第174号
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予熱燃焼で低質炭のクリーン利用を実現

2021年03月19日 馬愛平(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

国家重点研究開発計画「石炭のクリーンかつ効率的な利用と新型省エネ技術」重点特定プロジェクトにフォーカス

「炭素排出ピークアウトとカーボンニュートラルに向けた取り組みをしっかりと行う」ことが今年の重点任務の一つとなり、エネルギー利用効率を継続的に向上させることが、その任務を完遂するための重要な一部分となっている。2016年に国家重点研究開発計画「石炭のクリーンかつ効率的な利用と新型省エネ技術」重点特定プロジェクトが始動し、それにより、多くの技術的ブレイクスルーが実現、それが「カーボンニュートラル」という目標を達成するためのしっかりとした下支えとなっている。

 このシリーズ記事では、同プロジェクトの優れた一連の成果を通して、同プロジェクトの難関攻略の過程や重大なブレイクスルーを紹介していく。

―編者より

 石炭のカスケード利用は、石炭のクリーンで効率的な利用の主な方法の一つだ。しかし、半コークスや残留炭素などは揮発分の含量が非常に少なく、クリーンで効率的な燃焼を実現するのは至難の業で、安定した燃焼が困難、溶融速度が遅い、窒素酸化物の排出量が多いなどの問題が往々にして存在している。

 そのため、この種の超低揮発分炭素系燃料のクリーンで効率的な燃焼・利用をいかに実現するかが、中国における石炭のクリーンで効率的なカスケード利用の産業化・応用化にとってボトルネックとなっており、キーテクノロジーのブレイクスルーが急務となっている。

 中国科技部(省)ハイテク研究発展センターは取材に対して、国家重点研究開発計画「石炭のクリーンかつ効率的な利用と新型省エネ技術」重点特定プロジェクトで計画されている「超低揮発分炭素系燃料のクリーン燃焼キーテクノロジー」プロジェクトが重大なブレイクスルーを実現したことを明らかにした。同プロジェクトで研究開発された「予熱燃焼技術」と「発電所ボイラーハイレシオブレンディング技術」という2つの技術は、技術検証試験もクリアしている。そのうち予熱燃焼技術は、1時間当たり35トンの粉炭を燃焼する工業ボイラー上でのテストに成功し、長期にわたる連続かつ安定した稼働を実現している。

低質炭の効率的燃焼・利用がハードルに

 プロジェクトの責任者を務める中国科学院工程熱物理研究所の元研究員・李詩媛氏は取材に対して、「石炭のランク・質別ごとのカスケード利用は、中国のクリーンで効率的な石炭利用技術革新の戦略的方向性の一つである。ランクや質ごとのカスケード利用とは、条件に合う一部の石炭(主に低質炭)を熱分解や気化によって油やガスに変え、その副産物である熱分解処理された半コークスや気化した残留炭素を燃料として発電し、最終的に石炭のクリーンで効率的な利用を実現することを指す」と説明する。

 中国の低質炭の埋蔵量は膨大で、石炭化学工業の技術が発展するにつれて、低質炭のランク別・質別の転化の過程で、副産物として熱分解処理された半コークス(半成コークス)や気化した残留炭素が大量に発生する。こうした副産物をハイランクのクリーン燃料とするクリーンで効率的な利用は、石炭のクリーンで効率的なカスケード利用の産業チェーンにおいて重要な位置を占めている。

 李氏はまた「ただ、熱分解処理された半コークスや気化した残留炭素の揮発分の含量は非常に少なく、クリーンで効率的な燃焼利用を実現するのは至難の業だ。しかし、熱分解処理された半コークスのほとんどは、灰分と硫黄分が少なく、発熱量が高いなどの特徴を備えており、原炭と比べるとクリーンな燃料と言える。この種の超低揮発分炭素系燃料のクリーンで効率的な利用をいかに実現するかが、中国における石炭のクリーンで効率的なカスケード利用の産業化・応用化のボトルネックとなっており、キーテクノロジーのブレイクスルーが急務である」と語る。

