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【14-007】中国における優先株制度について

2014年 3月 4日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

一、はじめに

 中国において、「優先株の試験的な展開に関する指導意見」(以下「本意見」といいます。)が中国国務院により2013年11月30日に公布されました。また、これを受けて、中国証券監督管理委員会(以下、「証監会」といいます。)が「優先株試点管理規則(意見募集稿)」(以下、「意見募集稿」といいます。)を2013年12月13日に公布し、同年12月27日までに一般公衆からの意見募集を行いました。以下では、主に本意見、必要に応じて、意見募集稿の内容に基づき、中国の優先株制度の概要を紹介いたします。

 「会社法」第132条では、普通株以外の種類の株式の発行について、国務院が別途定めることができると規定されていましたが、かかる国務院の規定は、本意見が公布される時点までは公布されていませんでした。このため、実務上、優先株の発行は認められないと解されており、実際にも中国では優先株は存在しませんでした。本意見は、中国において優先株制度を認める最初の規定です。

 優先株は、基本的に「株」でありながら、「債」の性質も有しており、会社の資金調達の観点から見れば、普通株に比べて、支配権を希釈化する恐れがなく資金調達ができること、その他の負債に比べて、資金返還期間のない長期的で安定的な資金調達ができること等のメリットがあります。また、投資者の観点から見れば、一定の安定した投資リターンを期待できる一方で、普通株へ転換することにより、より高い投資リターンも享有できたり、或いは、会社に対して償還を主張することにより、早期資金回収も要求できたりするなどの多岐にわたる選択権を与えることで、投資者の具体的なニーズに応えられるメリットがあります。なお、本規則は、企業合併の対価とするために優先株を発行することを認めていることから、優先株は企業再編における対価としての機能も有することになります。従って、優先株制度の導入は、直接融資手段と投資手段とを拡大し、企業の財務構造を改善し、企業の組織再編を推進する等の面において積極的な意義を有します。

二、優先株の定義及び優先株主の権利・義務

 優先株とは、普通株以外の種類の株式であって、普通株に優先して利益配当及び残余財産の分配を受ける権利を有しますが、議決権等の会社の決議や管理に参加する権利が制限される株式をいいます(本意見一の(一))。

 本意見は、会社が、定款において、優先株の優先権について具体的に規定することができるとし、優先株の発行について相当程度の柔軟性を認めました。例えば、優先配当権について、①固定配当率又は変動配当率の設定、②(税引後の純利益がある場合の)強制配当の実施の有無、③(未払い配当の)累積の有無、④優先配当後さらに普通株の株主に対する配当に参加できる場合(又は参加できない場合)等を規定できるとしました(本意見一の(二))。また、会社が、定款において、普通株への転換権や償還権について、会社が行使する場合又は優先株主が行使する場合を規定できるとしました(本意見一の(四))。他方で、商業銀行が発行する場合や、上場会社の公開発行等の場合については、一定程度上記の柔軟性を制限する措置も規定しました。例えば、優先株を公開発行する場合、①固定配当率、②強制配当、③累積配当、④普通株の株主としての配当への非参加が強制されるようになります(本意見二の(十))。

 ①優先株と関連する定款の変更、②会社登録資本の10%以上の減額、③会社の合併、分割、若しくは解散又は会社形態の変更、④優先株の発行、⑤その他定款で定める場合、について優先株主の3分の2以上の同意を必要とすることを除き、優先株主は、議決権を有しません(本意見一の(五))。なお、合計3年間又は連続2年間配当をできない場合、配当を支払うまで、優先株の議決権が復活することになります(本意見一の(六))。

三、優先株の発行と取引

 優先株を公開発行できる主体は、証監会が規定する上場会社に限定され、意見募集稿第26条によれば、上証50指数に含まれる上場会社、優先株を企業買収の支払手段とする上場会社、普通株を償還し登録資本金を減少する支払手段として優先株を発行する上場会社のみとされています。また、優先株を非公開発行できる主体は、上場会社(海外に上場する中国登録企業も含み、その代表的な例は、香港でH株を発行した中国会社です)及び非上場公開会社(原文は、「非上市公众公司」で、株主の数が200人を超え、かつ、株式が公開の方法により譲渡されるが、上場されてない会社を指します)に限定されます(本意見二の(八))。

 優先株の発行には数量制限と金額制限とがあり、発行済みの優先株の数は発行済み普通株の50%を超えてはならず、かつ、募集する資金の金額は優先株発行前の純資産の50%を超えてはなりません(本意見二の(九))。

 本意見は、優先株は、証券取引所、全国中小企業持分譲渡システム又は国務院が認可したその他の証券取引場で取引されると定めています(本意見二の(十一))。

四、商業銀行の特殊規定

 バーセルⅢの自己資本比率規制を満たすために、中国の商業銀行が自己資本としてカウントできる優先株を発行することが予想されるところ、自己資本としてカウントするためには、一定の要件を満たす必要があり(例えば、「商業銀行資本管理規則(試行)」及び「商標銀行資本ツール創新に関する指導意見」等により、配当権をいつ取り消しても投資者に対する違約を構成しないこと等)、これらの要件を充足させる観点から、本意見は、商業銀行が優先株を発行する場合の例外的な規定を設けました。例えば、発行済みの優先株を償還する際、未払いの配当の支払いを強制されないこと(本意見一の(四))、公開発行する場合でも、強制配当や累積配当制度が強制されないこと(本意見二の(十))が規定されています。

五、おわりに

 意見募集稿に関する正式規定(「優先株試点管理規則」)は恐らく2014年の前半には公布されると言われています。他にも、証監会は、優先株の発行と関連する開示規制等の付随規定も公布する予定があると公表されています。なお、本意見では、優先株と関連する会計制度、税務制度、養老年金等が優先株に投資する場合の政策等について、各政府部門が別途具体的な規定を制定すると規定されています。従って、中国の優先株制度が更に整備されるにはまだ一定の時間を要することになり、今後の立法作業に引き続き注目する必要があります。