【10-004】日本企業における留学生の就労に関する調査
2010年 5月28日
郡司正人(ぐんじ・まさと):
労働政策研究・研修機構調査解析部(政策課題担当)主任調査員
1989年、日本労働協会(現労働政策研究・研修機構)に入社。同協会発行の『週刊労働ニュース』記者として、労働問題・労使関係などの取材・報道に従事したのち、7年前から現職。その間、97年から99年まで、JICA専門家として国際労働機関(ILO)のアジア太平洋総局(タイ・バンコク)に勤務し、共同研究プロジェクトの運営を担当した。直近の調査では、『企業における若年層の募集・採用に関する実態調査』『日本企業における留学生の就労に関する調査』『副業者の就労に関する調査』などを実施。
1.はじめに
前回でご紹介した『企業調査』の通り、政府が国家戦略として外国人留学生の受け入れ拡大を掲げ、高度人材としての活用を打ち出しているものの、実際に留学生を採用している企業は大手企業に限られ、少数派にすぎない。採用している大手企業も意識して外国人留学生を採用したところは少なく、ほとんどの企業が雇用管理上でも日本人社員とまったく同一に扱っており、外国人留学生の特性を活かした積極的な活用とは言い難いのが現状だ。このような状況の中、現在日本で働いている元留学生が日本企業をどのように感じ、どのような意識で働いているのかについて、企業側の意識や施策などとともに「日本企業における留学生の就労に関する調査」(以下、『留学生調査』)から見てみよう。
回答した留学生902人のイメージは、回答企業3018社(従業員300人以上の民間企業10,349社を対象に調査)のなかで留学生を採用した経験のある703社(23.3%)に勤めている元留学生。約8割(77.4%)と圧倒的多数を中国出身者が占めており、他の国は韓国の7.4%、台湾の4.1%と続くが、少数派にすぎない。つまり、調査結果にみられる元留学生の意識は、中国出身の元留学生の意識と言い換えても、ほぼ間違っていないものと思われる。年齢は30歳代以下が約9割(89.8%)を占め、男女比は男性57.3%、女性42.6%となっている。学歴は大学院卒が53.9%、大卒が40.8%で、文系が約6割(55.7%)、理系が約4割(39.3%)。日本での就労年数は、6割の人が3年未満となっている。
2.留学生が日本企業に就職した理由と企業が留学生を採用する理由
日本で学んだ留学生の約8割は日本企業で働くことを希望していると言われているが、留学生はどんな理由から現在の会社に就職しようと思ったのだろうか。調査結果によると、「仕事の内容に興味があったから」が66.0%ともっとも多く、次いで、「母国語や日本語などの語学力を生かしたいから」が48.9%、「日本企業の高い技術力に魅力を感じたから」が35.5%、「日本の学校で学んだ専門性を生かせるから」が35.3%などとなっている(図表1)。
これを最終学歴の専攻別にみると、「理系」「文系」ともに、「仕事の内容に興味があったから」がもっとも多く(「理系」68.6%、「文系」64.7%)、次いで、「理系」では、「日本の学校で学んだ専門性を生かせるから」(49.1%)、「日本企業の高い技術力に魅力を感じたから」(45.1%)などと続き、「文系」では、「母国語や日本語などの語学力を生かしたいから」(59.5%)、「日本企業の高い技術力に魅力を感じたから」(29.5%)などが続く。理系では、日本の大学で学んだ高度技能を活かしたいとの意識が強いようだ。
『留学生調査』では、同時に企業にも調査を行っており(以下、『留学生調査/企業票』)、「留学生を採用したことのある企業」に対して留学生を採用した理由を尋ねたところ、「国籍に関係なく優秀な人材を確保するため」が65.3%ともっとも割合が高く、次いで、「事業の国際化に資するため」(37.1%)、「職務上、外国語の使用が必要なため」(36.4%)などとなっている。語学活用という意味では留学生のニーズと合致しているが、外国人留学生の特性を積極的に活用する「外国人ならではの技能.発送を取り入れるため」は9.4%と僅かにすぎなかった。(図表2)。
3.留学生が望む将来キャリアと企業が留学生に期待する将来の役割
