【14-005】事業者集中簡易事件の適用基準について
2014年 2月20日
康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士
上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。
一、はじめに
中国において、「事業者集中における簡易事件適用基準に関する暫定規定」(商務部制定、以下、「本規定」といいます。)が2014年2月11日に公布され、2014年2月12日より施行されました。本 規定に関する意見募集稿(以下、「意見募集稿」といいます。)は、2013年4月3日に公布され、同年5月2日まで一般公衆からの意見募集が行われました。その後も、商務部は数回に渡り座談会を開き、国 際リーガルコミュニティの意見も聴取してきました。本規定は、概ね意見募集稿の内容と同様な形になっています。
二、本規定の主要内容
1.簡易事件の認定基準
本規定第2条によれば、下記の事業者集中事件は、簡易事件とみなされます。
- (1) 同一の関連市場において、集中に参加する全ての事業者の占める市場占有率の合計が15%を下回る場合
- (2) 川上・川下関係が存在する集中に参加する事業者の川上・川下市場に占める占有率がいずれも25%を下回る場合
- (3) 同一の関連市場におらず、川上・川下関係も存在しない集中に参加する事業者の、取引と関連する各市場に占める占有率がいずれも25%を下回る場合
- (4) 集中に参加する事業者が中国国外に合弁企業を設立し、合弁企業が中国国内において経済活動に従事しない場合
- (5) 集中に参加する事業者が国外企業の持分又は資産を買収し、当該国外企業が中国国内において経済活動に従事しない場合
- (6) 二つ以上の事業者が共同支配する合弁企業が、集中を通じてそのうち一つ又は一つ以上の事業者によって支配される場合
水平型企業結合案件において、事業者集中に参加する事業者の市場シェアの合計が15%を下回る場合(上記(1))、また、垂直型企業結合案件において、事 業者集中に参加する事業者の市場シェアがいずれも25%を下回る場合(上記(2))は、欧州の競争法上も簡易事件とみなされます。この意味では、本規定は概ね国際的な基準に合致しているといえます。
上記(3)は、水平型でも垂直型でもない企業結合案件、即ち、コングロマリット的な企業結合案件の場合について規定しているが、意見募集稿に比べて、「同一の関連市場におらず」と の文言が追加されたことにより、水平型企業結合案件ではない場合を規定していることがより明確になりました。また、意見募集稿の段階では、単に、各市場における市場シェアがいずれも25%を 下回る場合と規定されていたが、意見募集の過程において、審査対象となる企業結合案件と関連する市場のシェアのみを考慮すべきとの意見を受けて、取引と関連する各市場のシェアに限定して、市 場シェアがいずれも25%を下回るかによって、簡易事件の該当有無を判断する旨が明確になりました。
上記(4)及び(5)は、いずれも中国国外での取引が中国市場に対する影響がない場合について規定しています。これらの取引は、今までは、中国法上の独禁申告の形式基準( 事業者集中の定義に該当すること及び事業者のグループベースでの売上高が申告基準に達すること)を満たす場合、中国市場に対する影響がない取引であっても、中国独禁法上の申告対象となっていたが、本規定により、中 国国内の経済活動に従事しないことにより、中国市場に対するインパクトがない場合は、簡易事件として処理されることが明確になりました。従って、今後、オ フショア取引の中国法上の独禁申告が従来より簡単になると予想されます。
上記(6)は、共同支配の場合の支配者の数が減る案件に関する場合であり、新しい競争者による支配権の取得に比べ競争に対するインパクトが少ないことから、簡易事件として処理されると思われます。
2.簡易事件の例外
本規定第3条によれば、下記の事由が存在する場合は、簡易事件とみなされないことになります。
- (1)二つ以上の事業者が共同支配する合弁企業が、集中を通じてそのうちの一つの事業者によって支配され、当該事業者と合弁企業が同一の関連市場に属する競争者である場合
- (2)事業者集中に係る関連市場の画定が難しい場合
- (3)事業者集中が市場参入、技術進歩に対して不利な影響を与える可能性がある場合
- (4)事業者集中が消費者及びその他の関連事業者に対して不利な影響を与える可能性がある場合
- (5)事業者集中が国民経済の発展に対して不利な影響を与える可能性がある場合
- (6)市場競争に対して不利な影響を与える可能性があると商務部が判断したその他の事由
3.簡易事件の認定の取消
- (1)申告者が重要な状況を隠蔽し、又は虚偽の資料、誤解を招く情報を提供した場合
- (2)第三者が、競争を排除し、制限する効果を有し、又は有する可能性のある事業者集中であると主張し、かつ関連の証拠を提出した場合
- (3)商務部が集中取引の状況又は関連市場の競争状況に重大な変化が生じたことを発見した場合
三、本規定に対する評価
本規定の主な問題点は、手続論についての規定が一切設けられていないことです。この点は、意見募集稿の段階からもアメリカ弁護士協会を含む複数の団体から改善の要請があった点であったが、本 規定において手続論が追加されていないことは極めて残念であるといわざるをえません。本規定において欠けている手続論は、主に下記のとおりです。
- 簡易事件に該当するか否かを判断するタイミング
- 簡易事件に該当すると判断した後、その認定を取り消すことができるタイミング
- 簡易事件に該当する場合、独禁申告書の形式及び内容、審査期間等の面において、通常の案件と比べてどのようなメリットがあるか等
従って、簡易手続の手続面については、今後、商務部の実務上の運用に引き続き注目する必要があります。
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