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【22-41】米国に阻害された中国の半導体。それでも自動運転車の開発は続く

2022年09月12日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 中国の半導体業界に試練が訪れている。米国が様々な規制を課しているためだ。

 まず米国は8月15日に半導体や電子機器の設計作業を自動化する「EDA(IC設計自動化ソフトウェア)」について対中国の輸出規制を発表した。さらに8月31日にはnVidiaのAI向けハイエンドチップ「A100」やAMDの同種の製品について中国への輸出停止命令が報じられた。文字通りEDAの輸出規制が起きれば将来的にチップ設計が難しくなり、AI向けハイエンドチップの輸出規制により中国の各業界でのAI活用が進まなくなる。

 これについてもう少し細かくどういう影響があるかを解説していくが、結論からいえば影響の一つとして自動運転車の開発に黄色信号が点灯したといえる。

 まず中国では急激にチップへのニーズが高まりIC産業の規模が増している。中国半導体協会のデータによると、2021年の中国のICチップ製造業の売上高は前年同期比24.1%増の3176億元となっていて好調だ。去年は世界的なスマートフォンへのニーズと世界的な新型コロナウイルス感染拡大からスマートフォン向けチップの供給不足が話題となった。一方でスマートフォンの売上は世界的な需要低下から落ち込みチップは値崩れを起こし、スマートフォン向けのチップの製造企業は軒並み危機を迎えている。一方でIoT家電向けの低価格チップと自動運転車やスマートカー向けの高性能チップはニーズがあり、中でも中国各地での自動運転車の商用化を目指す中で、旺盛な需要が引き続き発生している。

 自動運転車はAIなくして実現できない。中国の五カ年計画などの中長期産業計画においても記載されていて、例えば国家発展改革委員会などが発表した2025年と2035年までのスマートカーの産業計画「智能汽車創新発展戦略」ほか、国務院発表の陸海空の交通計画「現代総合交通運輸体系発展に関する第14次五カ年計画」においても自動運転にAIやビッグデータやブロックチェーンを活用していくと強化ポイントが書かれている。市や省のレベルでも中長期計画が発表されていて、上海市が発表した「新型データセンター"算力浦江"行動計画(2022~2024)」でも、「データセンターが工業、金融、医療、車などの重点産業のAIニーズに応える」旨が記載されている。

 9月初めに開催された中国のAIに関するフォーラム「世界人工智能大会」において、検索サービスで知られる百度(Baidu)が自動運転車について紹介している。同社はAI研究開発に社運をかけていて、自動運転テストを中国企業の中でも頭一つ抜けて数多く行っており、中国企業の中では米国企業に迫る勢いの実力がある企業だ。もちろんAIは自動運転向けだけではないが、自動車業界は最もAIが必要とされている業界のひとつである。例えば中国各地ではAIの計算に特化したデータセンターが続々と建設されている。そのうちのひとつ、湖北省武漢に位置するAIコンピューティングセンターについて、「東風汽車グループと提携し、無人運転車やコネクテッドカーの様々な業務向けにデータを提供する(長江日報)」だという。

 中国政府が委託する中国汽車工程学会が2021年1月に発表した「エコとエコカー技術路線図2.0」では、自動運転車の普及予測として、「2025年にはL2(自動運転レベル2)、L3(同レベル3)の売上が全体の50%、そして運転の主体が人から車になるL4(同レベル4)も販売が開始されると目標を暗示している。また2030年にはL2、L3の売上が全体の70%、L4は20%、高速道路で実用化され、スマート道路インフラとの提携によるL4、L5(同レベル5)を中国の広い範囲で実現」としている。より高度で完全な自動運転を目指すには、車とデータセンターともにより高度な処理能力が必要となる。

 このように中国が進める自動運転車が普及する前提として米国の各種チップに依存していて、米国の方針により大きく影響を受ける状況にある。そのため中国はチップの自給率を高め、米国主導の国際技術への依存から脱却することが急務という業界の共通認識がある。

 では、中国のAIチップは作れるのかというと、既に百度の「昆侖」やアリババの「含光」をはじめ、大小さまざまな企業の中国産製品が続々と登場している。その中には外国のライセンスに触れず、外圧があっても自国内で生産できるチップもある。だが、世界的最先端のチッププロセスは5nmに達しているのに対し、中国の最先端でも14nmと2、3世代遅れている。中国が世界最先端レベルに追いつこうとするとEDAでひっかかる。

 2019年6月に中国版ナスダックと呼ばれる「科創板」が上海証券取引所に開設されて以来、チップ関連企業が続々と上場し資金を調達している。2019年から2021年にかけて、チップ関連企業51社が上場に成功し、その多くを占める43社が科創板に上場した。2022年上半期には、上場したチップ企業の中では割合としては少ないながらもEDAの企業「華大九天」も上場した。米国大手と比べると技術力に差はあるが、資金力を武器に研究開発を進めていく。世界の半導体産業の発展を振り返ってみると、チップ自給率は短期的には大幅に向上せず持続的かつ長期的な努力が必要であるとは言われている。

 中国が米国の圧力を受けたのは、今回の件や、去年のファーウェイのスマートフォン向けチップの件だけではない。かつて中国が輸入に依存していた赤外線センサーが米国の制裁で輸入できなくなる事態になった。2008年に高徳という企業(地図の高徳とは別の企業)が開発をはじめて8年で20億元をかけ国産化赤外線センサーの量産にこぎつけた成功例がある。先に紹介した上海の「新型データセンター"算力浦江"行動計画」においても、「中国産の処理能力を2024年までに50%以上にする」という目標を掲げる。全く足踏みするわけではなく先が真っ暗になるわけでもなく目標達成に向けて徐々に技術力をつけていく。

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