それでは、留学生は日本の会社で、将来どのようなキャリアを思い描いているのだろうか。留学生が望む将来キャリアは、「海外の現地法人の経営幹部」が31.6%ともっとも多く、次いで、「海外との取引を担う専門人材」が26.2%、「高度な技能.技術を生かす専門人材」が25.2%、「会社.会社グループ全体の経営を担う経営幹部」が14.7%となっている(図表3)。
これを最終学歴の専攻別にみると、「理系」では、「高度な技能.技術を生かす専門人材」が48.5%ともっとも多い。一方、「文系」では、「海外の現地法人の経営幹部」が35.6%、「海外との取引を担う専門人材」が34.2%となっており、両者で7割弱を占める。
在留資格別では、理系出身者が多くを占める「技術」で、「高度な技能.技術を生かす専門人材」が51.4%ともっとも多い。1方、文系出身者が多くを占める「人文知識.国際業務」では、「海外の現地法人の経営幹部」が36.8%、「海外との取引を担う専門人材」が34.6%となっており、両者で約7割を占める。
これに対し、留学生を採用したことのある企業は、採用した留学生に将来どのような役割を果たして欲しいと考えているのだろうか(『留学生調査/企業票』)。調査結果によれば、「一般の日本人社員と同様に考えている」とする企業割合が48.9%ともっとも高い。約半数の企業は、留学生に期待する将来の役割について明確なイメージをもっていないことが窺える。
思い描く留学生が多かった「海外の現地法人の経営幹部」「海外との取引を担う専門人材」「高度な技能.技術を生かす専門人材」についてあげる企業の割合は高くなく、それぞれ9.8%、19.3%、15.5%と、意識にギャップがあるようだ。本社のトップ層にあたる「会社.会社グループ全体の経営を担う経営幹部」になるとする企業は3.0%にすぎなかった(図表4)
4.留学生の今後の日本での就労見込み
留学生調査では、ずっとこのまま日本で働くか、母国など国外に出て働くかなど、今後の就労見込みも聞いている。それによれば、「日本でずっといまの会社で働きたい」(以下、「現在の企業定着希望タイプ」と略す)が33.6%となっており、3分の1が現在の会社で働きたいとしている。次いで、「いまの会社であるかどうかはこだわらないが、ずっと日本で働きたい」(以下、「日本企業就労希望タイプ」と略す)が28.4%で、合計すると6割強(62.0%)が日本にとどまりたいと考えている。これに対して、「いずれ母国に帰って働きたい」(28.9%)、「いずれ日本.母国以外の国で働きたい」(5.9%)を合わせると、3人に1人(34.8%)が、いずれ日本を離れて母国や第3国で働きたいと考えていることになる(以下、「帰国.第3国就労希望タイプ」と略す)(図表5)。
これを在留資格別にみると、「技術」は、「日本企業就労希望タイプ」が62.6%と、「人文知識.国際業務」の59.1%を上回っており、日本への定着志向が若干強いようだ。逆に、「人文知識.国際業務」は、「帰国.第3国就労希望タイプ」の割合が若干高くなっている。
将来のキャリア希望別にみると、将来希望するキャリアとして、「海外の現地法人の経営幹部」とする者のうち「いずれ母国に帰って働きたい」は44.6%となっており、「いずれ日本.母国以外の国で働きたい」(5.3%)を含めると、49.9%と2人に1人が日本を離れたいとしている。
5.母国出身の留学生に日本企業への就職を勧めたいと思うか
母国出身の留学生に対して、日本企業を勧めたいと思うかどうかを聞いたところ、大多数の83.5%が「勧めたい」(「勧めたい」+「どちらかといえば勧めたい」)としており、「勧めたくない」(「勧めたくない」+「どちらかといえば勧めたくない」)の割合は、14.8%であった(図表6)。
「勧めたくない」とする割合について、在留資格別にみると、「人文知識.国際業務」のほうが、「技術」に比べ若干だが割合が高くなっている。将来のキャリア希望別では、「進めたくない」組は「海外の現地法人の経営幹部」希望が17.9%と、もっとも割合が高い。今後の就労見込み別にみると、「帰国.第3国就労希望タイプ」で20.1%が進めたくないとしており、もっとも割合が高くなっている。海外現地法人の幹部になりたいと考えている者や、いずれ日本を離れたいと考えている者では、日本企業を勧めたくないと考えている割合がやや高いようである。