 そのため、国家重点研究開発計画「石炭のクリーンかつ効率的な利用と新型省エネ技術」重点特定プロジェクトでは、「超低揮発分炭素系燃料のクリーン燃焼キーテクノロジー」プロジェクトが計画されている。同プロジェクトは共通性キーテクノロジー研究開発系プロジェクトで、研究を通して、超低揮発分炭素系燃料に適した燃焼技術や設備を開発し、技術検証試験をクリアすることが求められている。

 李氏は、「同プロジェクトの目標は、ポストイグニッション熱分解処理された半コークスと気化した残留炭素の予熱燃焼に適した技術、発電所粉炭ボイラーの超低揮発分炭素系燃料の割合が高いブレンディングに適した効率的な低窒素酸化物燃焼技術を開発し、相応の技術検証試験をクリアし、実証を行い、工業化応用を推進すること」と説明する。

ブレンディング燃料の燃焼、窒素酸化物の抑制メカニズムを把握

 李氏によると、同プロジェクトの難関攻略のプロセスは、実験室での研究、パイロット生産テスト・技術検証試験、実証の3段階に分けられている。

 プロジェクトメンバーである西安交通大学の王長安准教授は、「原炭と比べると、熱分解処理された半コークスと気化した残留炭素の物理化学的性質、燃焼特性、汚染物質生成メカニズムはいずれも変化している。この種の燃料の工業ボイラーにおけるポストイグニッションや、大型粉炭ボイラーにおけるクリーンで効率的なブレンディングをさらに良い形で実現するためには、こうした燃料のポストイグニッションやブレンディングの燃焼強化と汚染物質抑制のメカニズムを完全に把握しなければならない」と指摘する。

 実験室研究段階について王准教授は、「プロジェクトチームは、各種実験と技術的手段を通して、超低揮発分炭素系燃料の炭質特征、発火の特性、窒素酸化物生成メカニズム、バーンアウト特性、スラッギングの傾向などを系統的に研究し、超低揮発分炭素系燃料と歴青炭の混燃過程における燃料窒素の移行法則、燃料窒素の窒素酸化物転化抑制メカニズムなどを解明した」と説明する。

 そして「その他、数値実験を通して、発電所ボイラーのハイレシオブレンディング燃焼組織最適化技術ガイドラインを作成し、ハイレシオブレンディング試験のための前期理論、技術的指導を提供した。実験室の研究を通して、300メガワット(MW)級発電所で粉炭比率45%以上のボイラーブレンディングで熱分解処理した半コークス、気化した残留炭素の低窒素酸化物に応用できる燃焼技術ソリューションが完成し、実際の発電所でのボイラーブレンディング技術検証試験への応用にも成功した」という。

予熱燃焼技術のテストに成功 安定した稼働も実現

 ポストイグニッション超低揮発分炭素系燃料の予熱燃焼技術は、同プロジェクトにおいて研究開発された技術の一つであるが、その中の予熱式燃焼器は同技術のキーテクノロジーだ。

 プロジェクトメンバーである中国科学院工程熱物理研究所副研究員の欧陽子区氏は、「そのため、プロジェクト実施ガイドラインに基づいて、パイロット生産の段階で予熱式燃焼器のパイロット生産装置を研究開発し、燃焼器の性能試験研究を完了させ、次の段階として予熱式燃焼器の工業装置における検証を行うために、設計や稼働の面での根拠を提供しなければならなかった」と説明する。

 プロジェクトチームは、熱出力16MWの予熱式燃焼器測定プラットフォームを作ることに成功し、熱分解処理された半コークスと気化した残留炭素に対する一連の試験・研究を展開、貴重な試験データを大量に取得した。この段階の研究は、1時間当たり35トンの粉炭を燃焼するボイラー上で予熱式燃焼器を安定稼働させるための基礎となった。

 2019年、予熱燃焼器や予熱燃焼技術は、陝西煤業化工新型能源有限公司の1時間当たり35トンの粉炭を燃焼する工業ボイラー上でのテストに成功し、長期にわたる連続かつ安定した稼働を実現した。その成果は同年、「2019年石炭テクノロジーニューストップ10」の1位に選ばれた。

