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【19-12】研究者の招へいにも強い意欲 郭東明大連理工大学学長

2019年5月20日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日本の27の大学から学生、教職員約400人を招いて大学生交流大会を開いた大連理工大学の郭東明学長が、日本の学生だけでなく研究者の招へいも強く希望していることを明らかにした。中国のメーデー連休(5月1~4日)を挟んで開かれた大学生交流大会では、大会中に急に北京で開かれた会議に出席するため、郭学長は交流大会の間、日本の学生、教職員に直接話しかける機会がなかった。研究者招へいにかける強い意欲を伝え、協力を求めた相手は、交流大会に招待された沖村憲樹科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター上席フェロー。メーデー連休中で大量の人の移動にぶつかったため帰りの航空券をとるのに苦労したという郭学長が、大連に戻って設けた懇談の席でのことだ。

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写真1 沖村憲樹氏(左)と郭学長(右)

日本語教科コース持つ唯一の理工大学

 大連理工大学は、立命館大学と共同で2014年に「大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウェア学部」を設立している。そこでは1年次から日本語の強化学習カリキュラムが組まれている。さらに、機械工程学院と材料科学工程学院にも日本強化クラスが設けられ、日本語が必須科目となっている。中国の理工系大学で日本語強化プログラム持つのは、大連理工大学だけ。すでに日本語強化クラスでは日本の大学から教授を招いて日本語で専門科目を教えているほか、日本の大学を定年退職した教授が専任の教員として雇われている。

 「多くの学部で募集する日本人学生を増やし、日本語で授業するカリキュラムも徐々に拡大したい」。郭学長は日本からの留学生を増やす意欲を示した上で、日本の大学の教授たちにもっと来てもらいたいという強い希望を示した。「日本の教授にはこちらで共同研究しながら授業もしてもらう」。こうした考えを示した上で「ただ、日本から派遣するという形にしないとよい先生はなかなか来てくれない。日本の先生をJST主導で送り込んでくれまいか。必要なお金は大連理工大学が9割出し、JSTが1割負担してもらうという形でもよい」と沖村氏に協力を求めた。

 大連理工大学は2006年に東京工業大学と協定を締結し、材料科学工程学院日本語強化クラスで東京工業大学物質理工学院の教授が日本語で授業するという協力関係ができている。「東京工業大学と手を組むことで、東工大生が大連理工大学で授業を受けて単位をとることもできるようになる」と語り、さらに水素エネルギーなどの研究が進む九州大学とエネルギー関連の共同学院をつくり、九州大学生にも来てもらう計画を考えていることも明らかにした。

 「日本語強化クラスの先生として来てもらうために、日本の大学を退任された先生にウェブやメールなどで積極的に働きかけたい」。郭学長はこうした考えも示した。懇談に同席していた叢豊裕国際課長によると、東北大学の山本嘉則元副学長を加工環境生命学部の教授に、さらに東京工業大学の丸山俊夫元副学長を材料科学工程学院の海天学者としてそれぞれ招へいしたことを明らかにした。丸山氏は金属材料日本語強化クラスの学生に授業をしているという。

 大連理工大学は、日本との交流を推進する「同窓友情計画」を掲げている。「同窓友情計画の狙いは、日本の一流大学がいつでも気軽に学生を留学や短期研修に送り出せるカリキュラムを作ることだ。日本と変わらない大学の環境づくりに努めている」とも語った。

「これからは日本が中国に学ぶ時代に入る。双方の優秀な研究者も交流させよう。できる限りの協力をする」。沖村氏はそう応じたが、日本の大学が郭学長の熱意にどう応えるか、学生や教職員を送り出した大学の宿題になりそうだ。

共同研究に関心持つ日本人教授も

 大連理工大学の熱意は明白だが、現状は学生、教員とも交流が一方通行であるのも事実。交流大会3日目の5月1日、日本の参加大学による留学説明会が開かれた体育館では、教授たちから日本から中国への留学生が少ない現状を認める声が聞かれた。65人という参加大学中最も多くの学生、教職員を送り込んだ立命館大学のブースでは、山下洋一情報理工学部長が「大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウェア学部では2年間大連理工大学で学び、3年目に立命館大学で学ぶ制度ができている。毎年40人の大連理工大学生を受け入れているが、こちらから大連理工大学に行く学生は少ない」という現状を明かす。

