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【19-13】交流アンバランス解消するには 中日大学生交流大会参加学生に聞く

2019年5月21日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日本の大学生、教員との交流拡大を望む大連理工大学の熱意が伝わる一方、日本側の関心との差も明らかに...。中国のメーデー連休(5月1~4日)を挟んで大連理工大学で開かれた中日大学生交流大会は、こうしたアンバランスが浮き彫りになった大会でもあった。一方、個人的な出会いをきっかけに緊密な関係をつくり上げている大連理工大学生と日本人大学生のグループが確実に存在する。そんな一面も見ることができた交流大会だった。

 日本人学生とボランティアとして行動を共にした大連理工学大学生は、AからHの八つのグループに分かれ、それぞれ受け入れた学院が用意した交流プログラムを楽しんだ。この中でひときわ仲の良さが目立ったのがEグループの学生たち11人。日本への留学経験のある男女5人の大連理工大学生と、北海道大学、東京大学、東京工業大学、神戸学院大学、九州大学の男女学生6人だ。主な交流活動が大連市内見学と閉幕式を残すだけとなった大会5日目の夜、これら11人の学生に交流大会に参加した感想などを話し合ってもらった。

 大連理工大生の中には北海道大学に留学する前に、「さくらサイエンスプラン(日本・アジア青少年サイエンス交流事業)」でも来日経験があり、さらに来年、東京工業大学大学院に進学が内定している学生もいる。一方、日本から今年9月に天津の南開大学に留学する神戸学院大学生もいる。話し合いには、交流大会に招待された科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンターの沖村憲樹上席フェローと米山春子副センター長、さらに大連理工大学の曲媛国際課主任も加わった。

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Eグループの学生たち(右側手前から余海洋、杉本湧、李明坤、音納陸、溝渕湧基さん。左側一番奥は曲媛大連理工大学国際課主任)

日本で友情さらに深めた交流大会

曲媛(大連理工大学国際課主任) 皆さんがどうして知り合いになり、今回の交流大会に参加したのかから、まず話してみてはいかがでしょう。

田中泰大(東京工業大学物質理工学院材料系修士2年) 僕の研究室は割と中国人が多い。指導教授も大連理工大学卒業生の史蹟教授です。研究室の中国人の人たちに対する苦手意識などありませんし、仲も良い。今回、誘われた時はすぐ来たいと思いました。

余海洋(大連理工大学計算機科学院日本語強化クラス5年) 4年生の時、東京大学に留学しました。合気道のサークルに入り音納陸さんと知り合い、仲良くなりました。溝渕湧基君は、お姉さんが同じ合気道のサークルでしたので、音納さんと一緒に誘いました。

音納陸(東京大学経済学部4年) 実際に来てみたらいろいろな経験ができてめっちゃ楽しい。今回、現場を見られたことを大事にしたいです。大学の成績はものすごく悪いので就職活動で苦労していますが、海外で働きたい希望があるので来てよかったと思っています。

溝渕湧基(東京大学教養学部理科一類2年) 第二外国語が中国語だったが、実はあまり自信がなく、買い物に行っても相手の言うことが聞き取れなかった。でも、中国の人と話したらめちゃ面白い。実際に会って話すことが大事だと感じ、中国が好きになりました。

杉本湧(神戸学院大学現代社会学部3年) 1年の時、中国語の授業を受けたが、特に中国に対する興味はなかった。たまたま留学生歓迎会に呼ばれ、李明坤さんと知り合いになり、独学で中国語を勉強し直しました。中国は周りが漢字ばかりで外国に来た気がしません。

それほど違わない価値観

李明坤(大連理工大学経済管理学院3年) 昨年、神戸学院大学に留学するまで日本人はめちゃルールを守る。信号が赤だと車が来なくても信号が青になるまで待つ。ゴミはきちんと出す。そんなイメージ抱いていたが、実はそうでない人が多いことを知りました(笑い)。

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向こう側左から熊井絵里、高寒冰、呂佳芮、田中泰大、石黒充さん

