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【15-017】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(27)

2015年12月14日

金 振

金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー

1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職

 今年11月、中国の東北地域や北京市、天津市、河北省などにおいて、大規模な大気汚染が発生した。26日から始まった大気汚染は、28日にはピークに達し、そ の被害面積は53万平方キロメートルまでに拡大した。28日時点において、該当区域70都市(地級市レベル以上)のうち、23都市が重度汚染(18都市)、または厳重汚染(5都市)レベルに達した。今 回の突発的な大気汚染は、12月2日以降に来訪した低気圧に助けられ、収束に向かいつつある。国家環境保護部は、大気汚染を引き起こした主な原因として、石炭燃焼に伴う汚染物質の劇的な増加を挙げ、また、環 境基準に違反した石炭使用行為が多発した点についても指摘した(環境保護部プレスリリース000014672/2015-01349)。今回の突発的な大気汚染を通じ、政策担当者のみならず市民まで、石 炭関連の対策強化の重要性がもう一度確認されたといっても過言ではない。

 以下では、産業部門、とりわけ大気汚染対策の要とされる火力発電部門の対策に焦点を当てる。

火力発電部門における大気汚染対策

○発電部門対策の重要性

 中国において、SO2やNOxの大気汚染物質の8割以上は工業セクターによって排出されている(表1)。そのうち、最大の排出源は石炭を主な燃料とする火力発電部門であり、2013年におけるSO2、N Ox、粉塵の排出量が占める国全体の割合は、それぞれ31.0%、38.7%、14.4%となる(表1)。火力発電部門の石炭消費量を見た場合、国全体に占める割合は2005年の50.6%か ら2012年の44.5%までに下がっているものの、消費絶対量は増え続けている(図1)。火力発電部門における石炭消費量を抑制できるかどうかは、大気汚染対策の要であるとする理由はここにある。

表1 火力発電部門における大気汚染物質の割合

表1

出典:中国環境保護部「2014年環境統計年報」
http://zls.mep.gov.cn/hjtj/nb/2013tjnb/201411/t20141124_291867.htm

図1

図1 発電部門石炭消費量および全国割合

出典:中国統計局データベース
http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/2014/indexch.htm

○規制政策

 火力発電所をめぐる主な大気汚染規制政策として、(1)排出総量規制制度、(2)排ガス基準による規制制度、(3)省エネ基準による規制制度、(4)設備容量の抑制措置(新規抑制、老朽設備強制淘汰)、( 5)石炭消費量の抑制措置、(6)融資信用評価制度、などが挙げられる。以下では、火力発電部門における大気汚染対策について、順次紹介する。

(1)排出総量規制制度

 中国政府がSO2やNOxのような大気関連汚染物質の削減対策として、排出総量削減数値目標を設定し、そ れを地方政府や企業ごとの目標に細分化する目標達成責任制度を導入している点についてはすでに述べた(シリーズⅢ )。省、市、県レベルの地方政府は、配分された総量削減目標に基づき、地 域内における排出企業にその目標を再配分するが、それは、汚染物質排出枠管理制度を介して行われる(シリーズ20)。言い換えると、中国排出総量規制制度は、地 方政府を対象とした目標達成責任制度と企業を対象とした排出枠管理制度、の2つの仕組みを軸にしている(図2)。発電部門を念頭に、この仕組みについてもう少し立ち入った説明を行う。

図2

図2 削減目標および排出枠管理の仕組み

出典:江蘇省環境保護庁「江苏省排污许可实施细则(暂行)苏环办[2015]104号」等に基づき、CRCCの金が作成
http://www.jshb.gov.cn/jshbw/yjzj/201508/P020150831394401257225.doc

 まず、発電部門の削減目標がどのように決定されるか、について触れたい。少なくとも発電部門に関しては、中央政府が発電部門全体の削減方針を決め、省 級政府が管内における地域発電部門の削減目標値を決めるという役割分担がなされている。2011年10月、国務院は「環境保護対策の強化に関する意見(国発[2001]35号)」のなかで、発電部門に対し、S O2およびNOxの総量削減規制制度を導入する決定を行った。しかし、本決定では、電力部門全体の削減目標値は定めてはおらず、単に、特定業種を規制対象として指定するにとどまった。理由は2点ある。

 1点目は、中国の地域ごとの経済発展状況、電源構成、発電コストなどはそれぞれ異なるため、国が一律に削減目標を決めるより、その決定を地方政府の判断に委ねたほうが効率的である。事実、省級政府は、国 から配分された地域削減目標のもとに、具体的な地域削減計画を策定しなければならないが、下級地方政府および管内業種ごとの目標決定事項に関しては、裁量権が保障されている。

 2点目は、1点目の理由に関連するが、地域業種目標値の設定に関して裁量権が保障されているため、地方政府は場合によって、特定業種を「優遇」するため、消極的な削減目標値を設定することが想定される。国 が特定業種を規制対象として指定するのは、このような事態を避けるための対策である。

 つぎに、発電事業者レベルまでに細分化するプロセスはもう少し複雑である。上記の図2に見るように(江蘇省の場合)、発電能力20万kW以上の事業者の排出枠は、省級政府が決定するが、そ れ以外の発電事業者の排出枠は市または県レベルの地方政府環境保護機関に決定権限がある。つまり、発電事業者の排出枠管理をめぐり、地方政府間においても役割分担があるということになる。そ れぞれ地方環境保護部署は、地域削減目標および削減計画等に勘案して発電事業者の排出枠を決定するため、地方政府間(横、縦)排出枠の配分基準には多少の乖離が存在する。

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