汚染物質排出、着火性の低さ、バーンアウトなどの問題を解決

 プロジェクトメンバーである陝西煤業化工集団陝西長安電力有限公司総経理の馮平安氏は、「同プロジェクトの技術検証試験は、現役の発電所粉炭ボイラー上で、半コークスと気化した残留炭素の割合が45%以上のブレンディングで展開するエンジニアリング試験と実証段階にあり、超低揮発分炭素系燃料、それと一般的な石炭とミックスした場合の製粉特性、燃料特性、汚染物質排出特性などを系統的かつ網羅的に研究し、超低揮発分炭素系燃料を高い割合でブレンディングした場合の発電所粉炭ボイラー・ソリューションに設計や稼働の根拠を提供している」と説明する。

 そして「技術検証試験において、超低揮発分炭素系燃料と歴青炭をミックスした燃焼に適した空気マルチポイント適量段階的マッチング、燃料のエリア別燃焼、粒子サイズ最適化・マッチング、燃焼室キー特性パラメーターカップリングの低窒素酸化物燃焼ソリューションを打ち出し、さまざまなタイプの発電所粉炭ボイラーにおける超低揮発分炭素系燃料と低窒素酸化物の割合が高いブレンディングの効率的な燃焼のキーテクノロジーを開発した」とする。

 その後、実際に稼働中の石門発電所の300MWのユニットや京能寧東発電所の660MWのユニットなどにおける技術検証試験と実証を経て、超低揮発分半コークスの割合が50%以上、気化残留炭素の割合が1%以上のブレンディングを初めて実現し、ボイラーの各種指標も目標数値をクリアした。プロジェクトチームが開発したキーテクノロジーの価値が実証され、稼働中の発電所ボイラーでこの種の燃料をブレンディングする際に存在する、高窒素酸化物の排出量が多い、着火が難しい、バーンアウトしてしまうなどの問題を解決した。

各種指標で目標値達成 間近に迫る技術の応用

 李氏は、「プロジェクトで研究開発された『予熱燃焼技術』と『発電所ボイラーハイレシオブレンディング技術』という2つの技術は、既に技術検証試験をクリアしている。そのうち予熱燃焼技術は、1時間当たり35トンの粉炭を燃焼する工業ボイラー上でのテストに成功し、長期にわたる連続かつ安定した稼働を実現している。ハイレシオブレンディング技術のほうは、300MWの亜臨界発電所粉炭ボイラーと660MWの超臨界発電所粉炭ボイラー上で、超低揮発分炭素系燃料の割合が50%以上のブレンディングの技術検証試験が行われ、各種指標も目標値に達していた。同プロジェクトの研究成果は、超低揮発分炭素系燃料のクリーンな燃焼と利用のためにソリューションを提供している」と説明する。

 陝西煤業化工集団は現在、粉炭を熱分解処理した半コークスと発電所の粉炭ボイラーのカップリング技術を推進している。馮総経理は、「同技術は、安価な粉炭を原料として、蓄熱式ダウナー無熱キャリアを通してスピーディーに熱分解する技法で、クリーンな半コークス、コールタール、石炭ガスを得ることができる。また、半コークスの品質をコントロールすることで、それを直接ボイラー燃料として使い、『熱焦熱送(熱したコークスを熱いまま運ぶ)』または『熄焦遠送(消火したコークスを遠くまで運ぶ)』の方法を通して熱分解と燃焼の一体化を実現し、最終的に低質炭のクリーンで効率的なカスケード利用を実現する。そのうち、熱分解処理した半コークスの燃焼技術は同プロジェクトの研究成果だ」と説明する。

 李氏は、「プロジェクトがブレイクスルーを実現できたのは、プロジェクトチームに参加した研究機関や企業がこの分野に強みがあり、それぞれが既に研究基盤を有していたからだ。また、プロジェクトの実施は全体において計画書や実施のガイドラインに厳格に沿って推進され、重要な節目や一里塚となるようなポイントをきっちりとこなしたほか、プロジェクトチームは学術的・技術的交流をしっかりと行った」と説明する。

 李氏はさらに、「ポストイグニッション超低揮発分炭素系燃料の予熱燃焼技術は、同プロジェクトで研究開発されたオリジナル技術である。同技術は既に小容量ボイラーでの応用に成功している。プロジェクトチームは現在、さらに大容量のボイラーで応用するためのキーテクノロジーを開発するという難関攻略に挑んでいる」と明らかにした。


※本稿は、科技日報「預熱燃焼"喫干搾浄"低階煤」(2021年1月20日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。