【21-056】CO2からデンプンの人工合成を実現
JST北京事務所 2021年11月26日
中国科学院天津工業生物技術研究所は9月24日、中国科学院大連化学物理研究所と協力し、国際的に初めてCO2からデンプンへの人工合成を実現したと《サイエンス》誌で発表した。
論文リンク:science.org/doi/10.1126/science.abh4049
中国科学院天津工業生物技術研究所は2012年に設立され、2015年からCO2からデンプンへの合成のプロジェクトを稼働して6年間をかけて実験室で人工的にデンプンを合成することに成功した。今回発表した人工合成技術は、トウモロコシによるデンプン合成と比べ速度は8.5倍、エネルギー転化効率はトウモロコシの3.5倍で自然植物より合成効率が高い。下記は今回発表された人工合成プロセスである。
CO2からデンプン人工合成までのプロセス
人工デンプン合成プロセスは下記の4段階に分ける。
第1段階:CO2からC1の炭素化合物CH3OH、CH2O2に等に転換する。この部分は光反応と非光反応に分けられる。
《光反応部分》
▲光エネルギーを電子半導体材料によって電気エネルギーに転換する。
▲水分子を触媒の影響の下で酸素と水素に電気分解して還元性の強い水素を得る。
《非光反応部分》
△CO2分子がH2あるいは電極表面の電子に還元されCH3OH、CH2O2等の液体形で光エネルギーを電子エネルギー経由で最終的に化学エネルギーとして保存する。
第2段階:新重合酵素を利用してポリマー反応原理によるC1の炭素化合物からC3炭素化合物への酵素酸化還元反応(非光反応)
第3段階:C3炭素化合物からC6炭素化合物へのカップリング反応(非光反応)
第4段階:C6炭素化合物からCn炭素化合物への重合反応(非光反応)
この4段階の反応が設計とおり行わせるため研究員は下記の課題を解決した。
1)光エネルギーの転化;半導体材料による太陽光エネルギーを電気エネルギーと化学エネルギーへ転換。
2)電気電解による水分子から酸素と水素の作成;光エネルギーあるいは電気エネルギーを利用し光(電気)触媒で水分子を電気分解して酸素と水素を作成。
3)CO2分子の還元反応;電極表面の電子あるいはH2分子の還元力によるCO2分子から液体C1炭素化合物(ギ酸、メタノール等)への生成。
4)C1炭素化合物からC3炭素化合物への酵素酸化還元反応。
5)C3炭素化合物からC6炭素化合物へのカップリング反応とC6炭素化合物からCn炭素化合物への重合反応。
上記の課題の中でも一番難しく重要なのは、C1炭素化合物からCn炭素化合物まで反応できる酵素触媒を作り探すことである。
自然界において、植物はCO2からデンプンを合成するまで約60回の反応を通じてデンプンを合成するが、天津工業生物技術研究所では人工デンプン同化経路(Artificial Starch Anabolic Pathway, ASAP)を開発して11回の反応でデンプンを合成することができた。天津工業生物技術研究所は動物、植物、微生物等の31のさまざまな種の62に及ぶ生物酵素触媒から10の生物酵素触媒を探して、これらの酵素触媒を利用した6,568の生物学的反応から一番効率的な11個の反応方法を探してC1炭素化合物からC3炭素化合物C3H6O3に転換し、C3H6O3からC6H12O6、更に直鎖デンプンと支鎖デンプンを合成することに成功した。
ASAPの開発は下記の3段階に分けられる。
ASAP1.0:触媒となるさまざまな物種間でのカップリング(適配)問題、熱力学上のミスマッチ、動力学におけるわな等を解決するためにASAP1.0を開発して動物、植物、微生物等の31のさまざまな種から62の新生物触媒酵素を探索。
ASAP2.0:タンパク質工学の改変手段を使ってASAP1.0中の三つの重要な速度制限エンジニアリングについて改善を行い、速度制限活性が低い問題、補助因子抑制問題、ATP競争等の問題を解決の上、生物触媒の使用量を44%削減、デンプンの生産率を13倍に向上させた。
ASAP3.0:CO2からメタノールへの化学還元反応と多酵素生物反応をカップリングする方法を通してASAP3.0を開発した。ASAP3.0は反応時間と空間分離を最適化する方法で反応途中基質競争問題、産生物抑制問題、中間産物毒性等の問題を解決し、生物化学連合反応システムを構築して直鎖デンプンと支鎖デンプンのコントロール合成ができ、デンプン産出率が10倍となった。
ASAPで合成されたデンプンの構成と自然植物デンプンの構成をMRIで分析した結果、人工合成デンプンは自然植物デンプンと構成が類似している。
MRI分析から人工合成デンプンの構成が自然植物デンプンの構成に近いことがわかる
ASAPでデンプンを構成するもう一つのメリットはCO2からデンプンへの合成時間を遥かに短縮して植物が2~3か月を経て合成できるデンプンを実験室ではわずか数時間で完成できる。
今回直接CO2からデンプンへの人口合成エンジニアリングの開発はCO2をデンプンに転換することを通じて地球温暖化問題を解決するだけでなく、世界中の食料問題も解決する可能性もあるので中国科学技術業界では「0から1への突破」(無から有を生み出すことによるイノベーションのブレイクスルーであることの例え)だと評価している。
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