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【20-024】存在感増す中国NGO 社会課題解決へ不可欠な勢力に

2020年09月23日

中根 哲也(なかね てつや)

略歴

東京外国語大学中国語学科卒業後、清華大学公共管理学院で修士号を取得。北京にて環境ビジネス専門コンサルティング会社で5年勤務。留学から足掛け12年の北京生活を終え、2017年より愛知県在住。

独自の発展を遂げてきた中国のNGO。かつては「官」の対立概念として軽視されていたが、環境問題を始めとして、複雑化する社会的課題の解決のためには、政府にとっても不可欠の存在となりつつある。

 中国におけるNGOの概念は非常に複雑である。一般に日本や欧米で理解されているNGOとは異なり、「官製NGO」「半官半民NGO」が大半を占めている。中国政府の民政部(部は省に相当)に登記され、分野や行政区ごとに行政当局の管理・指導を受ける、いわば政府の出先機関的な役割を果たしている。省庁から独立した「中国民間交流促進会(CANGO)」などは代表的な官製NGOである。こうした背景から、社会的認知度や活動資金が豊富である。民政部公式統計では、2018年末時点で約81.7万団体が登記されている。規模や活動分野などから現在、社会団体、民間非企業単位(2016年に施行された慈善法により、社会サービス機構と改称)、基金会の3種類の法定NGOが存在しており、社会団体が36.6万団体、民弁非企業単位が44.4万団体、基金会が0.7万団体となっている。活動領域では、教育が最も多く30%以上を占めており、環境分野も多くが環境教育に分類されることが多い。

 もちろん、官製NGOに対し、社会的必要性から自発的に生まれた「草の根NGO」も存在している。コミュニティ組織や企業として登録されたNGOなどがこれに当たる。民政部への登記はなされていないため正確な統計は困難だが、清華大学NGO研究所の調べでは、全国に約300万団体が存在すると推計している。民間人やボランティアだけで運営されていることから、社会的に弱く資金面でも苦労することが多いが、近年NGO間の協力やSNSの活用、メディアを巻き込んだキャ ンペーンなどによって、存在感が高まっている。

 この他、海外NGOも中国国内で活動しており、WWFやグリーンピース、ハインリヒ・ベル財団などの著名な海外NGOの他、日本の団体も環境保護、医療福祉、農業などの分野で活躍している。中国のNGOと比べて資金力や人材、経験など点でレベルの高い組織が多いが、中国国内では寄付が直接受けられないなどの運営上の制約もある。この他、2017年1月に施行された「海外NGO国内活動管理法」により、それまで中国国内での活動には法人格を取得するなど既存枠組を使って活動をおこなってきた海外NGOに対して、特化した法整備をおこなった。事前に活動の届出が義務付けられることで公安当局の監視下に置くようになり、一切の政治・宗教活動等への関与が法的に禁じられている。

 中国におけるNGOの活躍が鍵となり政府を動かした出来事として、「怒江事件」がある。1999年にチベットから流れる国際河川である怒江において、水力発電開発計画が決定した。これを受け、現地地方政府が2003年にダム開発案の中央認可を受けたが、当時の環境当局である国家環境保護総局と一部専門家、環境NGOらが反対を表明した。この開発事業が周辺生態環境への悪影響を及ぼすと考えられたためである。政府内部から開発反対の声が上がったが、開発支持の意見を覆すには至らず議論は平行線を辿り、結論は国務院の判断に委ねられた。そこで環境保護総局は、政府外部の開発反対派である専門家や環境NGOに広く呼びかけ、外部圧力による政策促進を目指した。環境NGOらは、マスコミやインターネット、フォーラムなどの手段を駆使し、世論を開発反対派に転向させ、国際NGOも動員してユネスコ(国連教育科学文化機関)に怒江保護の共同署名を提出した。この結果、2004年2月、開発棚上げの指示が当時の温家宝首相によって発令された。政府内で力の弱い環境当局と社会組織の親和性は高く、政府内の政策勢力対立のテコとして機能した事例と言えよう。

 企業の環境汚染行為に対する監視においても、NGOが大きな役割を果たしている。企業のサプライチェーンにおける環境管理の促進を目指し、2008年に結成された「グリーン・チョイス・アライアンス(GCA)」に代表されるように、中国の環境NGOによるネットワーク活動は、SNSの普及に伴って活発になってきている。

 GCAの発起人5団体の1つである公衆環境研究センター(IPE)は、2006年設立の環境NGOで、中国の汚染情報に関わるデータベースを使い、全国各地の水質・汚染排出・汚染源(企業)情報をマップ上に表示できる「中国水汚染マップ」を開発、後年、「大気汚染マップ」も発表した。全国の環境NGOが情報収集に協力することで、全国どこでも汚染企業情報が特定できるようになり、汚染排出行為の監視に力を持つようになった。当初地方企業は聞く耳を持たなかったが、発注元となる多国籍企業に公開質問状を突き付け、グリーンサプライチェーン構築への取り組みのランキングを発表した。消極姿勢を採り続ける企業は低評価となり、汚染を黙認しているとして消費者の反感を招き、最悪は不買運動を招く。ITではアップル、アパレルではユニクロ(ファーストリテイリング)等を改善姿勢に転向させるなど実績を挙げた(なお、ここでは余談であるが、IPEはその後「蔚藍地図」というアプリを開発し、モニタリングデータだけでなく、最近では新型コロナウイルスの感染状況もマップに反映させるなど、改良を進めている。参考URL:www.ipe.org.cn/)。

 長きにわたり、中国政府はNGOに代表される市民社会に対して、「官」に対する概念としての「非政府」或いは「民間」と呼び、政府側の市民社会に対する疎外・軽視などの認識を暗に示していた。ところが近年、各種法令法規においてNGOに対する公式呼称は「社会組織(Social Organization)」と改められており、政府側の認識も変化していることが窺える。人権問題等、敏感な部分に触れかねない領域については、当局の警戒心は依然強いものの、環境問題などを始めとして、NGOは社会的課題解決には不可欠の勢力となりつつある。

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環境問題などの社会的課題に対して、中国でもNGOの存在感が高まっている。


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年10月号(Vol.104)より転載したものである。