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【21-006】中国の「インターネット取引監督管理弁法」について

2021年06月08日

柳陽

柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表

北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。

事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp

 近年、中国のインターネット取引は急速に発展しており、「ソーシャル・コマース」(SNSを利用した電子商取引)、「ライブコマース」(ライブ配信を利用した電子商取引)等の新しい取引形態も現れ、国内経済の成長や消費の拡大等に大きく貢献している。しかし、取引の急増により消費者の利益を損なうような問題も生じ、インターネット取引をより規範化する必要性が顕在化した。こうした中で、中国の国家市場監督管理総局は 2021 年 3 月 15 日、「インターネット取引監督管理弁法」(以下「本弁法」という。)を公布し、同法は同年 5 月 1 日から施行された。本稿では、本弁法の主な内容を紹介することとする。

1. 立法の目的

 本弁法は、計 56 条で構成されており、インターネット取引活動を規範化し、インターネット取引の秩序を保護し、各当事者の合法的な権益を保障し、デジタル経済の持続的かつ健全な発展を促進することを目的としている(1条)。

2. 適用範囲

 本弁法の適用範囲は以下のとおりと規定されている(2条)。

・ 中国国内でインターネット等の情報ネットワークを通じて商品を販売し、又はサービスを提供する経営活動

・ 市場監督管理部門による監督管理

・ ソーシャル・コマース、ライブコマース等を通じて商品を販売し、又はサービスを提供する経営活動

3. インターネット取引事業者とは

 本弁法は、主にインターネット取引事業者に関する義務を規定している。

 ここでいうインターネット取引事業者とは、インターネット取引活動を組織し、展開する自然人、法人及び法人以外の組織をいい、インターネット取引プラットフォーム事業者、プラットフォーム内事業者、自らが構築したウェブサイトの事業者、及びその他のネットワークサービスを通じてインターネット取引活動を行う事業者を含むこととされている(7条1項)。

4. インターネット取引事業者の主な義務

(1)  登記義務

 登記を行う必要がないとされる事業者を除き、インターネット取引事業者は、法律に基づき市場主体登記を行わなければならない(8条1項)。

 ただし、個人がインターネットを通じて清掃、洗濯、縫製、理髪、引越し、鍵製作、配管、家電・家具の修理・メンテナンス等の業務に従事する場合、及び個人の年間累計取引総額が10万元以下の場合は登記義務を免除する(同条2項及び3項)。

(2)  安全・公序良俗

 インターネット取引事業者が販売する商品又は提供するサービスは、人身、財産の安全保障にかかる基準及び環境保護にかかる基準に適合していなければならず、また、インターネット取引事業者は法律、行政法規により取引が禁止され、国・公共の利益を損害し、若しくは公序良俗に違反する商品又はサービスを販売し又は提供してはならない(11条)。

(3)  継続的表示義務

 インターネット取引事業者は、そのウェブサイトのトップページ又は事業活動を行うホームページの目立つ位置に、当該事業者の登記情報等又は当該情報のリンク先を継続的に表示しなければならず、また、公表した情報に変更が生じた場合、10営業日以内に更新しなければならない(12条)。

(4)  個人情報保護

 インターネット取引事業者が消費者の個人情報を収集・利用する際は、合法性、正当性、必要性の原則に従い、情報の収集・利用の目的、方法、範囲を明示し、かつ、消費者の同意を得なければならず、法律、法規の規定及び双方の合意に違反して情報を収集、使用してはならない(13条1項)。

 また、インターネット取引事業者は、一括的な授権や黙示的な授権、使用・インストールの停止等の不当な方法により消費者の同意を強制的に取得し、事業活動に直接関係のない情報を収集・利用してはならない。

 さらに、インターネット取引事業者が、個人の生体に関する情報、医療健康、金融口座等のセンシティブな情報を収集・利用する際には、逐一消費者の同意を得なければならない(同条2項)。

(5)  不正競争の禁止

 インターネット取引事業者は、不正競争防止法等の規定に違反して、市場競争の秩序を乱し、他の事業者又は消費者の正当な権益を害する不正競争を行ってはならない。また、取引記録の偽造、ユーザー・レビューの捏造、虚偽のマーケティング等の手段により、す虚偽又は誤認を招く商業宣伝を行い、消費者を欺いたり、誤認させたりしてはならない(14条)。

(6)  抱き合わせ販売等の制限

 インターネット取引事業者は、抱き合わせ販売又は複数の選択方法により、消費者に商品を販売し、又はサービスを提供する場合は、目立つ方法により消費者に注意を促さなければならず、抱き合わせ販売又は特定の商品又はサービスの選択を、消費者が黙示的な方法により同意するように設定してはならない(17条)。

(7)  情報提供義務

 インターネット取引事業者は、商品又はサービスの情報を全面的に、偽りなく、正確かつ適時に開示し、消費者の知る権利と選択権を保障しなければならない(19条)。

(8)  インターネット取引事業者による約款等

 インターネット取引事業者が消費者に商品又はサービスを提供する際に、約款等を使用する場合、消費者と重大な利害関係がある約款等の内容については、顕著な方法で消費者の注意を喚起し、消費者の要求に応じて内容を説明しなければならず、かつ、その約款等には、自らの修理、交換、返品等の責任を免除し、又は消費者の損害賠償請求権等の権利を排除するような内容を含ませてはならない(21条)。

(9)  終了時の公示義務

 インターネット取引事業者は、インターネット取引活動を自ら終了する場合、遅くともその 30 日前までにそのウェブサイトのトップページ又は事業活動を行うホームページの目立つ位置に、インターネット取引活動を終了する公告等の関連情報を継続的に表示し、かつ消費者及び関連する事業者の正当な権益を保証するために必要な措置を講じなければならない(23条)。

5. まとめ

 本弁法は、以上のような規制を定めているところ、2019年1月1日より施行された「原子商取引法」の下位法として、「電子商取引法」を補い、より詳しくインターネット取引を規制するものと位置づけられている(電子商取引法については、別途拙稿「新型コロナ時代における中国越境ECと中国の電子商取引法 」をご参照されたい。)。本弁法は中国向けECを展開する日本企業にも適用されるため、日本企業も今後、本弁法に沿った新しい対応が求められることとなろう。

以上