熊井絵里(九州大学工学部4年) 海外留学が希望なので、留学生のサポーターとして活動し、大連理工大学からの留学生、高寒冰さん、呂佳芮さんと知り合いました。中国は思ったよりいい環境と知り、来てよかったです。留学先を決める時の選択肢が増えました。

高寒冰(大連理工大学計算機科学院日本語強化クラス5年) 1年生から日本語を勉強していたのですが、本当の日本を知らないため交換留学生として九州大学に行きました。絵里さんにいろいろお世話になったので、ぜひ大連理工大学に来てほしい、と誘いました。

呂佳芮(大連理工大学機械学院日本語強化クラス5年) 絵里さんは私と高さんが日本に留学した最初の日に迎えに来てくれました。いろいろ助けてもらい、花見に一緒に行ったりして仲良くなりました。中日大学生交流会は、曲先生と1カ月前から準備しました。

曲媛 呂さんにはとても力になってもらいました。

田中泰大 もともと日本に関心なかったのに、普通より1年多い5年を要する日本語コースを選んだのはどういうモチベーションからですか。

高寒冰 高校時代は日本に興味なかった。ただ大学を選ぶ時に計算機を勉強したいし、日本語と両方勉強できるのはいいなあ、と。5年かかることはあまり考えませんでした。

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右から梅爽、石黒充、田中泰大、呂佳芮さん、

石黒充(北海道大学工学部4年) 北海道大学に留学中の梅爽君が女性と歩いているのを見て冷かしたら、日本人と変わらない反応をした。勉強以外でも価値観は違わないと感じました。実際に来て、中国人がすごく優しく価値観も違わないことがよく分かりました。

梅爽(材料科学工程学院日本語強化クラス5年) 4年生の時に1年間、北海道大学に交換留学し、ほとんどの授業は石黒君と一緒に受けました。石黒君は大事な友達なので誘いました。北海道は今でも大好きです。金持ちになったら北海道に一軒家を買いたいです。

田中泰大 梅さんは僕の研究室に大学院進学の申請書類を出していますね。どうして留学したことがある北海道大学ではなく東京工業大学を選んだのですか。

梅爽 北海道大学に留学中に配属された研究室の先生はちょっと厳しすぎたのと(笑い)、東京は大都会で一度行きたかったからです。来年入学の内諾を得ています。

交流のアンバランス解消するには

田中泰大 日本から中国に行く留学生や研究者が少ないのは、留学する目的の一つに現地語を学ぶことがあり中国語より英語がよいと思う人が多いことと、シリコンバレーは進んでいるというイメージなどから、中国より米国を選ぶ人が多いのかなという気がします。

李明坤 中国語の教育が大事だと思います。日本の友人で漢字を使っているから学びやすいと中国語を第二外国語に選んだ人がいます。実は学びやすくはないのです。欧米も中国語を学びたい人は多いが、日本も欧米もよい中国語の先生が少ないのが問題だと思います。

溝渕湧基 日本に中国語学院というのはありません。例えば日本の大学に中国語学院をつくり、中国語とプラス自分の専攻を学ぶという形になると、アンバランスは解消するかもしれない。こちらに来て中国語学院というのを知り、そのように考えました。

杉本湧 今年9月から天津の南開大学に留学する予定です。動画アプリ「TikTok」や旅行アプリ「航旅縦横」が中国製ということを知ったり、中国語を話す人は14億人おり英語を話す人より多いといったことも知れば、中国に行く人はさらに増えるのではないでしょうか。

熊井絵里 今年、私の研究室からパリと米国の国際学会に行く予定があります。しかし中国は予定がありません。中国はこの分野に強いというイメージが日本の研究者や学生に知られるようになれば、もっと多くの人が行きたいという気になるのではと思います。

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沖村憲樹JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター上席フェロー(中央、右は米山春子同副センター長)

田中泰大 現在のような状況を変えるようなことを日本は政策として何かしているのでしょうか。もしやっているとしたら、なぜ中国より米国を選んでしまうのでしょうか。

米山春子(JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター副センター長) 「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」や、「日中大学フェア&フォーラム」などがあります。「日中大学フェア&フォーラム」は、今年も5月25~27日に成都で開催予定です。

沖村憲樹(同センター上席フェロー) 昨年10月には、習近平国家主席と安倍晋三首相との首脳会談で青少年交流を大いにやろうという合意ができています。

学生一同 エーッ!

