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【22-29】ゼロコロナ対策の中国における移動制限による業界別の経済的影響

2022年11月01日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 習近平政権3期目が発足した。ゼロコロナ政策が当面継続されると予想されている。ゼロコロナ政策により経済活動は停滞しているが、具体的に各産業でどのような影響を受けたのかを紹介したい。なおこれを書くきっかけは、筆者が業務の関係上日々多数の中国発非政治的なスタートアップや経済のニュースを読んでいるなかで、こと最近の企業や業界記事で頻繁に「コロナの影響で業績が不調」という記載があるので、まとめてみようと思った次第だ。

 ゼロコロナ対策は地域で程度の差があり、北京や上海をはじめとした大都市であるほど厳しいという話を聞く。多くの中国全土に展開する企業で大都市からまずは展開していることもあり、ニュースにおいてもこうした都市での感染拡大によりマイナスの影響が出たとしている。

 移動が制限されたことから観光業や飲食業や運輸業をはじめ各種産業に大きな悪影響が発生した。特に長期間ロックダウンとなった上海と長春においては、2022年上半期のGDPがマイナス成長となり、上海についてはこれまで一貫して1位だった都市別GDPの座を北京に譲った(第3四半期に再び上海が1位に)。

 ゼロコロナ政策で大きな影響が出ているのがネット大手の「美団(Meituan)」だ。同社は黄色のスタジャンが目印のデリバリー業務のほか、店舗のクーポンや予約や旅行予約などのサービスを行う。デリバリーに関してはゼロコロナ政策下でテイクアウトやデリバリーのニーズが大幅に伸び、より多くの飲食店が生き残りをかけプラットフォームに加入し、店舗数は前年同期比で26.6%増の900万に。また注文頻度も大幅に上がったことからデリバリー事業はゼロコロナ下で大幅に伸びた。ただ都市がロックダウンしてしまうとデリバリーも無力だ。美団の王興CEOによれば「上海や長春ではロックダウンが原因で都市での注文量は9割減となった」という。また同社の店内での予約サービスは不調で、加えて航空券やホテル予約などの旅行予約サービスについても、遠方への旅行を人々が控えている中で前年から不調が続いている。

 飲食は食べに行かなくてもフードデリバリーである程度フォローできる。だが店舗に行かないと支払いが発生しないサービスもある。例えば日本でも増えだしたシェアバッテリーがそうだ。シェアバッテリー大手「怪獣充電」によれば、ゼロコロナにより人的移動が大きく減ったことでシェアバッテリースタンドへの訪問回数が大きく減少した。特にショッピングモールやカラオケ、休憩施設など、長い時間滞在する場所に配置すると充電の頻度があがり売上が上がると言われていたが、コロナで裏目となった。

 同じシェアリングサービスでもシェア(電動)サイクルは、行動可能な地域内を素早く移動できる移動手段として評価されている。中国市民の足となっている電動二輪車もまた売れていて、大手の「雅迪」「愛瑪」「台玲」「新日」「緑源」といった企業は売上げを伸ばし、例えば雅迪は2022年上半期で純利益が前年同期比50%増を記録した。ところが新興のデザインが優れている新興の電動二輪車ブランド「小牛(NIU)」だけは大負けとなり、中国国内でのシェアが縮小した。

 小牛は新しくクールな製品を提案する先進的な企業であり、大都市の消費者であればあるほど評価がよく、販売網も大都市をメインに展開している。ところがコロナにより上海がロックダウンして人々が移動できなくなった上に物流も止まってしまった。中核となる顧客基盤が上海などの一級都市に集中しすぎていたのが裏目に出てしまったケースだ。

 同様に上海など大都市がコロナ対策で動けなくなったことで、流行となる人気の商品にも関わらず在庫がなく商品を補充することができず、深刻な事態になっている企業がある。例えばキャラクターグッズを販売するショップや特定のコンテンツをテーマにしたレストランなどを展開する「潮玩星球」がそうだ。同社は北京、上海、広州などに10数店舗とハローキティ火鍋など特定のテーマのレストランを10店舗余り構えた。オンラインで販売するだけでなく、店に行って雰囲気を楽しむニューリテールの店舗だ。しかし厳しい移動制限に加え、倉庫も大都市限定で分散していなかったことで使えなくなり、商品在庫がなくなり補充できなくなった。「2020年のコロナ危機当初はまだ人が動けないこともあったが、オンライン販売で問題を回避できた」と潮玩星球担当者は中国メディアに対しコメントする。上海をはじめとした大都市で厳しい移動制限がかかると流行が止まる。

 コロナ対策で恩恵を受けるはずのネットワークカメラ大手のHIKVisionや、温度センサーカメラ最大手の達実智能もゼロコロナの影響で機器調達の遅延が発生し影響を与えたという。また不動産業界が不調であることから建設が進まないことも拍車をかけたという。

 まとめると、店に行かないと利用できないシェアバッテリーやレストラン予約サービスが大きく影響を受けた。一方飲食や小売は来店でのサービスは不調だが、ネット販売である程度カバーできた。しかし流行の最先端の上海がロックダウンしたことで、上海でまず展開する企業は、上海に倉庫や物流などのリソースを注力したため、モノ不足や需要不足になってしまう事態となった。「風が吹けば桶屋が儲かる」とは言うが、ゼロコロナ政策は様々な業界に影響を与え、また、今後しばらくはこうしたリスクが発生する。

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