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【22-17】「ブレイン」を持つ都市での生活がより快適に

陳 曦(科技日報記者) /厳 晨(科技日報実習生) 2022年08月17日

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画像提供:視覚中国

 中国・シンガポール天津エコシティの「シティブレイン」に今年、スマート気象やスマート医療といったモジュールが加わった。現時点で、エコシティの「シティブレイン」には、建設や環境、医療、教育、介護、緊急時対応といった18分野のデータが集まっている。

 天津市で最近開催された第6回世界知能会議で、中国・シンガポール天津エコシティ(以下「エコシティ」)が世界知能会議の永久展示拠点として一般公開され、スマートキャンパス、スマートガス、「シティブレイン」、北方ビッグデータ取引センター、中国・シンガポールルタオライブ配信拠点、「双智(ダブルスマート)」試行地といった6つのスマート応用シーンが展示された。

 うち、スマートキャンパスやスマートガスといったシーンは、人々の暮らしと密接な関係のあるさまざまな課題を解決してくれる。

スマート教育:的を絞った指導と管理にエンパワーメント

「百年の大計は教育が基本となる」。エコシティは、教育のデジタルトランスフォーメーションとスマート化の高度化推進を加速し続けている。北京師範大学天津エコシティ付属学校では、スマートキャンパス管理システムを既に導入し、スマート技術をキャンパスに応用し、授業の新たな可能性を創出している。

 同校はスマート技術や製品を活用し、「スマート教室」を打ち出しており、学生はタブレットPCを使って、教員と効率よく交流できる。また、デバイスは授業の全てのシーンをリアルタイムで記録し、終了後に授業レポートを作成し、教員による授業の効果分析をサポートしてくれる。教員は各学生の授業ぶりに基づいて、それぞれに合った補習を行うことができ、ケースバイケースの的を絞った教育を実現している。

 学生の間で最も人気を博しているのが「VR/AR教室」だ。VR一体機は、バーチャルリアリティ技術を総合的に活用し、学生は限りあるスペースにおいて、ヘッドマウントディスプレイ、コントローラー、ロケータといったデバイスを通して、火星探査や細胞の世界、地球の構造などをリアルに疑似体験でき、現実の授業では実現できない教育シーンが作り出されている。

 同校教師の劉垚氏は、「『VR/AR技術』を活用して、授業中の各種抽象的な問題を具象化することができ、バーチャルを現実に変え、授業においてリアルで直観的な教育シーンを作り出し、授業の内容のバリエーションを増やすことができる。このような没入型の科学の授業を通して、学生はより五感を使った体験をすることができ、その環境における主役となって、科学の授業で自分の価値を見出し、科学独特な魅力を存分に感じることができる」と説明する。

 同校教師の李鉄彪氏は、「当校は、体育の授業でもスマート教育設備を導入している。例えば、学生が腕に装着した『スマートアームバンド』を通して、心拍数のデータを自動で収集し、学生が安全に運動できるようリアルタイムで監視することができる。また、心拍数グラフを通して、学生の運動強度が予定のレベルに達しているかを見て、授業設計が合理的か、学生の心肺能力、筋肉の力、柔軟性といった身体能力の強化が必要かなどを判断することができる」と説明する。

 スマート技術のサポートの下、同校の管理も余すことなく「スマート」化が実施されている。「デジタルツインキャンパス管理プラットフォーム」は、デジタルツイン技術をモノのインターネット(IoT)と組み合わせることで、校内ではスマート授業、スマートエネルギー管理・コントロール、キャンパスセキュリティ・保護といったシステムを一体化しているほか、校外のエコシティスマートブレインと接続して、学校の可視化した正確な管理にエンパワーメントしている。

スマートガス:より安心なガス供給を実現

 ガスの供給において、安全が最重要となる。都市のガスの安全レベルを向上させるため、エコシティは、IoTデバイスやクラウドコンピューティング技術を活用して、スマートガス安全運営管理プラットフォームを構築している。

 エコシティは元々あるガスセキュリティ・保護建設を踏まえ、ガス工場、ガス管渠、ユーザー端末という3大シーンにおいて、スマート応用を高度化し、トポロジーモデルを構築して、3大シーン全てをカバーし、安全チェックの「死角ゼロ」を実現している。

