【19-11】日本の大学生、教職員400人招待 大連理工大が大交流会開催
2019年5月17日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
中国のメーデー4連休を挟んだ4月29日から5月6日まで中国大連市の大連理工大学で、日本の27の大学から約400人の学生、教職員を招待した中日大学生交流大会が開かれた。同大学創立70周年記念と、昨年10月の李克強首相と安倍晋三首相による日中首脳会談で、2019年を「日中青少年交流推進年」とすることが決まったのを受けての開催だ。300人もの学生ボランティアが毎日、日本人学生と行動を共にするなど、日本の大学との交流を広げ、深めようとする大連理工大学の熱意がひしひしと伝わる1週間となった。
国家重要大学の一つ
大連理工大学は、新中国建国の1949年4月に中国共産党によって設立された大連大学工学部を前身とする。翌年、大連工学院として再発足し、1988年に大連理工大学と改称された。1922年に大連に設立された日本の私立学校「南満州工業専門学校」の校舎が、太平洋戦争終了後の1946年につくられた関東工業専門学校に使われた。関東工業専門学校は1949年4月に大連理工大学の前身である大連大学工学部が誕生した際にその一部(化学系)となった。メインキャンパスから離れた大連市中心部には、南満州工業専門学校が設立された当時の立派な校舎が残っている。
中国では大学の実力を判断する際の重要な指標に、1995年に始まった「211工程」と、1998年の「985工程」という二つの政策がある。「211工程」では112、「985工程」では39の大学が、世界レベルを目指す大学として指定され、毎年特別の予算が投入されてきた。大連理工大学は、どちらの工程にも指定されていた。さらに2017年にあらためて指定された「双一流A類大学」36の大学にも入った。
中国国内だけでなく、国際的な評価も高い。英国の評価機関クアクアレリ・シモンズ(QS)の「世界ランキング2019」では中国の大学の中で26位、同じく英国の教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「世界ランキング2019」では、中国の大学の中で27~42位のグループに評価されている。
大連理工大学の専任教員数は、2,511人、学部生約25,000人、大学院生約15,000人。東京大学の専任教員約3,900人、学部生約14,000人、大学院生約13,000人と比較すると、専任教員数では少ないが、学生・院生は多い。
大連理工大学メインキャンパス
大学始まって以来の催し
今回の日中大学生交流大会開催に際し大連理工大学は、これまで交流のある日本の大学に幅広く参加を呼びかけ、27大学から300人を超す学生と、付き添いの教職員らを合わせ約400人が参加する大交流大会となった。「『日中青少年交流推進年』に日本から大学生1,000人を招くという方針を教育部が打ち出したので、すぐに400人を招待する計画を決めた。開幕式は会場の収容数が430人のため、ボランティアの中国人学生は一部しか入れない。このような催しは大学始まって以来初めて」と、羅鐘鉉学長補佐は語った。日本側も大連理工大学の熱意に応え、大阪大学が総長決済で参加学生26人の航空費を補助したのをはじめ5、6校が国際交流資金や研究費から同様の支援措置をとった。
中国は5月1日からメーデーで4日まで連休。主要な交流活動が行われた広大なメインキャンパスは、普段より人の姿が少ない分、新緑がまぶしく感じられる。至る所で枝を伸ばしているのは、初代学長だった屈伯川氏(故人)の意向で中国全土から集められた木々。白樺の根元から高さ70~80センチの高さまで白く塗られているのは石こうで、冬季に厳しい寒さから木を守るための処理という。色鮮やかな花が目を引く桜は、今回の大学生交流大会にも参加した城西大学が寄贈したものだ。ちなみに遺言により遺骨がキャンパス内に埋葬されている屈初代学長は、大連理工大学の一部となった関東工業専門学校の二代目学長も務めている。
キャンパスのあちこちでは道路や道路わきの歩道が掘り起こされていた。最も大きな記念行事が予定されている6月中旬に間に合わせるよう、連休中を利用して道路舗装工事が集中的に行われているからだった。
開幕式であいさつする宋永臣大連理工大学副学長
日本との交流拡大に熱意
4月30日午前、同大学国際会議センターで開幕式でが開かれた。郭東明学長が交流大会が始まるわずか3日前に急遽決まった会議のため北京に出かけざるを得なくなったため、あいさつしたのは宋永臣副学長。「1987年から日本語強化コースを設け、理工系人材の育成に力を入れている。2013年には立命館大学と共同で国際情報ソフトウェア学部もつくった。卒業後、日本の大学、企業で活躍している人間は多い。日本の大学を卒業して本学の教員になって大きな力になっている人も多い。対日交流は本学の一番重要な方針。参加された日本人学生の中から将来本学で学ぶ人が出ることを期待している」と日本とのさらなる交流拡大に並々ならぬ熱意を示した。
日本側からあいさつしたのは大学関係者ではなく、特別に招待された科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンターの沖村憲樹上席フェロー。JSTが2014年から始めた「さくらサイエンスプラン(日本・アジア青少年サイエンス交流事業)」で、大連理工大学の学生たち207人をこれまで日本に招待したことに対する返礼の意味も今回の交流大会には含まれていることを示すものだ。今回参加した日本の27の大学のうち10大学は「さくらサイエンスプラン」で大連理工大学生を受け入れ、学生同士の緊密な交流実績を持つ。大連理工大学名誉教授でもある沖村氏はあいさつの中で「中国の輝かしい発展をみると、もっともっと中国との関係を深めなければならない。日本に帰ったら中国にもっと日本人が来るよう運動を広げてほしい」と日本からの参加者たちに呼びかけた。