母国出身の留学生に対して、日本企業を勧めたいと回答した者について、勧めたいと思う理由を聞いたところ、「先端技術や生産方式で学ぶべき点が多いから」が58.8%ともっとも多く、次いで、「経営方法で学ぶべき点が多いから」(52.5%)、「語学力を生かした仕事ができるから」(45.9%)などが続くが、「賃金が高いから」(16.5%)、「学校で学んだ専門性を生かせるから」(16.3%)の割合は全体としては低くなっている。日本企業に就職した理由では「日本の学校で学んだ専門性を生かせるから」の割合が高かったが、勧めたい理由では低くなっており、思いと現実のギャップを感じている様子がうかがわれる。(図表7)。
在留資格別にみると、「技術」のほうが「人文知識.国際業務」に比べ、「先端技術や生産方式で学ぶべき点が多いから」で17.7ポイント、「学校で学んだ専門性が生かせるから」で7.1ポイント高くなっている。逆に、「人文知識.国際業務」では、「技術」に比べ、「経営方法で学ぶべき点が多いから」で25.9ポイント、「語学力を生かした仕事ができるから」で22.2ポイント高くなっている(図表8)。
今後の就労見込み別にみると、「現在の企業定着希望タイプ」では、他のタイプに比べ、「日本企業は従業員を大切にするから」「先端技術や生産方式で学ぶべき点が多いから」「人材育成に熱心だから」などの割合が高くなっている。「帰国.第3国就労希望タイプ」は、他のタイプに比べ、「語学力を生かした仕事ができるから」「母国への日本企業の進出が盛んだから」などの割合が高くなっている(図表9)。
母国の留学生に、日本企業を勧めたくないと回答した者に、その理由を聞いたところ、「外国人が出世するのに限界があるようにみえるから」が73.1%ともっとも多く、次いで、「日本企業は外国人の異文化を受け入れない場合が多い」で61.9%となっている。また、「労働時間が長いため、私生活が犠牲になるから」(39.6%)、「賃金で個人の業績や成果が反映されるウェートが小さい」(32.8%)などの雇用管理面をあげる人も少なくない(図表10)。
これを在留資格別にみると、「人文知識.国際業務」のほうが「技術」に比べ、「外国人が出世するのに限界があるようにみえるから」で12.7ポイント高くなっており、「終身雇用を前提とし多様なキャリアコースがないから」「賃金水準が低いから」「職務分担があいまいだから」「希望した業務に配置されないから」などの割合もより高くなっている(図表11)。
今後の就労見込み別にみると、いずれのタイプも、「外国人が出世するのに限界があるようにみえるから」がもっとも割合が高く、次いで、「日本企業は外国人の異文化を受け入れない場合が多い」をあげる割合が高い。
「評価制度の評価基準が不明確だから」、「賃金水準が低いから」、「終身雇用を前提とし多様なキャリアコースがないから」といった雇用管理に関するものについては、「現在の企業定着タイプ」に比べて、「他の日本企業就労希望タイプ」「帰国.第3国等希望タイプ」で割合が大幅に高くなっており、現在勤めている日本企業に不満を持っている様子がわかる。また、「帰国.第3国就労希望タイプ」は、他のタイプに比べ、「希望した業務に配置されないから」を理由にあげる割合が高くなっている(図表12)。
6.留学生が日本企業に求める定着.活躍のための施策
どのようにすれば、留学生が日本企業に定着し、活躍してもらうことができるだろうか。調査では、「あなた自身の経験から、今後、日本企業で留学生が定着.活躍していくために日本企業が取り組んでいくべきこと」について聞いている。それによれば、「日本人社員の異文化への理解度を高める」が64.9%でもっとも割合が高く、次いで、「外国人の特性や語学力を生かした配置.育成をする」が59.6%、「外国人向けの研修を実施する」が40.5%などとなっている(図表13)。