沖村憲樹 「日中大学フェア&フォーラム」の狙いの一つは、日中の大学同士が交流することで、お互いの良いところを見つけてほしいということです。中国は産学連携でいろいろな制度ができており、サイエンスパークのようなものも日本にはありません。産学連携で日本は中国に太刀打ちできません。一方、日本にノーベル賞の受賞者が多いのは、日本の大学には自由に研究をさせるという風土があるからです。真理を求めて長年、研究をしている研究者が多いというのは、イノベーションの源泉です。日本の大学には、このように中国の大学より優れたところがあります。

田中泰大 日本人のノーベル賞受賞者が多いのは自由に研究ができる環境があり、研究費ももらえていたからというのは、私のイメージでは過去の話です。今は大学の研究費も圧倒的に中国の方が良いです。

沖村憲樹 中国は教育と科学技術に関する予算が国家予算の18%も占めています。これに対し日本は2.3%です。大連理工大学の工程訓練センターのような規模の施設は日本の大学にはありませんね。聞いたら九州大学、名古屋大学、東北大学がその施設に関心を持ち、東北大学は8月に学生を送り出して研修をさせてもらうそうです。この財政構造が続くと日本は大変なことになる、と警鐘を鳴らしているのですが...。

音納陸 長い目で見たら中国をもっと見習えということですね。

沖村憲樹 1949年に共産党国家できた同じ年に中国科学院をつくっています。科学技術基本計画にあたる5カ年計画もすぐ策定し、現在13次の計画が進行中です。日本の科学技術基本計画はまだ5次です。中国科学院はポスドクや大学院生を加えると研究者の総数は10万人を超します。さらに全国の学会をサポートしている中国科学技術協会は1,000万人以上の会員がいます。外国に侵入された100数十年間の屈辱を跳ね返すには科学技術でトップにならなければというのが国家の意志になっているのです。

米山春子 「日中フェア&フォーラム」で2016年から毎年、日本の学長さんたちに中国に来てもらいました。中国の学長さんと話し合ってもらった方が早いと考えたからです。皆さん、びっくりします。中国がこれほど進んでいるとは思わなかった、中国と協力しなければならない、と。

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左から溝渕湧基、音納陸、李明坤、杉本湧、余海洋さん

熊井絵里 中国の現状が私たち学生まで下りてきていません。大学の上の方たちだけが分かって変えようとしても、下との間がつながっていないのが今の問題だと思います。

田中泰大 日本の国家構造を変えるというのはものすごく時間がかかると思います。中国の方が良い環境で研究できる。修士課程から中国で習った方がよい、ともっと広く知らせる努力をした方がよいのではないでしょうか。研究援助など組織的、資金的な制度づくりも必要ですがが、学生に対するブランディングも重要だと思います。

音納陸 これまでの議論を聞いて、日本と中国の現状を紹介するサイトを自分で作って起業しようかと思いました。話聞いていたら研究室に関わる口コミ情報があるようなサイトが必要ではないかと。今は口コミ情報が大事です。若者に何が響くかを考えれば。

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閉幕式・送別パーティでの11人

関連サイト

大连理工大学70周年校庆公告(第一号) http://70th.dlut.edu.cn/info/1013/1014.htm

大连理工大学70周年校庆公告(第二号) http://70th.dlut.edu.cn/info/1013/1074.htm

関連リンク

大連理工大学

日中の人材・機関・連携「大連理工大学金属材料学部日本語強化クラスについて」

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