 日本 |
176-200 | ― | 801-1000 | =199 | 早稲田大学 | 日本 |
176-200 | 176-200 | ― | 291 | 西安交通大学 | 中国 |
2011年から始まったTHEの「世界大学評判ランキング」は、上位10大学を米国と英国がほぼ独占し、前々回まで米英両国以外で10位内に入ったのは東京大学が4度(2011、2012、2013、2020年)、清華大学が1度(2021年)あるだけだった。前回、清華大学、東京大学とアジアから初めて2校がトップ10入りしたのに続き、今回も中国の大学の評価がさらに高まり、日本の大学の評価の回復傾向が見られたが、今回の特徴としてTHEはアラブ地域の大学の評価が急上昇を挙げている。アラブ首長国連邦のアブダビ大学が101-125位となったのをはじめ、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、レバノン、クエートの中東アラブ地域4カ国から9大学が200位内に入った。1大学を除いて前回、順位付けされていなかった大学ばかりで、躍進ぶりが目立った。
関連サイト
TimesHigher Education「World Reputation Rankings2023」
TimesHigher Education「World Reputation Rankings 2022」
TimesHigher Education「World University Rankings2024」
QuacquarelliSymonds「QS World University Rankings 2023: Top global Universities」
QuacquarelliSymonds「QS World University Rankings2024: Top Global Universities」
関連記事
2024年02月19日 教育・人材「トップ10に香港の4大学 国際性に富む大学ランキング」
2023年12月25日 教育・人材「中国の大学軒並み低評価 持続可能性対象のランキング」
2023年10月10日 教育・人材「中国の大学軒並み上昇 英教育誌世界大学ランキング」
2023年07月24日 教育・人材「目立つ中国、香港の順位低下 QS世界大学ランキング」
2023年06月29日 教育・人材「清華大学5年連続1位 アジア大学ランキング」
2022年11月28日 教育・人材「高被引用論文著者5年で倍増 中国トップ米国との差縮める」
2022年11月18日 教育・人材「トップ10にアジア初の2大学 英教育誌世界評判ランキング」
2022年10月17日 教育・人材「中国躍進、研究力バランス変化 英教育誌世界大学ランキング」
2022年01月24日 取材リポート「アジアの研究開発実績急上昇 全米科学理事会が現状報告」
2021年08月12日 取材リポート「影響力大きい論文で中国1位 被引用数トップ10%米国抜く」