Ⅵ. がん
がんの領域では中国はまだ弱いが、伝統的な漢方薬を基にした抗がん剤の研究、大きな人口規模を活用した疫学・コーホート研究などで進展が見られる。この領域では米国と欧州がほぼ互角で競争しているが、米国の方がより強い。日本は研究水準では欧米と近い位置にあるが、技術開発水準や産業技術力では欧米と相当の距離がある。韓国と中国は、そ の日本からも離されている。
中国では肝炎ウィルスの感染率が高いことから、臨床応用の側面に重点を置いた研究が行われている。
抗ガン剤の研究では伝統的な漢方薬を基にした研究が進行しており、注目される。また、前骨髄性白血病の治療などでは世界をリードしている。
ガンの免疫療法の分野ではp53アデノウィルスを世界で初めてガン遺伝子治療薬として商品化したように、バイオ産業力をつけてきている。臨床試験の規制も比較的少ないこともあり、多 数の臨床試験が速いスピードで実施されており、その質も向上し、産業化に重要な臨床開発能力が上昇している。
疫学・コーホート研究では米国のNIHの資金的援助により、上海の男子集団を対象とする研究(1986年)林県の食道ガン研究(1985年)などの伝統がある。1 997年からはNIHの支援による上海の女子集団の研究が開始されている。人口規模が大きいため、アジア地域を代表する超大規模なゲノムコーホート研究の展開も可能と考えられる。
ゲノム配列決定の能力は高く、HapMapプロジェクトに参加し国際貢献を行っている。最近では黄色人種の全ゲノム塩基配列決定を完成させようとしている。
ガン治療関連では米国や欧州で教育・修練を受けた放射線腫瘍医や医学物理学者が増え、また、陽子線治療装置も稼働しており、研究水準は全体として向上している。