中国の日本人研究者便り
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【20-05】楽しみながら挑戦しチャイナ

2020年9月28日

小松 義隆

小松 義隆:
中国科学院地理科学与資源研究所、国際博士后工作

略歴

北海道函館市出身。2006年法政大学工学研究科建設工学専攻修了後、建設コンサルタントにて雨水貯留浸透施設の設計や河川模型実験等に関する業務に従事した。2010年の会社整理に伴い筑波大学の博士課程に入学、2018年満期退学。学位取得後の2018年10月に、中国科学院地理科学与資源研究所の国際博士后工作に採用された。降雨流出における表面流発生要因を、人工降雨装置を用いた実験と現地観測の結果から追求している。

中国で研究活動をすることになったきっかけ

 私は博士課程に進学するまで外国語に縁はなく、英語はもちろんのこと中国語も話すことができない状況でした。そんな中突然、当時の指導教員から中国(北京と成都)との共同研究に参加するようにと指示されたことが、中国との初めての縁になります。共同研究とはいってもつねに中国に滞在するわけではなく、年に数度中国へ行くというものでした。

 2010年に初めて中国へ行ったときは、今のように自由にスマートフォンなど使えず、中国語辞書をインストールしたPCや中国語会話に関する書籍を常に持ち歩きながら会話?をしていました。このような人間に対しても、機会を与えてくださった指導教員および優しい気持ちで対応してくださった周りの人には感謝しかありません。なにより、なかなか学位を取得することができない中でも、当時の共同研究者の一人でありいまの上司である宋献方先生から"ポスドクとして来てみませんか"という声を掛けてくださらなければ、中国で働くという機会を得ることはありえなかったと思います。

自身の研究テーマ、所属する研究所・研究室の雰囲気

 地表面被覆と勾配が降雨流出時の表面流発生にどういった影響を与えるかというのが、私の研究テーマです。中国はもちろん、世界中の研究者が様々なスケール(例えば、1m2以下から100m2や流域スケールまで)で昔から研究を進めている内容で、多くは既往の研究結果に沿うような結果が得られており、周りの人には"必要だけど古い研究テーマ"と言われます。ただし、最近の研究によると、地表面被覆のみならず勾配も、従来通りの効果が得られず、示されている影響要因では説明ができないという結果も示されてきているために、まだまだ多くの人が実験や現地観測結果に基づいた研究を進めています。

 なお、中国国内の室内の降雨流出装置としては、1965年に中国科学院地理所水文室径流実験室に設置されたのが初めてとのことです。いまとなっては多くの大学や研究機関でも室内外で人工降雨装置を用いた実験や観測が進められ、当研究所には2014年に大型の人工降雨装置が改めて設置されました。実験土槽は幅3m、長さ10m、高さ0,8m、降雨強度は約300mm/hまで、勾配は約35度まで変更することができ、室内にある装置としてはかなり大掛かりなものになります。

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研究所が保有する河川模型実験施設(手前右側)と人工降雨装置(奥)

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表面流や土壌中の水分移動を観測できる人工降雨装置

 ちなみに当研究所には、中国科学院大学の学生さんはもちろんのこと、研究所の開放日以外にも、幼稚園生から大学生まで多くの人たちが訪れます。同僚から私も実験施設の説明をするように言われ、自己紹介だけは拙い中国語でするといった、楽しい経験を何度もすることができました。たまには日本語を少し話す学生さんもいて、そういう人達はにこにこしながら話しかけてきてくれました。なお、事前申請が必要ですが、後述する校友会関係で知り合うことのできた北京に留学中の後輩達や、たまたま北京に来ることになった北海道の高校生たちも見学に来てくれ、参加してくれたみんなから貴重な体験ができたという喜びの声を聞くことができました。

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中国科学院大学・中丹学院の新入生さんへ実験装置を説明

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施設見学(左:手前の5人は北京に留学中の法政大学の後輩達、右:北京交通大学附属中高の生徒さん達に説明をする同僚)

 所属する研究室の雰囲気は、教職員から学生を含めて全員が笑顔であるという印象です。新入生歓迎会はもちろんのこと、先生の誕生日やなにかの機会において研究室全体でレクリエーションや食事会が開催されることが多く、すぐに研究室になじむことができる雰囲気があります。これは、中国では食事を大事にするという習慣が当たり前となっていて、誰もが簡単にコミュニケーションをとれるようにするといった下地があるように思います。普段の食事についても同じで、昼ご飯の時にはよく学生さんが声を掛けてくれます。

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研究室全体のとある日のレクレーション(この中に一人教員がいますが、皆で楽しんでいます)

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2019年度修了生の送別会

 全教員が多くのプロジェクトを抱えており、現地観測の際は学生も含めてお互いに声を掛け合っています。論文を書く際にも、全教員で対応をしているようです。表現は悪いですが、時間がないと逃げて個を優先し、和は関係ないという態度を示す人もいる中で、スムーズに助け合いができるのには驚きました。ただし、調査日の直前に声を掛けられることもあり、中国のスピード感に慣れない部分もありました。ちなみに、一度の研究室セミナーの時間にかける時間は長く、一人に対して2時間もかかる場合もあります(日本では、このような長いセミナーを経験したことがありませんでした)。発表者にとっては大変な時間で、厳しい質問や意見等が出ることも多いですが、魔女狩りのような雰囲気はありません。

中国への留学や研究活動を考えている方へのアドバイス

 私なんかが言えることではないですが、中国にて勉強・研究することはこれからのキャリアパスにおいても有用なものになるのではないでしょうか。なお、研究環境といったような詳しいことは、他の先生方が様々な視点で執筆されていますので、そちらをご参照くださいませ。ちなみに、周りに日本人がいなくてどうしよう、日本語が通じなくてどうしようといった不安は、すぐになんとかなると思います。中国に来た当初、私の周りに日本人はいませんでしたが、宋先生から"校友会"の存在を教えていただきました。一つの校友会に参加することで人との縁ができ、職種や国籍を問わずに繋がっていきます(日本にいたら、絶対にお会いできないであろう、繋がることはないであろうという人まで!?)。また、同じ大学の出身であるということで、中国地質大学(北京)の馮伝平先生は頻繁に声を掛けてくださり、年末年始は先生の研究室の皆さんに大変お世話になりました。

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景山公園にて2020年の初日の出を馮研究室と一緒にみた後の故宮博物館前

 言葉はコミュニケーションをとるための道具であり、英語はもちろん中国語も勉強しておくことで、中国における日常生活および研究生活はよりスムーズにいくでしょう。でも、気負わずに中国の生活を楽しみながら勉強や研究をしようという考えで、安心して中国に来てみるのはいかがでしょうか?