【22-001】中国における外資参入、さらに緩和―2021年版ネガティブリスト施行
2022年02月28日
柳 陽(Liu Yang):
柳・チャイナロー外国法事務弁護士事務所代表
北京大学、慶應義塾大学法学修士。2006年より弁護士業務を行っており、日本企業の中国における新規投資、M&A、事業再編、不祥事対応、労務及び紛争処理等中国法業務全般を取り扱っている。
事務所ウェブサイトhttp://www.chinalaw-firm.jp
中国の国家発展改革委員会及び商務部は、2021年12月27日、パブリックコメント募集手続を経て、新しい「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2021年版)」を公布し、当該ネガティブリスト(以下「2021年版ネガティブリスト」といい、同様に2020年版を「2020年版ネガティブリスト」という。)は2022年1月1日より施行された。
外商投資参入特別管理措置におけるネガティブリストとは、中国政府が外国からの投資について特別の管理措置を定めたものであり、2017年までは「外商投資産業指導目録」に基づき、外商投資参入分野を奨励類、許可類、制限類、禁止類に分類して管理していた。2017年には、外国投資を制限し又は禁止する分野を示す「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」という用語が初めて採用され、その後、毎年、ネガティブリストが更新されている。その都度、外国資本に対する制限が緩和され、直近の2020年版では、外商投資の禁止分野は2017年の28個から20個に、制限分野は2017年の35個から11個にまで減らされていた。これらの緩和策も、中国政府が公表した第14次五カ年(2021年~2025年)計画に掲げられた「より一層外資を誘致、活用し、(中略)外国投資サービスを全面的に最適化し、外国投資の促進と保護を強化する」という目標に向かっての布石と考えられる。
なお、中国では、上海をはじめ、全国で21個の自由貿易試験区があり、自由貿易試験区向けにはより緩和された内容のネガティブリストが別途適用されているが、本稿では、自由貿易試験区にのみ適用されるネガティブリストは取り上げていない。
1. 重要な改正点
2021年版ネガティブリストにおいて最も重要な改正点は、製造業への規制緩和といえよう。例えば、自動車の完成車の製造について、これまで「専用車、新エネルギー車、商用車を除き、完成車製造の中国側の出資比率は50%を下回ってはならず、また、1社の外国企業は、同種の完成車を製造する合弁企業を2社までならば設立可能である。」という制限[1]が課されていた。しかし、2021年版ネガティブリストでは、当該制限が撤廃され、即ち、100%の外国資本でも自動車製造会社を設立することが可能となり、また、合弁企業は数に制限なく何社でも設立可能となった。
また、衛星テレビ放送の地上受信設備及びその主要部品の製造も、これまで制限されていた[2]が、2021年版ネガティブリストではその制限が撤廃された。
2.その他の留意点
(1) 海外上場とネガティブリスト規制の関係
2021年版ネガティブリストには、引き続き、外国資本による投資が禁止される分野が列挙されている。これらの分野に従事する中国国内企業は、もし海外で株式を発行して上場した場合、(外国投資家は当該株式を取得することにより当該中国国内企業の株主となり得るため、)国家関連主管部門の審査認可を得なければならない。また、外国投資家は当該中国国内企業の経営管理に参与してはならず、さらに、外国投資家の持株比率は、外国投資家の中国国内証券投資管理の関連規定を参照して実施すること[3]が、2021年版ネガティブリストにおいて新たに規定された。
(2)外商投資企業の再投資の場合
2021年版ネガティブリスト前文3条によれば、外商投資企業が中国国内で再投資する際、その再投資もネガティブリストの関連規定に合致しなければならないこととされている。すなわち、外国投資者が中国国内で子会社、孫会社といった複層の会社を設立しても、2021年版ネガティブリストの規制を適用することになるため、注意が必要である。
(3)ほかのネガティブリストとの関係
2021年版ネガティブリストの他に、内外一致の原則に基づき、内資企業及び外商投資企業に共通して適用される「市場参入ネガティブリスト」も存在しており、当該リストにも抵触しないよう事前に確認されたい。なお、前述した自由貿易試験区については、別途自由貿易試験区向けのネガティブリストが適用されるため、2021年版ネガティブリストは適用しないこととなる。
3. まとめ
以上、2021年版ネガティブリストの主な留意点について述べてきたが、当該リストの全文を以下のとおり仮和訳したので参照されたい。今後、中国での新規投資を検討される際には、2021年版ネガティブリストをはじめ、中国の最新の法規制について事前の調査と検討が不可欠と思われる。
番号 | 特別管理措置 |
一、農業、林業、牧畜業、漁業 | |
1 | 小麦の新品種の選択的な育成及び種子の生産は、中国側の持分比率が34%を下回らない。トウモロコシの新品種の選択的な育成及び種子の生産は、中国側が持分支配する。 |