 天津エコシティエネルギー投資建設有限公司の趙楊副社長は、ハードウェアのアップデートを例にして、「エコシティは、ガス工場やガス管渠、ユーザー端末に、それぞれレーザー気体検知器や室内ガス検知器を配備した。うち、レーザー気体検知器は、高精度、高い安定性、全天候型という特徴があり、突発的なトラブルが発生すると、そのデバイスが1秒以内に反応する。反応の精度は99.9%に達する。修理員が15分以内に現場に駆けつけて修理を行うことができる」と説明する。

 ガス管渠の検査において、エコシティは、「ガス安全サポーター」として、スマートガスパトロールカーを導入している。エコシティは、商業施設や住民のユーザー端末に新世代無線送信気体センサーを取り付け、「メーター--測定--バルブ--プラットフォーム--ユーザー」のクローズドループ連動を実現し、ガスの安全な使用を確実に保証している。

 ガスの安全ガバナンスにおいて、エコシティは、「点--線--面」の三重案を採用し、人工知能のアルゴリズムを通して、エリア全体のガスの状況を分析し、故障識別を行うほか、ガスの総合監視、早期警戒、ガバナンスプラットフォームを構築している。そして、点検車や手持検査デバイス、流動レーザー気体検査施設などを活用して、都市のガス管渠をリアルタイムでモニタリングして、故障を洗い出している。このほか、住宅や業者に気体センサーを取り付け、全域で多次元のガス漏れデータプラットフォームを構築し、スマートガスのオールカバーを実現している。

 スマート化管理の面を見ると、ガス会社、業界の主管機関、「シティブレイン」の3レベルの機関は、スマートガス管理の3レベルプラットフォームとして、スマートデバイスやIoT技術を活用して、情報共有を実現している。突発的な状況が発生した場合、プラットフォームは、「シティブレイン」の緊急時指揮を通して、発見から管理、ガバナンスまでのクローズドループを実現している。

「シティブレイン」:痒い所に手が届く都市管理が実現

 スマート教育にしても、スマートガスにしても、「シティブレイン」と密接に連結している。4年連続のモデルチェンジ、アップデートを通して、エコシティは、「ブレイン」のスマートモジュールのバリエーションを増やし、「シティブレイン」の実用性を強化している。

「シティブレイン」に今年、スマート気象やスマート医療といったモジュールが加わった。現時点で、エコシティの「シティブレイン」には、建設や環境、医療、教育、介護、緊急時対応といった18分野のデータが集まっている。

 スマート医療モジュールを例にすると、「シティブレイン」は、医療健康データをリアルタイムで分析し、遠隔診療システムを通して、住民は自宅近くのコミュニティ衛生サービス施設で、エコシティ病院やニュータウン病院の医師の遠隔立会診察を受ける予約をすることができる。このほか、「健康小屋」は、住民を対象に、血圧測定や血糖値測定、血液における酸素飽和度測定、心理アセスメントといった医療サービスを提供することができ、住民は便利なスマート医療を体験することができる。

 新しいモジュールを増やし続けているほか、エコシティは、「シティブレイン」において、インテリジェントビジョン、スマート音声、IoT、ドローンといった4種類の都市ツールボックスを設置し、職能別部署に統一されたスマートサービスを提供している。

 エコシティスマート都市運営センターの責任者・王亮氏は、「各職能別部署は、関連のニーズを『シティブレイン』運営センターにフィードバックし、センターが統一して任務を遂行することにより、ツールボックスの能力を増強している。そうすることで、都市ガバナンスの効率が向上している」と語る。

 エコシティはデータセキュリティという問題も考慮に入れている。データの安全性を保証するために、「セキュリティブレイン」が今年、正式にリリースされた。「セキュリティブレイン」は、豊富なドメイン情報バンクや世界唯一のサンプルバンク、高いAPT攻撃に対する防御力、高い脆弱性分析能力など、複数の面で優位性を誇り、「シティブレイン」の安全な運営を全力で守っている。

 エコシティ管理委員会の楊勇副会長は、「当委員会は毎年、住民がスマート応用の分野において何に注目しているかを調べ、住民の意見をまとめて、スマート応用シーンを打ち出している。世界知能会議永久展示拠点の正式な発足につれ、エコシティは今後、『人々の幸福感を向上させ、企業のスムーズ感を増強し、政府の管理効率・能力を強化する』ことに着眼し、さらに多くの応用シーンの実施を加速させるほか、スマートシティ建設やスマートテクノロジー産業の発展推進を加速させ、スマートな未来を切り開いていく計画だ」と語る。


※本稿は、科技日報「城市有大脳 生活更美好--世界智能大会永久展示基地紀実」(20722年7月4日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。