 今回、9人の学生と共に参加した広島大学の高品徹大学院工学研究科特任教授(国際交流委員長)も、2014年から毎年二人の大連理工大学生を半年間受け入れ、これらの留学生に対する学内の評判が良いことを明らかにした上で、「広島大学から大連理工大学に留学を希望する学生がいない」という実情を認めた。文部科学省は、2020年までに海外に留学する大学生を年間12万人、高校生を6万人と2013年時点の倍に増やすことを目指す留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を進めている。高品氏は、このキャンペーンについて「うまくいっていない」と指摘し、「20年後くらいにしか成果が明らかにならない学生交流は今の時代になかなか理解されない」という見方を示した。

 同時に高品氏は、「工学は生産現場を持たないと発展しない。日本は製造業の空洞化が言われているが米国に比べると今しばらくは強い。立命館大学のように教育重視の交流もあるが、国立大学の場合は、研究者の共同研究が交流を盛んにするのに手っ取り早いのではないか」と語り、大連理工大学との交流は共同研究で教員が先導役を果たすことで、日本からの学生の増加が期待できるという考え方を示した。

学生たちの親密な関係徐々に

 一方、学生間の親密な友情、信頼関係が着実に増え続けていることもうかがえる光景が交流大会でも見られた。大会4日目の5月2日に大学内の大教室で行われた大連理工大学外国語学院・明治学院大学研究員、石田隆至氏による特別講義「グローバル時代の『異文化理解』とは」が、日中双方の学生に強い印象を与えた。「グローバル化は今や文化の面でも広がっている。日本の若者にとって、中国の若者より日本人の私のようなおじさんのほうが異文化ではないか」。石田氏は、さまざまな例やデータ、さらに自身の体験を紹介し、日中双方とも相手の国を嫌っている人が多いというメディアで流されている情報が実態とかけ離れているとの見方を示した。

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写真2 石田隆至研究員の特別講義

 特別講義が終わった後、最前列に座っていた米山春子JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター副センター長に駆け寄り、深々とおじぎをする女子学生がいた。大連理工大学外国語学院の学生で、昨年9月から大阪大学に留学中の徐依馨さんだ。交流大会を支援するためと、交流大会の場で米山氏に会えるのではという期待から、自費で一時帰国したという。徐さんはJSTが2014年から続けている「さくらサイエンスプラン(日本・アジア青少年サイエンス交流事業)」の最初の年の招へい者。当時、山東省の高校生(済南外国語学院)だった徐さんを日本滞在中、付きっ切りで面倒をみてくれた米山氏にお礼を言いたい。ずっと願っていたのが今回やっとかなった、ということだった。

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写真3 徐依馨さん(左)と筆者(右)

 徐さんは高校生の時、校長にさくらサイエンスプランの招へい者10人の1人に選ばれるまで、日本に特に大きな関心はなかった。大連理工大学外国語学院日本語学科への入学は、高校の推薦による。全国大学統一入試(高考)は受ける必要がなかった。「今日の自分があるのは、『さくらサイエンスプラン』のおかげです」。徐さんは来年、東京大学大学院への進学を目指し、将来は日本で就職するか、大連理工大学に戻って国際交流に関わる仕事に就くか、あるいは好きな演劇にからんだ国際交流に関わりたい、と将来の希望を明かしてくれた。

 ボランティアとして大会中、自分が参加を誘った親しい友人たちと行動を共にした中国人学生の中にも、「さくらサイエンスプラン」で日本を訪れたことがあり、その後日本の大学にも留学した学生がいる。材料科学工程学院日本語強化クラス5年生の梅爽さんだ。「さくらサイエンスプラン」で最初に日本に来たのが、大学2年の2017年。4年生の時に北海道大学に留学し、そのとき親しくなった石黒充さん(現在、北海道大学工学部4年)を交流大会に参加するよう強く誘った。すっかり、北海道を気に入った梅さんは今、「金持ちになったら北海道に一軒家を買いたい」と言っている。来年、東京工業大学の大学院に進学する申請を既に出しており、内諾を得ているという。

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写真4 梅爽さん(右から2人目。その左が石黒充さん)

 石黒さんのほかにも、今回、日本に留学中に親しくなった大連理工大学生から個人的に誘われて参加した学生が何人もいる。「梅君と親しくなって価値観が似ていると思っていたが、実際にこちらに来て、皆やさしくて価値観も変わらないことを知り、よい体験ができたと思っている」。こうした石黒さんの感想と同様な声が他の学生たちからも聞かれた。

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