あいさつする沖村憲樹JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター上級フェロー
海外交流にきめ細かな支援制度
開幕式と同じ日に行われた「大連理工大学『同窓友情』育成計画と科学技術振興機構『さくらサイエンスプラン』計画交流会」でも、大連理工大学幹部の発言が日本側参加者に強い印象を与えた。学生たちが別の交流プログラムに分散して参加している間に開かれたこの会議には、中国から機械、材料、建築など国際共同研究に関心の高い専門分野の海外交流担当者30人と、日本の大学教職員20人が集まった。「同窓友情」という名称には、国際交流を先頭に立って進める郭東明学長の明快な思想がこめられている。
大連理工大学「同窓友情」育成計画と科学技術振興機構「さくらサイエンスプラン」計画交流会(左から沖村憲樹氏、叢豊裕氏、郝海氏)
「大連理工大学から昨年まで3年間で207人の学生に日本に来ていただいた。中国科学技術大学の364人に次いで中国では2番目に多い。今年度も200人の学生に来ていただけると期待している」。最初に沖村憲樹JST中国総合研究・さくらサイエンスセンター上級フェローが、さくらサイエンスプランについて詳しい紹介をしたのに続き、大連理工大学の叢豊裕国際課長と郝海国際教育学院長が、「同窓友情」計画の柱になる支援策を詳しく報告した。
叢豊裕と郝海両氏が、留学生寮の紹介なども含めた交流推進体制を詳しく紹介した中で、特に日本側参加者たちを驚かせたのが叢国際課長の話。大連理工大学の研究者と海外の研究者が共同研究する場合をはじめ、博士課程、修士課程、学部生の海外留学・短期研修、さらには海外からの留学生受け入れなど10のタイプに分けて資金支援の仕組みが整備されている。留学生寮は1人部屋が月900元(約14,000円)、2人部屋600元(約10,000円)という。「留学生受け入れのためにさまざまなことをしていることがわかった。大学に帰ってもっとよく知らせたい」。九州大学大学院工学研究院付属国際教育支援センター職員、水谷由美さんが話していた。
大連理工大学メインキャンパスに3つある留学生寮の1つ
施設の充実にも感嘆の声
今回の大学生交流大会の特徴は、一方的ではない交流を重視したとみられることだ。日本の学生たちは、八つの受け入れ学部・学院に割り振られ、共同授業、フォーラム、最新機器を使った研修・訓練、ゲーム、大学施設・市内見学などそれぞれ多彩な交流を体験した。
「3DプリンターやCAD(機械や構造物の設計・製図機能を組み込んだコンピューターシステム)などを備えており、一部の実験授業に関する費用は80万元(約1,300万円)から100万元(約1,600万円)かかっている」。叢豊裕国際課長が胸を張る機械工程学院の工程訓練センターは、東北大学、九州大学、名古屋大学との間で学生たちの訓練に利用させてもらいたいという話が進んでいる。今回、機械工程学院に割り振られた学生たちは、講義、訓練センター見学を経て、4時間以上に及ぶ3Dプリント・レーザー彫刻の訓練を受けた。「自分たちの研究室にも同じ装置はあるが、装置を使った授業は受けたことがない」(東京農工大生)。「平面のコンピューター設計はやったことあるが、3次元のコンピューター設計は初めての経験」(長崎大生)。学生たちは高価な装置を使った訓練に驚きと満足の声をあげていた。
機械工程学院の工程訓練センターで訓練を体験する学生たち
材料科学工程学院が受け入れた学生31人にも、特別の体験が用意されていた。中国人学生に混じって「大連理工大学第7回金属研磨大会」に出場するチャンスが与えられたのだ。大会は交流大会に合わせて例年より前倒しで特別開催された。2日間かけ研磨の技術と研磨した後、硝酸液でさびをつくり組織がよく見えるどうかを競う。日本人学生31人が参加し、中国人学生と技を競った結果、閉幕式で1等賞6人、2等賞11人、3等賞11人が表彰された。2等賞、3等賞をそれぞれ日本人学生2人が受賞し、1等賞6人の1人に大阪大学工学研究科修士2年生の春日仁希(かすがまさし)さんが選ばれた。「大連理工大学の研究施設の素晴らしさに驚いた。海外で仕事をしたいという意欲が今回の経験でさらに高まった」と、春日さんは授賞式の後、晴れ晴れとした表情で語っていた。
大連理工大学第7回金属研磨大会で1等賞を受賞した春日仁希さん(右から2人目、左は黄明亮大連理工大学材料科学工程学院長)
建設工程学部が受け入れた学生たちが案内されたのは、巨大な橋の模型が並ぶ橋梁実験室と広々としたプールを備えた海動実験室。海動実験室は台風などで生じた強い波や大型船舶が通過する際に生じる波の強さが橋に与える影響などを実験できる。「自分たちの大学にはこんな巨大な実験施設はない」(横浜国立大学生)など、ここでも感嘆の声があがっていた。
大連理工大学国際課によると、参加学生たち行ったアンケートの結果、4割の学生が「大連理工大学に留学してもよい」と回答したという。
関連サイト
大连理工大学70周年校庆公告(第一号) http://70th.dlut.edu.cn/info/1013/1014.htm
大连理工大学70周年校庆公告(第二号) http://70th.dlut.edu.cn/info/1013/1074.htm
関連リンク
日中の人材・機関・連携「大連理工大学金属材料学部日本語強化クラスについて」
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