これを在留資格別にみると、いずれの在留資格も、「日本人社員の異文化への理解度を高める」「外国人の特性や語学力を生かした配置.育成をする」「外国人向けの研修を実施する」が上位にくることに変わりはない。ただ、「人文知識.国際業務」のほうが「技術」に比べ、「短期間の勤務でもキャリアを形成できるような多様なコースを用意する」「日本人社員の異文化への理解度を高める」「外国人向けの研修を実施する」などの割合が高くなっている。一方、「技術」では、「人文知識.国際業務」に比べ、「学校で学んだ専門性を生かした配置.育成をする」の割合は高い(図表14)。
今後の就労見込み別にみると、いずれのタイプも、「日本人社員の異文化への理解度を高める」がもっとも割合が高く、次いで、「外国人の特性や語学力を生かした配置.育成をする」の割合が高い。ただ、「短期間の勤務でもキャリアを形成できるような多様なコースを用意する」の割合は、「現在の企業定着タイプ」から「日本企業就労希望タイプ」「帰国.第3国就労希望タイプ」へと向かって割合が高くなっており、とくに日本を離れたいと考えている者において、早期にキャリア形成ができるような多様なキャリアコースに対するニーズが高いことが示唆される。また、「労働時間を短くし仕事と私生活を両立できるようにする」でも、「帰国.第3国就労希望タイプ」の割合が他のタイプに比べ高くなっている(図表15)。
7.留学生の定着策に関する留学生と企業の認識ギャップ
このような留学生の意識に対し、企業はどのような対策をとっているのだろうか(『留学生調査/企業票』)。留学生の定着.活躍のための施策については、企業調査と留学生調査において、ほぼ同じ設問で尋ねている。留学生調査での、希望する施策の上位は、「日本人社員の異文化への理解度を高める」(64.9%)、「外国人の特性や語学力を生かした配置.育成をする」(59.6%)、「外国人向けの研修を実施する」(40.5%)などだった。一方、企業が実施している施策では、「外国人の特性や語学力を生かした配置.育成をする」が44.7%ともっとも多く、次いで、「学校で学んだ専門性を生かした配置.育成をする」(33.6%)、「生活面も含めて相談できる体制を社内に整備する」(26.2)などとなっている。「特に何もしていない」とする割合も24.8%となっており、4社に1社は外国人ということでの特別な定着.活躍のための施策を打っていないことがわかった。
この結果を比較すると、「外国人の特性や語学力を生かした配置.育成をする」については、企業、留学生双方の認識は一致している。しかしながら、「日本人社員の異文化への理解度を高める」や「外国人向けの研修を実施する」、「短期間の勤務でもキャリア形成できる多様なコースを用意する」、「労働時間を短くし仕事と私生活を両立できるようにする」といった雇用管理の面で、企業の取り組み割合に比べて、留学生の希望が多く、留学生の希望と企業が実施している施策の間には大きく隔たりがあることが窺える結果となっている(図表16)。
8.『企業調査』『留学生調査』から見える今後の課題
2回にわたって、労働政策研究・研修機構が実施した外国人留学生の採用や意識について扱った『企業調査』『留学生調査』の内容をご紹介してきた。2つの調査を通じて明確になった今後の課題を振り返って、まとめとしたい。過去3年間で実際に外国人留学生を採用した企業は約1割に過ぎないが、採用した企業では積極的な評価が大多数で、約8割が今後も採用を続けたいとしている。一方、採用しなかった企業では、相対的に留学生をネガティブなイメージで捉えており、今後の採用も8割近くが「ないと思う」としている。実際に採用して留学生の実像を理解している企業が、今後も積極的に活用したいと考えていることは、留学生の採用を進めるうえで、重要なヒントとなる。企業にとっては、先例のない最初の一歩を踏み出すハードルは非常に高いようだが、ここを突破出来れば、状況を大きく変えることも不可能ではない。また、採用した企業でも、外国人留学生の特質に合わせたキャリア管理や労務管理を行っているところは少なく、留学生を活かしきれていないのが現状。留学生を戦略的に活かすためには、留学生の様々な意識やバックグラウンドを踏まえたきめ細かなケアが必要不可欠のようだ。