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【22-18】中国の情報化に関する第14次五カ年計画を読み解く

2022年07月06日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 2021年から2025年までの目標が記された「第14次五カ年計画(十四五)」が各分野で発表されている。筆者が見ているのはIT関連の文書のみではあるが、IT関連でも既にいくつか発表されている。ここではIT関連の第14次五カ年計画の中でも2025年までの情報産業に関する強化ポイントを定めた「"十四五"国家信息化規劃(国家情報化に関する第14次五カ年計画)」を紹介していく。これは数あるIT系五カ年計画でも幅広く目標を明記しているものであり、ボリュームもかなり多い。

 この計画は2016年に発表された、つまり第13次五カ年計画のタイミングで出てきた、「国家信息化発展戦略綱要」をベースに発表されたものだ。この綱要において、「2025年までに、強いネット大国を構築する目標を実現すべく、高度なテクノロジー、先進的な産業、主要なアプリケーション、および破壊不可能なネットワークセキュリティを実現する」と書かれている。これを踏まえた計画である。今後は「"十四五"国家信息化規劃」をベースにより細かな各業界での第14次五カ年計画が発表される(既にいくつか発表済み)。

 これを読めば中国がITに関してどの方面を強化するのかがわかり、2025年の中国のIT環境や普及率を予想できる。ただし中国の民間企業が斬新な新サービスをローンチしたり、米国などが斬新なサービスやローンチしたりテクノロジーを活用したりした場合は、この計画とは関係なくIT業界の中で参入する企業が登場し、新サービスが普及していく可能性がある。

 まず数値目標は以下の数値をあげている。最後を除いていずれも2020年の現状と2025年の目標数値だ(最後は2019年の数値と2025年の目標数値)。

・インターネット利用者は9億8900万人を12億人へ

・5Gの普及率を15%から56%へ

・1GB以上の光接続利用戸数を640万戸から6000万戸に

・IPv6アクティブユーザー数を4億6200万人から8億人へ

・EC市場額を11兆7600億元から17兆元へ

・ハイテク企業数を27万5000社から45万社へ

・全面的に業務のデジタル化を行った企業の割合を48.3%から60%へ

・企業の工業設備のIoT化率を13.1%から30%へ

・電子社会保障カードの普及率を25%から67%へ

・1万人あたりの次世代IT発明特許件数を2.7件から5.2件へ

・全社会固定資産投資額におけるITプロジェクト投資の割合を3.5%から5.8%へ

 計画ではジャンルごとに目標を紹介し、大きく「デジタルインフラの強化」「デジタル技術開発」「デジタル経済発展」「デジタル社会推進」「デジタル政府の能力向上」「デジタル民生保証能力の向上」に分けている。

 デジタルインフラの強化については、主に5Gやそれに伴うIoT機器の普及、さらにはGPSに対抗する北斗との連携を目指すものだ。5GのIoT機器をインフラや公共施設や生産現場で進め、感知を増やす。インフラで挙がっているのは車と道路インフラ双方によるコネクテッドカーや自動運転車活用や港湾のスマート化、それに電力のスマート化などだ。自然管理など北斗やドローンやネットワークカメラを活用し、陸海空で管理できるようにする。5Gを普及させながら6Gの仕様を見極める。

 デジタル技術開発については、外国に依存しているIC、基礎ソフト、材料、基幹部品などの技術強化であり、中国産による外国製依存からの脱却を目指す。デジタル経済発展については、企業主体の研究開発の推進や、新技術の標準化、農業、物流、加工、販売のデジタル化やDX化、それにデータを販売できる環境の整備が挙げられる。

 「デジタル社会推進」「デジタル政府の能力向上」「デジタル民生保証能力の向上」についてはひとまとまりで解説する。まず様々な手続きについてオンライン化により市民の手間を減らす。また博物館や観光地をはじめた文化事業について5G、VR、AR、人工智能などを活用しオンラインコンテンツ化を進める。また教育や医療のデジタル化により地域格差をなくすことを目指す。これは新型コロナウイルス感染拡大により、リモート医療やリモート教育が実際できている段階だということが実証された。

 デジタル政府やデジタル社会でどうしてもつきまとうのが「監視」的な側面だ。今は各地がそれぞれスマートシティを運用しているが、これとは別に各地域がオープンデータを用意し、各地域のデータを合わせビッグデータとして予測分析を目指すという。また政策決定センターを各都市につくり、食の安全や病気や自然災害や物流などのリスク管理を強化し、早期発見と対処能力の向上を目指す。さらにはAIを都市管理に導入する社会実験を行うプロジェクトが挙がっている。ちなみに本計画では何度となくオープンデータとビッグデータ活用が書かれていて、オープンデータだけでなく、提供を受けたネットの検索データや、ECのデータ、SNSのビッグデータのビッグデータ活用の記載もある。またビッグデータの研究強化や、ビッグデータ処理用のデータセンター建設なども本計画では挙がっている。さらに工業和信息化部から「ビッグデータ産業発展計画("十四五"大数据産業発展規劃)」が発表されている。

 総括すると、5Gを普及させつつ6Gを見据え、ARやVRやIoTなどの普及をバックアップし、中国の弱いチップ産業などの研究開発を強化する。スマートシティで監視を強化しつつ、市民には各種証明発行などの利便性を高めるというのは、これまでの中国のIT政策の延長であった。それに加えて各地オープンデータと、できれば民間のネット企業の利用データを加え、ビッグデータとして活用してリスクに備える、というのは一歩踏み込んだ感がある。AIを都市管理に導入する社会実験を行うプロジェクトも挙った。大きな都市や国のある事業でのリスク検知が自動化されてリスクをピックアップされるという、例えるならソフトウェアにより自動で書き込みがふるいにかけられ最終的に人の手で行うネット検閲のようなものが、より大規模で行われる可能性がある。

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