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【24-64】学術論文のアーカイブ保存はデジタル化からデータ化へ(その1)

沈 唯(科技日報実習記者) 2024年07月09日

 このほど、学術誌「Journal of Librarianship and Scholarly Communication」に掲載されたデジタル出版物700万冊以上を対象とした研究によると、デジタルオブジェクト識別子(DOI)というタグが付いている学術論文200万本以上が、適切にアーカイブ保存されていないことが明らかになった。この研究には一定の限界が存在するとの見方もあるが、関連する分析結果は文献専門家の関心と議論も呼び起こしている。

 現在、学術論文は産出数が非常に多く、作成ペースも非常に速い。上記の研究は「オンライン論文保存システムは既に、その産出速度に対応できなくなっている」と指摘している。では、全ての学術論文をアーカイブ保存する必要があるのだろうか? 学術論文のアーカイブ保存はどのようなチャンスと課題に直面しているのだろうか?

重要な目的は交流と共有

 1980年代以前、学術論文のアーカイブ保存は紙媒体での保存が主流で、主にジャーナル単位で保存していた。中国人民大学情報資源管理学院の索伝軍教授は「紙媒体での保存には高いコストがかかる。紙媒体のジャーナルを購入するには費用がかかり、保存するのにも膨大なスペースが必要だ」と述べた。

 デジタル技術の水準が高まるにつれて、学術論文のデジタル保存が次第に主流となり、ジャーナルごとに保存するという制約も打破され、学術論文単位で保存するようになった。デジタル保存ができるようになったことで、学術論文を探しやすくなり、オープン性も高まった。そして、保存コストが低減し、保存スペース不足やジャーナルの重複保存による資源浪費などの問題も解決された。

 索氏は「一部の機関は現在、デジタルと紙媒体の両方を組み合わせて保存している。大半の学術論文はデジタル保存して、少量の重要なジャーナルと論文は引き続き紙媒体で保存している。中国の国家科技図書文献センター(NSTL)はこの形を採用している。二次資料や学術論文のメタデータを保存したり、論文の要旨やキーワードのみを保存している機関も一部ある」と説明した。

 学術論文のアーカイブ保存の必要性について論じる前に、論文を保存する目的を明確にしておく必要がある。索氏は「学術論文は研究成果の記録であり、学術論文を保存するのは、後世の人々が先人の研究成果を効果的に取得し、理解できるようにするためであり、学術研究の伝承性と連続性を保つためだ。また、学術論文の保存は、さらに広範囲の知識の交流と共有を実現し、研究効率を高め、研究資源とコストを節約するためでもある」と見解を述べた。

 そして、「全ての学術論文のアーカイブ保存は理論的に必要ないと考えている。まず、計量書誌学の代表的な分布法則の一つであるブラッドフォードの法則によれば、ジャーナルも学術論文も階層に分けることができる。一部の学術論文は価値が低く、イノベーション性が乏しく、研究結果が時代遅れとなっている。また、重複や間違いが存在する可能性がある論文もある。これらの論文は保存する必要性は低い。また、情報ライフサイクル理論によれば、学術論文の価値も時と共に変化する。大半の論文はライフサイクルが短く、すぐに時代遅れとなり、参考価値を失ってしまう」と説明した。

 中国内外の関係機関による大まかな統計分析結果を見ると、60%以上の学術論文は発表後、一度もアクセスやダウンロードされたことがないという。つまり、知識の交流や共有に一度も参加したことがないことになる。また、個人の時間と気力には限界があるため、保存されている論文が多くなるほど、情報取得の効率が低くなり、知識の交流・共有のコストも高くなる。

 索氏は「学術論文は『保存』が目的なのか、それとも、重要テクノロジーや経済発展のニーズを満たし、研究者の知識の交流・共有という実際のニーズのためなのか。これは本質的な問題と言える」と指摘した。

その2 へつづく)

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中国人民大学

※本稿は、科技日報「学术论文归档保存应从数字化转向数据化」(2024年4月30日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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