【22-022】「東数西算」プロジェクトについて
JST北京事務所 2022年04月21日
概要
2022年2月17日、中国国家発展・改革委員会(マクロ経済・産業政策を統括する国家行政機関)ハイテク局は、8カ所の国家コンピューティング中枢拠点と10カ所の国家データセンタークラスターの全体的なレイアウト設計を終え、「東数西算」プロジェクト[1]としての全面的な実施を承認したとの発表を行った。
中国においても年々コンピューティング需要とそれに伴う電力需要が増大しており、それは特に中国沿岸部(東部)に偏在している。これを比較的再生エネルギー電力(風力・太陽光・水力発電等)が豊富な内陸部(西部)で分担することにより、コンピューティング電力の需給バランスを改善するとともに、カーボンニュートラルへの対処・国土の均衡ある発展を両立することを目的としている。
中国では広大な国土に偏在する需給バランスを解消するため、これまでも以下のような国家級プロジェクトが実施されてきた。今回立ち上げられた「東数西算」は、デジタルデータとその演算処理の偏在解消プロジェクトとなる。
「南水北調」:南部(主に長江)の水を北部に調達(移動)。
「西電東送」:西部の電力を東部に送電。
「西気東輸」:西部の天然ガスを東部に輸送。
「東数西算」:東部のデジタルデータを西部で演算(西部の再生エネルギーを使用促進)
中国政府は、農業時代には水力が、また工業時代には電力が産業発展の土台となっていたことと同様に、デジタル経済の発展には国家全体のデジタルデータ演算能力の向上が不可欠であると認識しており、第14次五カ年計画最終年度の2025年までに、デジタル経済の中核産業のGDGに占める割合は10%に至ると予想している。また中国大手プロバイダーのInspurグループ(浪潮(北京)電子情報産業有限公司)が発表した「2020グローバル計算力指数評価報告」では、コンピューティング指数が1%増加する毎に、デジタル経済は3.3‰(パーミル)、GDPは1.8‰増加するとの記載がある。つまりコンピューティング能力が一国の経済状況を測定するためのバロメーターになりつつあることが分かる。
このデジタル経済の発展を促進するために、データセンター・クラウドコンピューティング・ビックデータが一体化された全国的なネットワークシステムを構築することにより、デジタル経済の発展を推進するという政策の実行を開始した。
全体レイアウト
(1)コンピューティング中枢拠点(8カ所)
全国8カ所にコンピューティングに求められるネットワーク資源およびエネルギー資源を集約させた中枢拠点を設け、省エネと東西のデータ流通を促進させる。
またアプリケーションによってレスポンスタイムの許容範囲が異なるため、それぞれの要件に最適なコンピューティング資源の配置を行う。
(レスポンスタイムの許容範囲)
・ 10ミリ秒以内:アプリケーション全体の約5%~10%
ローカルまたはオンサイトで行う必要がある。
・ 10ミリ秒~30ミリ秒:アプリケーション全体の約65%~70%程
ローカルおよびその周辺地域で処理する必要がある。
・ 30ミリ秒以上:アプリケーション全体の約20%~30%程
ロケーションを問わない。
①東部
工業インターネット、金融証券、災害予測・警報、遠隔医療、ビデオ通話、AI等のタイムラグを許容できない業務を処理
・ 京津冀中枢拠点(北京市・天津市・河北省):張家口クラスター
・ 長三角中枢拠点(長江河口デルタ地帯。上海市・蘇州市・南京市・杭州市等15都市):長三角生態グリーン一体化発展モデル区クラスター、蕪湖クラスター
・ 粤港澳中枢拠点(広州市・香港・マカオ):韶関クラスター
②西部
バックグラウンド加工、オフライン分析、ストレージバックアップ等の業務を西部で実施
・ 内モンゴル
・ 寧夏回族自治区中枢拠点:中衛クラスター
・ 甘粛省中枢拠点:慶陽クラスター
・ 貴州省中枢拠点:貴安クラスター
③中部
東部と西部両方の役割を担う。
・ 成渝中枢拠点(成都・重慶):天府クラスター、重慶クラスター
(2)データセンタークラスター(10カ所)
上記8カ所のコンピューティング中枢拠点内に、さらに10カ所の国家データセンタークラスターを設立する。各クラスターは隣接した行政区域に設立され、以下の効果が発揮されるよう機能する。
①データ転送遅延の低減(専用線の設置)
②クラウドサービス使用費用・データ転送費用の削減(合理的な決済システム導入)
③電力供給の保障(再生可能エネルギー発電の増強)
データセンタークラスターがカバーする産業チェーンの範囲は広く、情報通信・再生可能エネルギー産業のみならず、IT設備製造、基本ソフトウェア、土木工事等幅広い産業の発展をけん引し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させることが期待される。
東数西算プロジェクト関連政策の経緯(抜粋)
前述のとおり、中国政府はデジタル経済の発展を重視してきており、主に以下のような経緯をたどり、東数西算プロジェクトが全面的に実施されることとなった。