2 | 中国に稀有・特有の貴重な優良品種に関する研究開発、養殖、栽培及び関連する繁殖材料の生産(栽培業、牧畜業、水産業の優良遺伝子を含む。)への投資を禁止する。 |
3 | 農作物、種苗・家畜・家禽、水産種苗の遺伝子組換品種の選択的な育成及びその遺伝子組換種子(苗)の生産への投資を禁止する。 |
4 | 中国の管轄海域及び内陸水域における漁獲への投資を禁止する。 |
二、採鉱業 | |
5 | レアアース、放射性鉱物、タングステンの探査、採掘及び選鉱への投資を禁止する。 |
三、製造業 | |
6 | 出版物の印刷は中国側が持分支配する。 |
7 | 漢方煎じ薬の蒸・炒・炙・焼等の調製技術の応用及び漢方製剤の秘伝処方製品の製造への投資を禁止する。 |
四、電力、熱エネルギー、ガス及び水の生産・供給業 | |
8 | 原子力発電所の建設、経営は中国側が持分支配する。 |
五、卸売、小売業 | |
9 | 葉タバコ、紙巻タバコ、再乾燥したタバコの葉及びその他タバコ製品の卸売、小売への投資を禁止する。 |
六、交通運輸、倉庫及び郵政業 | |
10 | 国内の水上運輸会社は中国側が持分支配する。 |
11 | 公共航空運輸会社は必ず中国側が持分支配し、かつ、1 社の外商及びその関連会社の出資比率は25%を超えてはならず、法定代表者は中国籍とする。一般航空会社の法定代表者は必ず中国籍とし、その内、農林漁業に関する一般航空会社は合弁に限り、その他の一般航空会社は中国側が持分支配する。 |
12 | 民間空港の建設、経営は中国側が相対的に持分支配する。外資側は空港の管制塔の建設、運営には参与してはならない。 |
13 | 郵便会社、信書に関する国内宅配業務への投資を禁止する。 |
七、情報通信、ソフトウェア及び情報技術サービス業 | |
14 | 電信会社は、中国がWTO 加盟時に対外開放を公約した電信業務に限る。付加価値電信業務における外資の持分比率は50%を超えない(電子商務、国内多当事者間通信、データ保存・転送、コールセンターを除く)。基礎電信業務は中国側が持分支配する。 |
15 | インターネットニュース情報サービス、インターネット出版サービス、オンライン視聴番組サービス、インターネット文化経営(音楽を除く)、インターネット一般向け情報配信サービス(中国がWTO 加盟時に対外開放を公約した内容を除く)への投資を禁止する。 |
八、リース、ビジネスサービス業 | |
16 | 中国の法律事務(中国の法的環境の影響に関する情報の提供を除く)への投資を禁止し、中国国内の法律事務所のパートナーになってはならない。 |
17 | 市場調査は合弁に限る。その内、ラジオ・テレビの視聴調査は中国側が持分支配する。 |
18 | 社会調査への投資を禁止する。 |
九、科学研究、技術サービス業 | |
19 | ヒト幹細胞、遺伝子診断及び治療技術の開発・応用への投資を禁止する。 |
20 | 人文社会科学研究機関への投資を禁止する。 |
21 | 測地測量、海洋測量製図、航空撮影測量製図、地上移動測量、行政区域境界線の測量製図、地形図・世界行政区画地図・全国行政区画地図・省レベル以下の行政 区画地図・全国版教育用地図、地方版教育用地図、高精度3D地図及びナビゲーション電子地図の編製、地域的な地質調査図・鉱山地質・地球物理・地球化学・水文地質・環境地質・地質災害・地質遠隔探査等の調査への投資を禁止する(鉱業権者がその鉱業権の範囲内で実施する業務は当該特別管理措置の制限を受けない)。 |
十、教育 | |
22 | 就学前教育、普通高校及び高等教育機関は中外合作に限り、かつ中国側が主導する(校長又は主要な行政責任者は中国国籍を有し、理事会、董事会若しくは共同管理委員会の中国側構成員は2 分の1を下回らない。)。 |
23 | 義務教育機関、宗教教育機関への投資を禁止する。 |
十一、衛生、社会事業 | |
24 | 医療機関は合弁に限る。 |
十二、文化、スポーツ及び娯楽業 | |
25 | 報道機関(通信社を含むがこれに限られない)への投資を禁止する。 |
26 | 書籍、新聞、定期刊行物、音声・映像製品及び電子出版物の編集、出版、制作業務への投資を禁止する。 |
27 | 各レベルのラジオ局、テレビ局、ラジオ・テレビチャンネル、ラジオ・テレビ放 送ネットワーク(電波塔、中継局、ラジオ・テレビ衛星、衛星アップリングステーション、衛星中継ステーション、マイクロ波ステーション、モニタリング局及び有線ラジオ・テレビ放送ネットワーク等)への投資を禁止し、ラジオ・テレビ視聴オンデマンド業務及び衛星テレビ・ラジオの地上受信設備据付サービスへの従事を禁止する。 |
28 | ラジオ・テレビ番組の制作、運営(輸入業務を含む)を行う会社への投資を禁止する。 |
29 | 映画の制作会社、配給会社、興行会社及び映画の輸入業務への投資を禁止する。 |
30 | 文化財のオークション会社、文化財商店及び国有文化財博物館への投資を禁止する。 |
31 | 文芸公演団体への投資を禁止する。 |
以上
1.2020年版外商投資ネガティブリスト8項。
2.2020年版外商投資ネガティブリスト9項。
3.2021年版外国投資ネガティブリスト6条。