2016年10月 | 第18回共産党中央政治局第36回グループ学習における習近平総書記の講和において、「全国的に一体化された国家ビックデータセンターの建設」について言及。 |
2017年12月 | 第19回共産党中央政治局第2回グループ学習における習近平総書記の講和において、「天地一体となるサイバー空間を形成するための新生代の情報インフラの構築」が強調された。 |
2018年03月 | 第13回全人代第1回会議における政府報告において、李克強総理から新興産業クラスターの拡大強化およびビックデータ(産業)を発展させる必要性について指摘。 |
2018年04月 | 国家発展・改革委員会主催の関係省庁合同会議において、全国的に一体化されたデジタルインフラ体系を構築する必要性について指摘。 |
2018年~2019年 | 国家発展・改革委員会ハイテク局は2年連続で全国的に一体化されたデジタルセンターの課題研究をシンクタンクに委託。この研究成果として、「東数西算」の構想案が示された。 |
2020年05月 | 第13回全人代第3会議で承認された「2019年国家経済社会開発計画と2020年国家経済社会開発計画案実施に関する報告書」において、全国的に一体化されたビックデータセンターの建設プロジェクトにおいて約10地域程度のデータセンタークラスターを配置することが報告された。 |
2020年12月 | 国家発展・改革委員会、中央ネットワーク情報局、工業情報化部、国家エネルギー局が合同で発行した「全国的に一体化されたビックデータセンター協同イノベーションシステム構築を加速するための指導意見」を国務院が承認。2025年完成目標を明記。 |
2021年03月 | 第13回全人代第4会議で決議された「第14次五カ年計画及び2035年遠景目標綱要」中にも「全国的に一体化されたビックデータセンター体系の構築を加速し、全国的な中枢拠点とビックデータセンタークララスターを構築すること」を明記。 |
2021年05月 | 5/24に国家発展・改革委員会、中央ネットワーク情報局、工業情報化部、国家エネルギー局が合同で「全国的に一体化されたビックデータータ協同イノベーションシステムコンピューティング中枢拠点実施方案」を発行。現行8カ所の中枢拠点を明記。 続く5/26日に貴州省貴陽市で開催された「中国国際ビックデータ産業博覧会」において、国家発展・改革委員会ハイテク局局長出席の下、8カ所の「全国的に一体化されたコンピューティング中枢拠点」建設の開幕式が実施され、「東数西算」が正式に始動。 |
2021年10月 | 国家発展・改革委員会、中央ネットワーク情報局、工業情報化部、国家エネルギー局が合同で「重点領域における省エネと炭素削減を促進するための厳格なエネルギー効率の制約に関する国家発展改革委等部門の若干の意見」を発行。新規に建設される大規模データセンターの電力利用効率(PUE)を1.3以下に抑え、2025までにはデータセンターの電力利用効率を1.5に制限。また新規の大型データセンターは原則中枢拠点クラスター圏内に建設し、圏外に新規に建設される大型データセンターに対して地方政府が土地・財政、税制上の優遇策を講ずることを禁止。 |
2021年12月 | 国務院から「第14次五カ年計画デジタル経済発展計画[2]」を公布。「東数西算」プロジェクトの実施を加速する旨を明記。 |
2022年1月~2月 | 中枢拠点8カ所の各地方政府と国家発展・改革委員会、中央ネットワーク情報局、工業情報化部、国家エネルギー局との間で、中秋拠点建設の合意文書を締結。 |
2022年02月 | 2/17に中国国家発展・改革委員会ハイテク局は、「東数西算」プロジェクトとしての全面的な実施を承認したと発表。 |
今後の方向性(課題)
①適切なコンピューティング資源の調整
コンピューティング資源が少数の大企業に集中してしまい、多くの中小企業の参画が困難にならないよう標準化を進め統合管理するため、各地方政府と引き続き調整が必要。
②各中枢拠点間の接続増強、自立した調整能力の具備
コンピューティング資源(能力)は、これから水や電気、ガスと同じような公共資源となり、コンピューティング資源が必要なところに遅延なく適切に供給されるよう自律的に調整される仕組みを有する必要がある。
既存のネットワーク通信帯域幅は不十分であり、またエネルギー利用効率も低いため、これらを増強・改善する必要がある。
(中国データセンターの電力消費量は2020年に2,000億kWhを超え、社会全体の総電力消費量の2%、電力利用率(PUE)は最高1.49)
これらの問題を解決するため、IPv6およびSRv6によるセグメントルーティングおよびネットワークスライシング技術の活用、効率的な電力供給と配電技術等、「東数西算」プロジェクトの実施に伴う重要技術のブレイクスルーが求められる。
以上
1.中華人民共和国国家発展・改革委員会「東数西算」プロジェクト
2.国务院关于印发"十四五"数字经济发展规划的通知 国发〔2021〕29号